脱出
「以上となります。この体は霧生梨衣としてのものですが、中身はその転生体であるミスティと私…誘無身となっています。先程、あなたの守霊が別物といったのは私が本来の主のものではないからかと思われます」
「なるほど…大体のことはわかりました。でも、誘無身さんってミスティさんが転生した直後当たりの記憶を持っているのはどうしてですか?あなたの話からすると霊位石?でしたっけ、その石の奇跡であなたとミスティが出会ったように見受けられるんですけど…」
「そうですね。私がミスティと出会ったのはその時です。何故私がミスティの転生してからを知っているのかといいますと彼女と一つになった時に私の頭に彼女が持っていた記憶とその他諸々の情報が流れ込んできたからです。ミスティにも確認を取りましたが彼女のほうにはそういったことはなかったので元守霊にのみ起きる現象だと思われます」
「なるほど。それなら何故知っているのか納得がいきます。話からしてあなたたちではここから出られないんですよね?」
「ええ、私どもでは無理ですね。今までどうにか出れないかと試したこともありますがすべてダメでした…」
「脱出の手段はあるんですか?」
「一つだけございます。私どもでは無理でしたが、あなた方ならもしかしたら…」
「その場所に案内してもらってもいいですか?」
「こちらです」
誘無身の案内のもと深い霧のなかを歩いていく。今回の黒幕であるドルフィネについての情報はある程度得られた。その仲間とされるカイザと呼ばれる男はドルフィネにより操られているとのことだしミスティさん…いや、正確には霧生梨衣さんか…彼女のためにも助けられたらいいな。そういえばドルフィネも仮面の悪魔、ガンサクと呼ばれる存在に操られているみたいだけど割とそっちは合意の上みたいだし倒してもいいかな。あ~そういえばここって誘獄ってとこみたいだけど霧生梨衣さんたちが捕らえられたのって真世だったよな…なんで名前が違うんだ?
「誘無身さん、一つ聞いてもいいですか?」
「ええ、なんですか」
「あなたとミスティさんが出会ったのは真世ってところだったはずですよね?どうしてあなたは誘獄の守り人をしているんですか?」
「それは…長い年月を経て変質してしまったからです。何故そうなったのかはわかりません…もしかしたら術者であるカイザに何かあったのか、それとも時間経過で変質するものだったのか真相はわからないのです。ただ私たちがここから出られない呪いは残ったままみたいでこうやってあなた方に助けを求めている形となっています」
「誘無身さんも知らないことがあるんですね」
「ええ、私が知っているのはミスティと出会う前までのことです。それ以降の情報は見聞きしたものでしかありません。見聞きしたといってもここには私たちとあの成れ果てしかいませんが…そろそろ目的地につきます。覚悟はよろしいでしょうか?」
「え…覚悟ですか?まぁ~大丈夫だと思います。猛虎、お前はどうなんだ。ここの外ではお前もそうやって実体を持つことはできないんだろ?何か話しておくこととかないの」
「ん?そうだな~確かにお前とこうやって話す機会も次いつあるかわからんが…我から今お前に教えられる技も他にないしな。ん~いざこういった場面になると意外と話したいこともないのだな。あ、一つだけあった」
「なんだよその一つだけって?」
「死ぬな。ただそれだけだ。まぁ~我様直伝のとっておきの必殺技もあることだしそう簡単にやられることはないだろうが、命は大切にしろよ」
「わかってるって…てか、お前は俺の守護精霊様なんだろ?いざという時守ってくれよな」
「それができれば我様もさっきのようなことはいわんぞ。今の状態では我は何も手出しはできぬからな。拳斗、お前自身で乗り切るほかはないんだ」
「その言い方だといつかお前が守ってくれる日がやって来るのか?」
「さぁな。それは我にもわからん」
「なんだよそれ。でも、わかったよ。お前に守ってくれなくてもいいように頑張るさ」
「おう。その調子だ」
「あの…」
「あ、すいません。どうしましたか?」
「お二人のお話を邪魔して申し訳ございませんが目的の地につきましたのでご報告をと…」
猛虎との会話にのめりこみすぎて気付かなかったけど俺らの目の前には如何にも怪しげな祠が建っていた。誘無身曰くここから外へと出られるらしい。
「ここですか?」
「ええ、この祠が出口へつながるただ一つの場所になります」
「どうすればいいんですか?別になんか封印みたいなのも見えませんが…」
「そうですね。では、そのまま祠を通ってみてください」
「え?あ、分かりました」
誘無身の言う通りに祠を通ろうとした。だが…
ゴンッ
「痛って~なんだこれ」
祠を通ろうとすると見えない壁に阻まれたかのように前に進むことができなかった。
「おわかりになりましたか?それが私たちがでられない理由です」
なるほど、この見えない壁があるせいでミスティさんと誘無身は出られないと…
「あれ?今、俺も出れなかったんですが…もしかして俺でもダメなんじゃ…」
「いえ、今のは壁の存在を認知してもらうためで出られるかは関係ありません。それでは本題に移ります。あなた方にはその見えない壁を破壊してもらいたい…それがここからでるために必要なことです」
「見えない壁の破壊?ですか。それならミスティさんの水砲とかでも壊せそうだと思いますけど…」
「確かに拳斗さんの言う通り、その魔法を扱えたら突破はできると思います。しかし、今の私たちにはそれができません。霧生梨衣となってから魔法の類いは一切使うことができなくなっているのです。この世界では異世界人は魔力を持ち合わせない…そのようなものがあるのでしょう」
「そうでしたか。だから、他の者の力が必要なんですね」
「ええ、そのとおりです。あなた方の力はお見受けしております。ここからでるためにそのお力をお見せ願いますか?」
「はい。じゃ~行くぞ、猛虎!」
「おう!」
「虎撃連舞!」
猛虎直伝の俺の必殺技、それが見えない壁に直撃し巨大なガラス窓が粉砕するように砕け散った。




