うるさいお供が付いてくついてく
これから行くところは結束樹の森というところらしい。木々どうしが絡みつき団結しているようだからそう呼ばれているとのことだ。森へはすぐに到着した。なんせ、商業街ノーヴァを出てすぐ目の前にあるのだ。迷いようがない。
「さてと、手っ取り早く依頼の品を採って帰るかな」
今回、依頼された品はユイノウソウと呼ばれる薬草で主に祝い事などで贈り合う物らしい。薬草としてどういう効果があるかは聞いてもよくわからなかったので、この際気にしないこととする。最初、その名前を聞いたときに結婚絡みのものかと思い聞いてみたけどそこまでの意味はないらしい。そんなことを考えながら森の奥へと踏み入っていくと…
カサッ
背後から何か音が聞こえた。なんの躊躇もなく森の奥へ奥へと向かっていたが、ここは誰も整備していない自然豊かな森、たまに依頼を受けた仕入れ人が立ち入るだけでほとんど自然のままらしい。なにかしらの生き物が居てもおかしく無い。そういえば荒野で出会ったあの爆走していた生き物、あんなのと出くわす可能性だってあるんだ。そんなの勘弁してほしいな。そう思いながら音のした方をゆっくりと振り返り確認する。
ンキュッ~
そこに居たのはボールのように真ん丸としたリスとタヌキを掛け合わせたような生き物だった。なにやら寝転がり木の実と戯れているようだ。
「よくわからないけど、危ないやつではなさそうだ…よな?」
荒野で出会ったあの危険生物みたいではなさそうなので気づかれる前に静かにその場を離れようとしたところ…
ンキュ?!キュキュッキュー
突然、リスタヌキが騒ぎ出した。なんなんだよこいつ、キューキューとけたたましく鳴き散らかして一向に鳴き止むそぶりもない。これはまずいかもしれない。この鳴き声は仲間へのSOSで今まさに仲間を呼んでいるに違いない。これ、逆に俺が危険生物認定されたってコト?こんなちっこいのがどれだけ集まったって何それ感があるが、こいつがもし子供で親はトンでもないやつだったら最悪だからな、ここは俺のほうから離れてやれば少しは落ち着くだろう。もともと離れようとしていたしな。リスタヌキの鳴き声が響く中そそくさとその場を後にして依頼された薬草の探索を開始した。
それから暫くして、ユイノウソウ探しに集中していたらリスタヌキの鳴き声は聞こえなくなっていた。一体何だったんだろうな。で、目的のユイノウソウはというとなんとか見つけることができた。森の奥の更に奥の泉の傍に群生していた。とりあえずある程度持ち運びに困らない量を籠へと入れた。籠一杯に入れていけば追加報酬があるからできるだけ多く採取したいところだ。日没までというタイムリミットもあるからそれまでに帰るってことも念頭に置いて動かないとな。ここは木々が生い茂っていてあまり太陽が見えない。だから今がどれくらいなのかはなんとなく予想で判断するしかない。遅くなって報酬を貰えないのが一番イタイからもうすこし取ったら帰るとしよう。もうすこしで籠八分目よりは多いかなってところ、見る人が見れば籠一杯となるかもしれない。判断は店のオヤジだから何とも言えないな。またおだてたらどうにかならないかな~
「よし、これくらいにするか~」
籠一杯(八分目+α)にユイノウソウを集めた。もう十分だろう、さて、帰るか。帰り道は行きに通ったところを通るだけなので踏みならされた道を行くだけだ。行きは道なき道をかき分けて踏み入っていたからそれに比べれば楽チンとしか言えない。足早に帰り道を歩いているとリスタヌキに遭遇したところ辺りまでやってきた。流石にもうキューキューとうるさい鳴き声は聞こえないがやつの仲間がいるかもしれないので慎重にかつ素早く立ち去る。結構歩いて疲れているのかユイノウソウを入れた籠が先程より重く感じた。あと少しの辛抱なので気に留めず帰りを急いだ。森の出口にようやくたどり着くともう日が暮れかけていた。
「このままだと頑張った意味が無くなっちまうな…急がないと!」
そこからは少し駆け足で商人のオヤジのもとへと急いだ。店にたどり着くとオヤジは店仕舞いをしている最中だった。
「おやっさん、依頼の品持ってきたぜ。ほら!」
商人のオヤジへ向けて籠を見せつける。
「おう、兄ちゃんかちゃんと時間通りに戻ってくるなんて少し驚いたぜ。で、ユイノウソウはっと…」
キュ~?
「おい、このユイノウソウと一緒にいるこいつはなんなんだ」
「え?あああああああああああああああああああああああ」
ユイノウソウに紛れてそこに居たのはあの時のリスタヌキだった。なんでここにいるんだよ。
「兄ちゃん、こいつはトリスターナじゃねぇかよ。また珍しいものに懐かれたもんだな」
「こいつなんなんですか。ユイノウソウを探していたら急に鳴き叫んだからすぐに離れたのになんで此処に…」
「こいつは特に危害を加えてくる魔生物ではないんだが気に入ったものにくっ付いて離れない習性があってな、気に入ったものを見つけたときにキューキューと鳴き叫ぶって話だぜ。俺も噂でしか聞いた事無かったからそんなやつに会うのは初めてだな。兄ちゃん、こいつに気に入られちまったようだな」
「え、マジですか」
「あぁ、おおマジよ。まぁ、他に気に入ったものが見つかれば勝手にいなくなるから暫く我慢ってものだよ」
そんなこんなでなぜかリスタヌキ…トリスターナとかいう生き物に懐かれてしまったがどうしたらいいんだろう。別のお気に入りが見つかれば勝手にいなくなるらしいしそれまでの辛抱かな…
「ほら、報酬だぜ。あとこれも持っていけ」
商人のオヤジからは報酬と型崩れした木の実みたいなものを渡された。
「これは?」
「トリスターナ…草食系の魔生物が好む木の実だ。形が悪くて売り物になんねぇからやるよ。勝手に懐かれたとはいえ居なくなるまで世話くらいはしてやれよ。依頼のほうも十分すぎるほど集めてくれたようだし、報酬もすこし上乗せしてるから頑張れよ」
「はぁ…わかりました。ありがとうございます」
「んじゃ、俺は店仕舞いがあるからよ」
「はい、ありがとうございました」
商人のオヤジはそういうと黙々と店仕舞いを始めた。邪魔にならないように一礼お辞儀をしてその場を離れた。報酬もそこそこ貰えたしかなり助かった。この変な生き物のエサも手に入ったし今のところは順調なのかな…なんでこいつと行く感じになってるのかは謎だけどな。