訪問者と攻防
「朝早くすいません。カイザさんはいらっしゃいますか」
戸を開けると長身の瘦せこけた男が立っていた。何故か小脇に人形を抱えている、そういう趣味なのかしらね。
「どちら様?カイザ君のお知り合いかしら」
「いえ、カイザさんに用があって尋ねてまいりました。自分はドルフィネと言います。カイザさんに弟子入りさせてもらおうと思いまして、直接話をしようときました!」
カイザ君に弟子入りねぇ~カイザ君も最近はいい感じに波に乗ってきたけれど弟子か~どうなんだろう。カイザ君も霊干渉者の修行ためにお師匠さんのもとで修業をしたって聞いているけどこういう風に弟子入り志願をしたのかしらね。カイザ君のお師匠さんについては良く知らないのよね~ものすごく霊感が強くてあまり人のいるところにあらわれないってことだけはカイザ君が話してたっけ。
「ごめんなさいね~カイザ君、今さっきお仕事に出かけちゃっていないのよね~」
「そうなんですか~それはタイミングが悪かったですね。ん~どうしようかな…」
「帰りは遅くなるって言ってたからまた後日、日を改めてきたらどうかしら?カイザ君には私から話しておくわ」
「そうですね。あの~お姉さんはカイザさんの彼女さんか何かですか?」
「私はカイザのお…奥さんよ」
「へぇ~そうなんですね。カイザさんもこんな綺麗な奥さんがいて羨ましいな~ね、マリィもそう思うだろ?」
「マリィ?そのお人形さんの名前かしら?」
「ええ、そうですよ。奥さんみたいに綺麗でしょ?ちょっと恥ずかしがり屋で話してくれないんですけど僕の傍にずっといてくれるんですよ~」
「そ、そう。それは良かったわね」
う~ん、ちょっとこの子特殊な趣味を持ってるのね。カイザ君も昔は霊と話してたみたいだし、その人形にも何か憑いてるのかしら。物のに宿る精霊…つくもがみみたいなものなのかもね。
「あの~カイザさんがどちらへ行ったかわかりませんかね?僕、早く弟子にしてもらってマリィとお話したいんでカイザさんのところに直接いこうと思います」
「え~っと、カイザ君もお仕事の最中だから、会ったとしても構ってくれないと思うわよ」
「あ~はやくお話したいね、マリィ!」
あ、この子私の話を一切聞いていないわ。カイザ君のところを教えてもいいけれど~お仕事の邪魔になるのはよくないわよね。
「ごめんなさい、カイザ君のところは教えられないわ。カイザ君は今大事なお仕事中なの。弟子入りは喜ぶでしょうけどタイミングとしては良くないと思うわ」
やはり、時と場合というものがあるわね。霊干渉者は霊と生者の懸け橋を担うもの、その場に彼のような第三者が割って入るのはよくないわよね。
「は?僕とマリィが話すのを邪魔するんですか…」
「そ、そういうつもりじゃないのよ。ただ今はお仕事中だからまた別の日がいいって言ってるの」
「ふざけるな!マリィと僕の関係を邪魔するやつは許さない。霊干渉者になれば見えない何かと会話できるんですよね。ならマリィとも話せる!さぁ、はやくカイザさんのところに連れていけ」
「ちょ、や、やめなさいよ」
逆上したドルフィネが私の胸ぐらをつかみ詰め寄ってきた。流石にヤバいわね。
「わ、わか…たわ」
「わかってくれましたか…なら良かった。僕もこういうことはあまりしたくないので言うとおりにしてくださいよ~」
この子、ちょっと狂ってるわ。カイザ君に合わせるのは良くないと思うけれど、あのまま指示に従わなかったら私、どうなってたんだろう。人形という作り物に生命の存在を乞い願う彼、霊干渉者になったとしてもそもそも命を持ってないそれと話すことができるのかしらね。
「さぁ、案内をお願いします」
ドルフィネに脅されながらカイザ君の仕事先であるルドーさんの家へと向かうことになった。
これはまずいことになったルドーさんらを奴から遠ざけることはできたが肝心の奴をどうにかできていない。私の持つ力では謎の仮面を捕らえることはできないし、どうすればいいんだ。捕縛の鎖を避けるのにも慣れてきたのか縛られる前に回避されるようになってきた。奴がイーリアさんに繰り出そうとした技をまた使用しないかに気を付けながら打開策を探る。技が完成仕切る前に邪魔できたから事なきを得たがあれだけは喰らってはいけないものだろう。
「キサマ ナゼ ジャマ ヲ スル?」
「お前こそイーリアさんに何をしようとした!」
「ヤツハ イイタマシイ ワガ アルジ 二 ササグ」
「よくわからないがイーリアさんを脅かそうとするのなら私が盾となろう。霊干渉者として呼び寄せた霊はきちんと天へと返さないといけないのでな」
「ソウカ ジャマ ヲ スルナラ ヨウシャ ハ シナイ」
謎の仮面との攻防はしばらく続いた。こちらが防戦一方とはいえ打ち破ることのできない現世と無限に湧き出る捕縛の鎖のコンボでどうにかなっている。だが、鎖は奴を捕らえられず躱され始めているのでそう長くは持たなさそうだ。奴が技を紡ぐ隙を与えてしまえば私はすぐさまやられてしまうだろう。それだけはどうにかしなければ…




