目覚め
「ぅぅぅ…ここは…?」
「おや、目覚めたのかの?」
目を開けると暗闇の中だった。おそらく意識がない間に奴らによって洞窟とかに運ばれたのだろう。あれ…今、誰かの声が聞こえたけど…
「あ、あの!?ここはどこですか?俺たちは…」
「おっと、急に大きい声を出すでない。驚くであろう。ここは奴隷商の隠れ家らしき洞穴じゃな」
「すいません。えーっと…あなたは誰ですか?」
暗闇に段々と目が慣れてきて周りの状況が少しずつ分かってきた。今俺は洞穴内の牢獄みたいなところに入れられているみたいだった。俺が話しかけたのは何故か目をずっと閉じたままの老人でその人と一緒にここに幽閉されているらしい。他のみんなはどこにいるのだろうか…
「儂か?儂の名はシンリーという。しがないただの老人じゃよ」
「そうですか…あなたも奴隷商によって連れ去られてきたんですか?」
「そうじゃな。お主のように昏倒まではされんかったが無理やり連れてこられたことに変わりはないの」
「あの、俺ってどれくらい意識を失っていたんですか?」
「う~ん…そうじゃの~ここは見ての通りの暗がりじゃろ、だからはっきりとした時間の感覚はないが~およそ一刻ほどかの」
「一刻ってどれくらいですかね?」
「あぁ~すまんの。つい儂の村での言い方で話しておった。一刻というのは今でいうところの二時間程のことよ」
「二時間…ですか。あの、俺のほかに数名連れてこられてませんでしたか?」
「ん?そうじゃの~何か運んでる音は聞こえてきたがこことは別のところに運んでおるようじゃったな」
「そうですか」
この人…シンリーさんの話からするとほかのみんなはこことは別の場所に運ばれたらしい。なんで俺だけ別の場所に運ばれたのかはわからないが少なくとも皆は近くにいるらしい。
「あの、あなた以外にも連れ去られた人っているんですか?」
「そうじゃの~儂以外に亜人の娘とやたら元気な貴族の娘がおったの。あともう一人大男がおったが奴らに歯向かった場合の見せしめとして殺されおった」
「そうでしたか。あなた以外の人はどこですか?」
「詳しい場所はわからぬが、お主と同じ頃に連れてこられた者と同じほうに連れていかれていたはずじゃな」
今回のクエストの保護対象者である皇女様はガリズマさん達の近くにいるらしい。ガリズマさん達を助けてそのまま保護できそうだな。あとそのほかにも連れ去られた人がいるようだけどついでに助けておこう。
「あなたはどうしてその人達とは離れて捕らえられているんですか?」
「儂にもわからんが魂がどうとかいっておったの。確かに老い先短いこの身の上じゃがそれを理由にこういう扱いをするくらいなら最初から捕らえるなっと思うがの。奴らはうつけか何かなのじゃろうて」
「ははは…そうですね」
この老人、結構ずばっと言い切るんだな~もし、今の会話を奴らに聞かれてたらどうなるかわからないって言うのに…覚悟というか肝が据わってるんだな。
「して…お主はこれからどうするのかの?」
「えっと…それを聞いてあなたはどうするんですか?」
「質問に質問で返すのは良くない思うが~まぁよかろう。お主がここからでて仲間を助けに行くというのなら儂も助力しようかと思っての。老いぼれじゃが昔はそれなりに名の馳せた冒険者じゃったから後方から助け舟を出すことくらいはできると思うが…」
「俺は…ここからでてみんなを助けに行きます。俺たちがここにきた目的である皇女様の救出もありますしね。あなたが手を貸してくださるのなら願ったりかなったりです。あれ…俺以外に仲間が捕らわれているって言いましたっけ?」
「うむ。お主が寝ぼけているときに寝言で仲間がどうこう言っておったからの~その仲間と一緒に奴らにやられたのじゃと思ったのじゃよ」
「そうでしたか。それで、いきなり本題に移りますが…あなたの実力がどれくらいあるのか知りたいです。教えてもらえますか?」
「急ぐことは良いことじゃの~善は急げとも時は金なりともいうからの。儂は封人という人種での呪いで見ての通り目が見えんのじゃ。その代わり祝福として万能強者とうい祝をもっておる。万能強者はあらゆる感覚を極限状態まで引き上げる力で目が見えずとも敵の動きが見えたり、初めて触れる武器でさえも熟練したもの以上に扱うことができる。今は武器の類がないからお主の援護にはそこらに転がる石ころを投擲でもしようかの」
「なるほど…わかりました」
この人もラーシャルドさんと同じ封人なのか…目が見えない代わりにあらゆるモノを感知できモノの扱いに長けるのか…目に頼りすぎるな。心の目で感じよ!的な能力だな。
「で、お主はどんな力を持っておる?」
「俺はこの…ってあれ!?ベリルさんからもらった手甲鉤がない」
「武器の類は奴らに奪われてしまったからの~その武器がないとお主は戦えぬのか?」
確かに武器なしで戦えるかって聞かれたら無理かもしれない。虎撃連舞も手甲鉤を基に構成していたしな。
「戦えるかどうかっていったら戦えないかもしれません」
「なら、お主の仲間を助けることもここから無事にでることもあきらめるしかないというのかの?」
「いえ、皆を助けることはやめたりしませんよ」
「では、どうするのかの?」
「見ててください。一つ試したいことがあるんです。それがうまくいけば武器が無くても大丈夫です」
俺には一つだけこの状況を抜け出す秘策があった。できる保証なんてないけどやってみなきゃわかんない。「諦めるのか」ってあいつに…猛虎にまた言われる前にやるだけやってやるよ。




