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守霊界変  作者: クロガネガイ
第一部
40/145

幸せと不穏

「汝、いかなるときもその愛しき者を守ると誓うか?」


「ええ、誓います」


「うむ。では、汝にも問おう。その愛しき者を永遠に支えると誓うか?」


「ええ、誓うわ」


「うむ。その誓いが破られんことを切に願い、ここに汝らの誓いの証明を…ほれ!」


 教会の神官様の合図で彼と私はお互いに向き合う。カイザからの告白を受け入れたあの日から約一年がたっただろうか。今は町の教会で簡易的な結婚式を行っている。簡易的なものといってもお互いの家族や友人をできる限り呼んで行っている。私もカイザもあまり友人といったものを作ってこなかったからか呼ぶ知人も数える程で大勢に見守られながらってな風にはならなかった。参加人数も少ないので会場も小規模で簡素なもので済まそうって二人で話し合って決めた結果だった。


「ミスティ、手を…」


 私の前に跪き、手を差し出すようにカイザ君が呟く。私はその言葉どおりに片手を跪くカイザ君の前に差し出す。その差し出した手の甲にカイザ君が軽く接吻を行うと式に参加した皆から歓声が上がった。決して多くはないけれど皆から祝福されて少し恥ずかしのと嬉しいので胸がいっぱいになった。


「うむ。今の誓いの口づけをもってカイザ殿とミスティ殿の婚姻は成された。神の祝福が彼らにあらんことを…」


 神官様はそういい遂げると静かに参列者たちの方へと歩いて行った。それとほぼ同時に家族や数少ない知人が押し寄せてもみくちゃにされる。皆、おめでとうやお幸せに!などと言ってくれている。齢十五にして私とカイザ君は夫婦となったのだ。あ、そう言えば誓いの接吻なのだがこの世界でも元の世界と同様にふつうは口にするのだが、私がそれを無理に断って手の甲にすることにしてもらった。私とカイザ君はお互い両想い、相思相愛の夫婦なのだが…何と言いましょうか…皆の前で口づけをするってことがどうしても恥ずかしくて…注目されるってことになれてなさ過ぎても流石にこういったイベントはきちんとやるべきだとは思うけれど、恥ずかしさが勝ってしまったのよね。カイザ君も無理ならそれでいいよって言ってくれたけど本当はどうなんだろう。あとで二人きりになったら…頑張ってみようかな。


 更に一年が経った。二人仲良く楽しい日々を過ごしているわ。そう言えば結婚してから一年になるけれど~いまだにちゃんとキスできてないわ。なんかいざやろうとするとカイザ君の顔を見れなくなってね。なんやかんやでまた今度ってやってるうちに一年が経っていたわ。私ったらしっかりしなさいよね。でも~間近で見るカイザ君、かっこよすぎて直視できないのよ。


「ミスティ、今日は少し遅くなるよ」


「え、そ、そうなの?」


「ああ、なんか最近依頼が多くてね。ここ数週間でこんなに亡くなる方がいるなんて異常なことだよ」


「わかったわ。お弁当はこれね。夕飯はどうするの。外で食べてくる?それとも用意しておこうかしら?」


「ミスティの料理が食べたいからできれば用意しておいてほしいかな」


「わかったわ」


「んじゃ、行ってくるよ」


「ええ、行ってらっしゃい」


 カイザ君にお弁当を渡して行ってらっしゃいのキスを~手の甲にしてもらう。私が恥ずかしがるのをわかっているからかカイザ君は当たり前のように手の甲にするようになった。どうせなら私が恥ずかしがる前にスッとしてくれればいいのだけれど…それは少し我儘ね。

 カイザ君の仕事は霊干渉者ダイスト。どういったものかというと亡くなられた方の霊とその家族とを特殊な空間に招き、最後のお別れを見守るみたいなものらしい。私も直接みたことがないから詳しくは知らないのよね。最近は特にその依頼が多くて今朝のように帰りが遅くなるって言ってくることが多いのよね。カイザ君のことだから浮気だとかは心配していないけれど多忙で倒れたりしないかしっかりと見とかないとね。なんて言ったって私はカイザ君の奥さんなのだもの!人が生まれたり、亡くなったりするのって時期によって多くなることがあるけれどそれにしても最近は亡くなりすぎている。お年寄りから小さな子供まで毎日のように誰かが亡くなっているわ。疫病なんかが原因とかではなく、ある朝気が付くと亡くなっていたなんていうのだから皆この件について不思議がっているわね。神の祟りだとか言っている人もいるわ。そんな唐突な分かれを待ったをかけるのが霊干渉者ダイストの存在ね。原因究明ができればいいのだけど~カイザ君曰く亡くなられた方も知らない内に亡くなっていたらしくよくわからないらしい。当の本人が分からないことを外野が分かるはずもなく謎が深まるだけなのよね。


 コンコン


 あら?誰かしらこんな時間に…カイザ君忘れ物でもしたのかしら?


「はーい、どちら様~?」


 私は躊躇もせずに錠を開け、誰かもわからない客人を招こうと戸を開いた…

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