誘無身《イザナミ》
「あの~大丈夫ですか?」
倒れている人影の方に駆け寄り声をかける。パッと見は普通の人間のようだけど人面鳥の骸骨を操っていた黒幕のようだし油断はできない。すぐに対処できるように手甲鉤を構えた状態にしている。こんな姿のやつから大丈夫だとか聞かれたら俺だったらまず叫ぶな。だってそりゃ怖いだろ?でも、俺もこの人のことが怖いからこの体勢で返事を待つのは仕方のないことなんだよ。
「うぅぅ…」
うめき声が聞こえた。意識はあるようだが一向にうずくまったままだった。
「大丈夫ですか?」
再度尋ねてみる。虎撃連舞による斬撃はこの人にあたったはずはないのだが少し心配になってしまう。
「おいあんた、何者だ?」
猛虎がうずくまる人に近づき問いかける。そんなに近づいても大丈夫なのか?俺はその様子を安全な位置から見ていた。
「ここは…っは?!きゃっきゃーば、化け物!」
「お、おい我様を化け物呼ばわりするとは何事だ?」
「カイザ、カイザ!どこにいるの?助けて」
「猛虎!こっちこいって」
「な、なにすんだケント、この女に我様は化け物じゃねぇってことを知らしめないといけねぇんだよ」
暴れる猛虎をどうにか抑え込み、謎の女性から距離を取らせる。
「お前のその見た目、結構怖いと思うぞ」
「な?!なんだって…この我様が怖い…だと…」
「俺が話をつけるから少し離れていてくれ」
「この…我様が…怖い…」
なんか猛虎がショックを受けてるみたいだが今は放っておくとしよう。それよりも彼女から何か情報を聞き出すことの方が重要だな。
「あの~」
「あ、あなたは誰?先程の化け物は一体何?」
「俺は霊仙拳斗っていいます。さっきの怖いやつは俺の知り合いなんですけど悪い奴じゃないんで安心してください」
「そ、そう。あ、あの…カイザ…えーっと…私といた男性が何処に行ったかしりませんか?」
「あなたと一緒にいた男性ですか?俺たちはあなたしか見ていませんが~」
「そうですか…カイザ、どこに行ってしまったのかしら」
「おいあんた」
「きゃっ、さっきの化け物」
「猛虎、お前な~離れてろっていっただろ!」
「ケント、こいつ混ざってやがるぞ」
「は?何言ってんだよお前」
「我を怖がらねぇほうをだせ!解放してやったんだ、お礼に情報提供くらいしてほしいんだがな」
猛虎が怯える彼女の傍に詰め寄ってく。主としてどうにかこうにかその行動をやめさせようとしたが無理だった。女の人、すみません。
「あなたには私の存在がわかるのですね」
「え?!」
女性の雰囲気が急に変わり、さっきまでとは別物の雰囲気が漂っている。
「まずは先程の私の言動について謝罪を…ごめんなさい」
「おう、許してやる。で、あんたの知ってることを話してほしい。この場所と出口についてとかだな。ついでにあんたについても聞いておこうか」
「そうですね。では、自己紹介から私は誘無身です。この誘獄の守り人を務めています」
「守り人ねぇ~で、もう一人のあんたはなんていうんだ?」
「彼女の名前はミスティ、あなた方をこの空間へと閉じ込めたカイザという男の妻です。そして、私の主でもあります」
「なんで自分の奥さんをこの空間に閉じ込めているんですか?」
純粋な疑問だった。俺らは捕らえるために幽閉されたのだろうが、自分の妻をこのような空間に閉じ込める理由がわからなかった。ん?この人今この女の人…ミスティさんが主だって言ったか?どういう意味だろうか。いや、それは置いとくとしよう。
「ミスティがここへいるのは夫であるカイザの最後の足搔きによるものです」
「足搔きで自分の妻をこんなところに閉じ込めるってどんな束縛野郎だよ」
「お二人はカイザと接触されましたか?」
「わかりません。俺らは死人のような顔面蒼白の男の手によってこんな場所にとらわれてしまいました。その男がカイザって人なのかは知りません」
「そうですか。私も外の世界のことは存じ上げておりませんがおそらく、あなた方をここへ閉じ込めたのはカイザだと思われます」
「あんな気持ち悪いやつが好きだとか、その女の趣味は大丈夫か?」
「今のカイザは操られているのかもしれません。死人のような見た目もそれによるものかと…」
「操られているって誰に?」
「仮面の悪魔…ドルフィネにです」
「仮面の悪魔?」
「ええ、人形好きの人の魂を奪う力を持った悪魔です。他者から奪った魂をお手製の人形に付与して愛する気味の悪い男です」
「で、その男にあんたの主の男は操られていると?そういいたいのか」
「ええ、そうです」
「猛虎、どういうことだ?」
「こいつはさっき叫んでいた女の守霊だぜ。ただ我とは同じようで別物の守霊だがな」
「同じようで違うってどういうことだよ」
「私の主は所謂、転生者です」
「転生者?」
「ええ、ですからあなたのような異世界からの転移者とは少し違ったものとなります。私は転生者として生まれ変わる前の主の守霊でしたがなんの因果か転生したあとも主と共に存在しています。なぜそうなっているのかは私にもわかりません」
「俺以外にもこの世界に来た人がいたんだな」
「転移と転生じゃ別物だがそうみたいだな」
「少し話がそれましたが先程の話の続きを致しましょう。この場所は誘獄と呼ばれる墓場みたいなところです。主に魂を抜き取られ肉体と意思のみのものが送り込まれる場所となります。あなた方が戯れたあのサカラミたちは長い年月を経て狂った意思を持った肉体たちです」
「サカラミってのはあの人面鳥野郎のことか?」
「そうです」
「あんたの主はあの鳥野郎達みたいに狂ってないのか?」
「ミスティは他の者とは違い、魂を持った状態でこの場所にいます」
「は?どういうことだよ」
「この話は長くなりますがよろしいですか?」
「ああ、構わない。ケントもそれでいいだろ?」
「急ぎたい気持ちはあるけどその仮面の悪魔ってやつと戦うときに備えて情報を知っておかないといけないよな」
「そうだぜ、情報は力だ。よし、あんた話してくれ」
「わかりました。では…」




