霧の中
「おりゃ!」
猛虎指導のもと虎撃連舞の練習が続く。時折、周囲を見渡しつつ安全を確認してからやっている。何せここは一応敵の攻撃により生まれた場所?みたいらしいからな。本来ならばこうやって落ち着いた時間があるのがおかしいくらい今は静かだった。
猛虎の指導はハッキリ言って分かりづらい。肝心の細かい部分がこうだとかあーだとかあいまいな表現で伝えようとしてくる。猛虎がこういうのを教えるのが下手なのか、はたまた感覚野郎なのかどちらにせよ習得がスムーズにいくことはない。ひたすら繰り返して猛虎がいう感覚を体に染みつかせていくこと、それがベストだ。まぁ、言ってしまうと俺も感覚派ではあるためなんとなくだけど猛虎の言いたいことはわかるんだけどね。でも、教えられる身としてはどういう原理で起きてどうすればできるのかってのが分かりやすいに越したことはないよね。
「なぁ、猛虎」
「んぁ?どうしたケント」
「お前、どうすればここから出られるとかわかるか?」
「はぁ?んなもん知るかよ。ケント、お前はさっきあのガリズマとかいうやつらを助けるとか言ってたが、今解決しなきゃならない問題はここからどうやって出るかってとこからなのか」
「ん~多分そう!だって気づいたらここにいたんだぜ。まるでこの世界に来た時と同じだ。お前なら俺が気づいていないことも知ってると思ってたんだけど~え、知らないの?」
「お前な~守霊が万能超人かなにかだと勘違いしてないか?我らはあくまでお前に危険がないように見守る存在で、危険が迫ってきたならば持ってる力を貸し与えて危機を乗り越える。そういうもんだぞ。多少なりお前より情報を得ているかもしれんがこんな場所からの脱出手段なんか知らないっての」
「そうか…」
ほんの少しだけ期待していたがやはりダメっぽいな。マンガとかアニメではこういう特殊能力《守霊》を持った主人公ってその力に導かれるように物語が進んで行くイメージがあったけど、実際はこんなものなんだな。アニメや漫画の世界とリアルって一応割り切ってたけど、こうも非現実的なシチュエーションが実際に起きてみると少し期待が湧くのは仕方ないよな?異世界で俺最強になりましたとかってやつ…
「そういや、ケントお前感電とかしたことあるか?」
「そんなもん無いに決まってるだろ。てか、普通に生きていて気を付けていれば大抵の人は感電なんかしないだろ」
「まぁ、そうだよな」
「で、どうしてそんなことを急に聞いたんだ」
「いや、我の力で電気を纏うものがあってだな。それをお前が使うにあたり多少ビリビリするのに慣れがあればな~なんて…」
「猛虎、そのビリビリってのが静電気レベルならどうにかなるかもしれないけど、それ以上となると俺の体が持たないと思うよ」
「ん~そうだよな。人間の肉体ってのは案外脆いからな~あの技はやめておくか」
「猛虎、お前さ…俺を守るのが役目なのにその守る対象にダメージ覚悟のうえで力を貸し与えようとしてたの気づいてるか?」
「そりゃあ・・・気づいてるに決まってんだろ。だから確認したのよ」
「ならいいけど」
「それよりどうだ。虎撃連舞はできそうか?」
あ、こいつ話を捻じ曲げやがった。まぁいいか。
「そんなもんこの短い時間でできれば苦労しないって」
「そうか」
猛虎と話しながらも特訓は続けていた。だが、完成なんかするわけもなく腕に疲れが溜まるだけだった。実際、水面を走れる人なんてのも実在しないし、いたとしてもほんの数メートル程度か小細工してるだけだろう。それと原理が似ているこの技もすぐに習得できるはずがないんだよな。
「猛虎、一旦技の特訓は終わりにしてここから出る方法を探さないか?時間経過で出れるなら話は別だが、どこかに脱出口があってそこからしか出られないとかだったらヤバいだろ」
「そうだな。我はこうやって具現化するのも悪くねぇから気にならねぇが、ケントはゆっくりもしていられないか。ガリズマとかいうお前の仲間を探して合流しなくちゃならねぇもんな」
「うん。俺のとこにはあの死人みたいなやつが現れなかっただけで、別の場所で孤立させて対象をひとりずつ倒していっている可能性もあるから早く合流はしたいよな」
「なら、移動するか…あれ?なぁケント、この周りってこんなに霧がかっていたか?」
「そんなはずはなかったと思うけど…」
確かにここに来た時には辺りが見渡せたが、今はぼんやりと霧がかかっており見えにくくなっている。なんかここをホラー映画の墓地って例えたが本当にそれらしくなってきて気味が悪い。
「これは~移動しない方がいいのか?でも、出口を探さないといけないし…」
霧が深くなってくると移動も困難になる。吹雪が吹く山を移動するのと同じで前が視界不良で行動するのは重大な事故につながるしなにより自分が何処にいるのか見失いやすい。下手すりゃ同じところをグルグルと回ってたりしてしまう場合もある。
「タス・・・テ」
「猛虎、何か言ったか?」
「何も言ってないぞ」
あれ、おかしいな。何か声が聞こえたような気がしたのに…気のせいなのか?




