成長
またまたすこし時間が経過して齢十四歳になったころ、結構ぶっ飛んだわね。まぁ、間の期間にはそれなりに色んなことがあったわ。
まずは元の世界でいうところの小学校へ入学したこと、こちらの世界では学び舎って言われていて主に魔法や読み書き、生きていく上で必要となる処世術なんかを教わったわ。魔法の授業では派手にやらかしたわね。そもそも元の世界では存在しなかったものだからどうやっていいのかわからなかったのよ。魔法というものは火とか風とか光とか色んな属性があるのだけど人それぞれ扱えるものが違っていて、皆一様に教えようにもできるできないがあるから教える先生も一苦労のようだったわ。先生もできて二~三種類しかできないからできない属性の魔法については自分で独学でやるしかなかったのよね。ある程度基本とかは教えてもらえたんだけど~それでも白紙のレシピからちゃんとした料理を作るのが困難なのと同じ感じだったわ。そんなんだから頑張って紡いだ魔法も少し気を抜けば霧散して大惨事って感じになることもしばしばなのよね。私のできる魔法は水属性で手始めに水泡と呼ばれる水の玉を作ろうとしてたらデッカイ水球を作っちゃってね、それが維持できなくなって演習場全体にぶちまけて大雨が降ったあとみたいにドロドロのぬかるんだ場所に変えちゃったわ。先生には出力し過ぎだってお叱りを受けたわね。でも、どれくらいの力でやればいいのかを教えてくれればいいのにって思ったわ。その先生は風と雷属性しか使えないから聞いても無理なのはわかっていたからあえて聞かなかったわ。ズブの素人なんだから失敗を繰り返して覚えるしかないじゃないってへこたれない精神で挑もうと決めてたのよね。
あ、そう言えばカイザ君についても話しておこうかしら、カイザ君も私と同じ学び舎に通って私と同じことを日々学んでいたわ。幼少のころから雰囲気は変わらずぼっちを極めているわね。そんな彼のできる魔法は土属性ね。地面を隆起させてちょっとした壁や足場にしたり、造形を加えて人物像みたいなものにしたりと私より独学で色々とできるようになっているわ。私が演習場を水浸しにしたときもカイザ君が土属性魔法で泥と土をこねくり回してどうにかしてくれたのよね。流石私の親友ね。
そんな学び舎での生活も十歳でお終いになったわ。この世界では十歳になると仮の一人前試験なるものを受けることができてそれに合格すると親の許しなく自由に行動できるようになるの!元の世界の成人と似てるようで少し違うけどまぁ似たようなものと思っていいわ。要するにできることが増えるのよ。だいたいの子は親元を離れて冒険者なんかになったりすることが多いわ。私は魔生物とかと戦ったり、命を賭けた冒険なんて怖いからしないわね。カイザ君は生まれもった霊感体質を活かしたいらしく霊干渉者という仕事に就くためにその道のプロのもとに修行しに行っちゃったわ。少し寂しかったけれどやりたいことのために頑張るのって凄いことよね。私は~今の生活に結構満足していたから現状維持といったところかしらね。両親が時々見合い話を持ち掛けてきたけれど流石に早すぎると思い全部断ったわ。だってまだ十歳よ?元の世界でいうところの小学校四年生。まだ子供に結婚相手を見繕うなんてどうかしているわよね。あ~でも、元の世界とこっちの世界では寿命なんかも違うらしいし総じて結婚できる歳とかもはやいのかしらね。こちらの世界では普通のことなのかもしれないわ。どうも元の世界での常識が尾を引いてるからか抵抗感があるのよね。あとは~今後一生を寄り添う相手ならもう決めているの…その人以上に魅力的な人でない限りは聞く耳を持つ気はないわね。誰かは内緒ね。
親からの見合い話を回避し続けて数年、十四歳の誕生日まであと数週間となったころ一通の手紙が届いたの。送り主はカイザ君だったわ。修行を終えて近々帰ってくるとの内容だった。数年ぶりの再会に胸が躍ってしばらく落ち着かなかったわね。霊干渉者という仕事は霊と生者との間を取り次ぐもので亡くなられた大切な人との最後の時間を提供する大切な仕事よ。霊が見える彼にピッタリの仕事といっても過言じゃないわ。
「あ~どうしましょう」
自室のベッドの上でゴロゴロとしながらどういう感じでカイザ君に会おうかと考えを巡らせる。数年ぶりの再会、分かれる前から成長した姿を見せたいけれど…特に何もしてこなかったのでほとんど変わらない。まぁ、多少なりに背丈は伸びて女性としての部分も大きくなったとは思うけれど、カイザ君はなりたい自分になるためにここ数年を一生懸命生きていたのに比べるといささか見劣りする部分しかないわね。私も見合い話を断りながら母親に色々な料理を教えてもらったけど…それも及第点止まり。一人前となった彼にどんな顔をして会えばいいのかしらね…いやね、私ったら変なことばかり考えて…カイザ君ならどんな私であろうと気にしないはずよ。でも、不安だわ。
そんなこんなで時間は流れ、十四歳の誕生日を過ぎカイザ君が修行から帰ってくる日がきた。
「やぁ、ミスティ久しぶりだね」
「ええ、何年ぶりかしらご機嫌いかがかしらカイザ君」
「あぁ、僕は元気だよ。ここをでて数年、霊干渉者となるべくいろんなことを学んできたんだ。そして、師匠からやっと認められてこうやって戻ってきた。ミスティはここ数年何かあったかい?」
「え?私は~両親から結婚しろって見合い話をたくさん持ちかけられたわね。でも、全部断ったわ」
「それはどうしてだい?」
「そ、それは~」
「まぁ、いいか。ミスティがまだ誰の者にもなっていなくて不謹慎にも僕は安心しているよ」
「え?」
「僕がここに戻ってきた理由、それは…」
カイザ君が私の傍に近づいて私の前で跪いて…
「ミスティ、僕と一緒になって欲しい。初めて出会った時から君は僕のこの体質も気にせずにずっとそばにいてくれた。それがどれだけ僕の支えになったか…人は一人で生きていくのは結構大変でね。僕も傍にいて支えてくれる人が欲しいんだ。その相手は幼い頃から傍にいてくれた君以外に考えられない。だから…僕と結婚して欲しい」
「え…あっ、ちょっ…カイザ君」
「ごめんね。急にこんなこと言って…でも、この数年、君の傍にいても恥ずかしくないように頑張ってきてその間に君が誰かと一緒になっていたらって不安だったんだ。君が見合い話を全部断ったって言ったときは胸をなでおろしそうになったよ。僕は君のことが好きだよ。答えは急がないからゆっくり考えてほしい」
「…カイザ君」
「なんだい?」
「私がカイザ君の傍にいていいのかな?」
「あぁ、いてほしい。誰が何と言おうと君が傍にいてくれたらそれでいいよ」
「わかったわ。不束者ですがよろしくね、カイザ君!」
「ミスティ、本当にいいのかい?」
「うん!私もカイザ君のこと、好きだったんだよね」
「ふぁ~~~良かった」
カイザ君が大声をだしてその場に崩れ落ちた。大丈夫かと聞いたら緊張から解き放たれて力が抜けたとのことだった。あ~でも、良かったな。こうやって告白されるなんて思いもしなかったけどずっと好きだった人から好きだって伝えられるのは幸せね。これからは頑張る彼を支えられるように私も頑張らなくちゃね。




