意識と肉体と魂と
白い光に包まれてフワフワとした不思議な感覚が伝わってくる。誘無身さんに教えてもらった祠の印を虎撃連舞で破壊したとこまでは覚えているのだけれど…今の状況はいったいどうなっているのかわからない。周りを見渡すとすぐそばに意識を失っている霧生梨衣がいた。彼女も無事誘獄を出られたみたいだ。
「誘無身さん!ここはどこなんですか」
意識のない霧生梨衣に向かって問いかける。意識がなくとも彼女の守霊である誘無身とは話せるとおもったからだ。何故できると思ったかはわからないけどね。だが、誘無身からの返事はなかった。これは困ったことになってしまった。誘無身はここが唯一の出口だと言っていたが見渡す限り真っ白な空間で出口らしきものは見当たらないのだ。この白い光の中に出口があるのだとしてもどこにあるのかが全く分からない。知っていそうな誘無身さんとは話せないしどうしたらいいんだ。そういや猛虎はどうだろうか?守霊つながりで出口が分かるかもしれないな。
「猛虎!出口がどこかわからないんだ。お前知らないか?」
割と大きい声で言ったつもりだったんだがこれもまた返事がなかった。一体全体どうなってやがるんだ。守霊そろってだんまりかよ。こんなところで油を売っているわけにはいかなんだって、はやくみんなと合流してドルフィネを倒さないといけないのに…いくら焦っても何もない真っ白な空間に霧生梨衣とともに閉じ込められたままだった。
「ちっ、こうなったら手当たり次第にやってやろうじゃないか!」
待つことにしびれを切らしてしまい。一か八かの賭けに出ようとした。何をやるのかって?そりゃ~ここに出口があるのだけはわかってるがどこにあるのかはわからないんだろ?…ならばその出口ごとぶっ壊してしまえばいいじゃないか。馬鹿げたことかもしれないけど他に方法も思いつかなかったのだ…しかたないよな?
「よし、それじゃ~行くぜ!虎撃…」
「ちょっと待って!」
「ってぇぇええ…おい、なんだよ~邪魔するなって」
「そんな技を私がいるのに放とうとするなんてあなた何を考えているの」
「じゃ~どうすりゃいいんだよ…って目覚めてるじゃん」
「あなたねぇ、すこしは周りを見なさいよ。下手すりゃ私まで巻き込まれるのよ」
「目覚めてるなら話が早い!誘無身さん、ここからでるにはどうすればいいんですか?」
「え?なに…誘無身?私はミスティよ。いえ、違ったわね。今の私は霧生梨衣だったわ。なかなか慣れないものね。これもミスティとしての記憶をもっているからかしら」
「一度、誘無身さんにかわってくれないか?ここからの出方を聞きたいんだ」
「あなたねぇ、いくら先を急ぐからって人に頼む態度がなってないわ」
霧生梨衣もといミスティが文句を言っている。確かに人に頼む態度でないことはわかっているが誘無身さんに出てきてもらわないことには話がすすまないのだ。
「すいません。少しだけでいいので誘無身さんに代わってもらえませんか?」
「すこしは冷静になったみたいね。誘無身に代わってあげたいのはやまやまなのだけどそれは無理ね」
「どうして?」
「もうここは誘獄の外で彼女と話せないからよ。あなたもあの化け物…確か猛虎だったかしら、彼に声がとどかないでしょ?」
確かに猛虎に声が届かないが、ここがすでに外だって?でも、おかしくないか。こんな真っ白な場所なんて知らないんだが…
「あ~そうね。すこし説明が足りなかったかしら。ここは出口であるけれどまだ意識の空間みたいなところなのよね。外なのは確かだけどまだあなたの肉体が目覚めてないからここにいるみたいな状況かしら」
「それってどういうこと?」
「詳しくはわからないけど誘獄…真世ってのは人の魂と意識、肉体を現実世界から乖離させるみたいなものなの。いまの私たちは魂だけが覚醒している状態で肉体と意識はまだ眠っているみたいな感じかしら」
「つまり…肉体に意識が戻ってないから現実世界に戻れないってこと?」
「う~ん、おそらくね。私も誘無身の記憶から得た情報だから詳しくはわからないのよ」
「肉体に意識を戻すにはどうしたらいいんだ?」
「わからないわ。目覚めるのを待つしかないんじゃないの?」
「それじゃ遅すぎる」
「ねぇ、どうしてそんなに急ぐの?」
「あの仮面の悪魔、ドルフィネの目的は人の魂だろ?それも魔力の強いものなら喜んで奪うやつだ。俺の仲間にはガリズマさんっていってかなり魔法に長けた人がいるんだ」
「あ~なるほどね。あんたがここでのうのうと油を売ってたらその人の魂が奪われちゃうかもって思ってるんだ」
「ああ、そうだ。あの人は何も知らなかった俺に優しくしてくれた。初心者なのに無下にも扱わずちゃんと仲間として受け入れてくれたんだ。だから…」
「ふ~ん。その人ってあんたにとっての恩人ってわけね。恩人が殺されるかもしれない、だからそんなに焦ってるってわけね」
「ああ…」
「そうね。私も早くカイザ君に会いたいし本体の意識を覚醒させる方法を一緒に考えてあげる。あれ、私の本体って今はどこにあるのかしら…まぁ、目覚めてみたらわかることよね」
「カイザってあなたがミスティさんだったころの旦那さんだっけ?今はドルフィネに操られているらしいけどどうするんですか」
「そうねぇ。彼は私にとって大事な人よ。操られているのなら目を覚まさせなくちゃね」
「どうやって目覚めさせるんですか?」
「そりゃ~もう、あれよ!呪いの掛かった王子様には美女によるキスって決まってるの!」
「はぁ~」
「え、なに…なんか文句でもあるの?」
「い、いえ…なんか素敵だな~って思っただけです…ハイ」
「ならいいわ。じゃ~そうね…本題に移ろうかしら肉体の意識を取り戻すってやつ!」
「なにするんですか?」
「ん~とね。これ!この石にお願いするのはどうかしら」
霧生梨衣が取り出したのは確か霊位石と呼ばれる奇跡を起こす石だった。
「そんな簡単に奇跡って起きるものですかね?」
「やってみなきゃわかんないじゃない!霊位石よ、私たちの肉体に意識を…お願い!!」
暫し、静寂が続いた。ダメだったみたいかな?とそう思ったとき彼女の持っていた石が強く輝いた。
「ほら、やってみるもんでしょ?」
「こんなことってあるんだ…」
「はい、これあげるわ」
「え、いいんですか?」
「うん、だって私にはもう必要ないと思うもの。あなたの仲間も誘獄に囚われてるんでしょ。私たちみたいに目覚めさせるのにつかえるんじゃないかな」
確かに皆が勝手に目覚めるって保証はないし貰っておいて損はないか。
「ありがとうございます」
「じゃあまたね。っていってもすぐ会うことになるかもだけど」
「色々とありがとうございました。昔のカイザさんが目覚めるといいですね」
「無理にでも目覚めさせてあげるわ」
そういうと霧生梨衣は消えてなくなった。俺の体も淡く消えかかっている。肉体に意識が戻ろうとしてるみたいだ。目覚めたらドルフィネをどうにかしないといけない。俺の仲間は俺が守る。




