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守霊界変  作者: クロガネガイ
第一部
54/145

接敵

 コツ…コツ…と何者かの足音が洞穴に響く、誰かはわからないがここが敵のねぐらである以上敵の足音であるのは明白だった。それがドルフィネのものなのかカイザのものなのか…どちらかはいまのところわからないといった状況だった。


「シンリーさん、覚悟はいいですか?」


「無論じゃて、ここまで来て引きさがるほど怖気ずいておらぬわ」


「わかりました。では、敵が誰か確認したのち直ちに戦闘に入ります。もし、敵が人形を抱えた男の場合はこちらの魂を奪う技を使用します。それが完成しきる前に詠唱の妨害をお願いします」


「任せるのじゃ」


 ざっくりと作戦会議をして敵との戦闘に備える。シンリーさんには敵がドルフィネだった場合の対処について念をおしたが相手がカイザであっても厄介この上ない。だが、敵の使用する技で詠唱完了とともにこちらの負け…すなわち死につながる技を持つドルフィネを警戒するのは最もなことだった。カイザの使用する昏倒させる技も仕組みがよくわからないため強力なのだが一度その技から目覚めている以上、どうにかなると考えてしまっていた。だが、いずれにせよどちらの技も受けていてはほぼ負けなのだ。だから、敵がそれらを使う暇がないように連撃で押し切るってのが今回の作戦だ。攻撃は最大の防御とは言い得て妙だが今回ばかりは攻撃し続けないと一撃でやられてしまう…だから攻撃し続けるしかないってところだな。他にできることもあるだろうがこれが一番シンプルでわかりやすい。あれこれ考えを巡らせるより簡単なことだな。


「もうそこまで来ておる、合図はまかせるのじゃ」


「はい」


 開けた空間へ誰かが入ってきた。薄暗いためかまだ誰かはわからない。徐々にそれがこちらに近づいてきてようやく誰か認識できた。そいつは死人のように顔の青白い男…霊干渉者ダイスト霧生梨衣ミスティさんの愛する人…カイザだった。


「まさか、あの牢から抜け出るものがいるとは…思いもしなかった」


「シンリーさん」


「うむ、もう奴は儂らが牢から抜け出していることを知っているようじゃの」


「さぁ、隠れていても時間の無駄だ。大人しく牢へと戻ってもらおう。貴様らの価値はほとんどないのだがドルフィネが新しい駒にすると言って聞かないのだ、下手に傷つけるようなこともしたくない。顔を出すだけでいい、さすれば心地の良い眠りを提供しよう」


「シンリーさん援護射撃、頼みます」


「うむ。お主も油断するでないぞ」


「はい。では、行きます」


 シンリーさんには洞穴の窪み…カイザからは見えない位置に姿を隠してもらっている。ここで二人ともの居場所をばらしてしまうと一網打尽になってしまうからな。奴もできる限り穏便にことを済ませたいようだしまたあの昏倒させる技をだしてくるだろう。不意打ちとは卑怯かもしれないが俺らは神聖な一騎打ちをしているわけではないんだ。勝つためにできること…そのためならなんでもやってやる。


「随分、上から目線な発言だな」


「なんだと」


「お前は愛する人を守るために奴に立てついていたはずなのに…今は奴の手先として思い通りに操られる駒に成り下がっているんだな」


「フハハ、貴様は何が言いたいんだ?時間稼ぎにしては面白くない冗談だな。この俺がドルフィネにたてついていた?そんなこと…あるわけなかろう。冗談は休み休み言え!貴様にはすこしお仕置きが必要そうだな。こいつらと戯れていろ…湧き出ろ!屍墓群勢グレイブディール


 詠唱を止める隙もなく、カイザの技が紡がれた。もしこの技が相手を昏倒させるあの技だった場合、俺は既に敗れていた…だけど、詠唱が終わったにもかかわらず眠気は一切なかった。前に使ったあの技とは別の技か…これはこれで厄介なことになった。事前情報なしのぶっつけ本番でその技への対応を迫られるってことか…少し怖いがここで怖気づいて後退りなんてしてらんねぇ。


「なんでもきやがれ!お前に手こずってるわけにはいかないんだよ」


「フハハ、威勢だけは立派だな。なら、そいつらすべてを制してみよ。そうしたら俺が相手になってやる」


「そいつらの相手?」


 グボッ…グボッ…グボッ…


「うわっ、なんだこいつら」


 カイザが少し後方に退いたかと思ったら地面が急に盛り上がりそこから開けた空間を覆いつくすほどの骸骨が現れた。人骨やら獣骨など種類は様々だがその数は異常だった。この限られた空間で相手取るには少々厳しかったが俺らがやるのは押して押して押し切ること!とにかく攻めの姿勢で進み続けるんだ。


虎撃連舞フーランペイジ!!」


 迫りくる骸骨軍団めがけて渾身の一撃を打ち込む。当たった傍から骨が砕け散る感覚が手甲鉤ハンドクローを介して俺の手に伝わる。なんか朽木をへし折る感触に似てるな~なんてことを考えてしまった。いかんいかん、おそらくこいつらもドルフィネにより魂を奪われた者の成れの果てだろう。死して骨となってもこき使われるなんて可哀そうに…せめてもの手向けと言っていいかわからないが跡形もなくその骨を粉砕する。密集してるのが功を奏したのか虎撃連舞フーランペイジの切り裂き攻撃により一網打尽できている。数は多いがあまり頑丈でもない骸骨どもだ。この疑似生成した手甲鉤ハンドクローから繰り出される斬撃でもどうにかなっている。この手甲鉤ハンドクローはなんというか実体はあるみたいだがベリルさんから貰った手甲鉤ハンドクローがあった時に比べ多少威力が減衰している。ベリルさんから貰った手甲鉤ハンドクローが骨格として存在するのとしないのでは違いがあるみたいだ。


「思ったよりも手ごたえがないんだな。数だけ有しても中身が伴わなければ意味がないんじゃないか?」


「勝った気になるのははやいと思うぞ、小僧!」


 粉砕した骸骨らの破片が一つに集まっていく。まさかさっきまでのは前哨戦だったっていうのか?


「さぁ、第二ラウンド…開始だ」

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