虎撃連舞《フーランペイジ》
「そう言えばお前、どうして今までこうやって姿を現さなかったんだ?俺の力が足りないだとかあんな技を使えたりだとか教えてくれれば良かったのに…」
「あのな~我らの具現化ってのは基本的にはできないんだぜ。具現化できるんだったら我が敵と戦ったほうが楽だろ?だが、できないからケントが出力できる範囲で力を貸し与えているんだ」
「じゃあ、どうして今は具現化できてるんだよ」
「それはこの空間だからだな。霊的な力が安定している」
「は?」
霊的な力が安定してるから猛虎が具現化できていると…意味が分からない。いや、確かに猛虎は俺の守霊で霊的なものだけど、どうしてこの空間が霊的な力で安定してるんだよ。
「さっき倒した鳥野郎達も半分は抜け殻みたいだったぜ。肉体はあってもその本質たるものが抜け落ちている感じだった。がらんどうってやつだな」
「半分は抜け殻っていったって、普通に動いていたけど?」
「あいつらはかなり強い意志だけで動いていた。生物は核となる魂、あとは喜怒哀楽といった感情や意志、そしてそれらを入れておく器の肉体の三つで成り立っている。やつらは皆、魂が欠けていて意志や感情が肉体を動かしているようだった」
「魂が欠けていたってどうして…」
「我が知ったことじゃないがあの顔色がわりぃ男は魂がどうのこうのいってたじゃねぇか。何かしら知ってるのやもしれん。この空間も奴が生み出したものだろ?」
「でも、アイツはラタリーに質の高い者…魔力が強い者が誰かって聞いていたぞ。魔力の強いものを求めているのに魂を奪うってどんな関係があるんだよ」
もし、仮に魔力が強い者=良質な魂ってことだとしてもそれを集めてなにをするつもりなのだろうか?魔力があれば強大な魔法を使うことができるが…
「なぁ、ケント…そんなことよりよ~話しておきたいことがある」
「な、なんだよ急に、話を逸らすなよ。そんなことじゃないだろ、奴らの目的がわかるかもしれなんだぜ?」
猛虎は俺の方を向き真剣な表情で俺の返答待っていた。
「確かに奴らを捕縛するっていうクエストも大事だが、我の使命はお前を守ることだ。具現化していられるのにも限りがあるんだぜ。この空間でならしばらくは大丈夫だろうがよ...せっかく触れられるんだ、今のうちに技の一つでも極めておこうと思ってな。奴らが魂やら魔法をどうしようがお前が生きていりゃ大したことじゃねぇ、我の力をお前自身が引き出せるようになればなんとかなる」
「わかった。お前が俺の命を第一に考えてくれているのはわかるけど、もしガリズマさん達に何かあったのなら俺は全力で助けるぞ、仲間は見捨てない。そのためには力が必要となる、自分と仲間…全てを守るにはそれ相応の力がいるんだろ?」
「ああ、そうだ。ケントの生き方については我ら守霊が口をはさむことではない、好きにしろ。だが、自ら危地へと行くというのなら我の力は必要となる。さっきのような事態になっても一人で切り開いていくだけの力、身につけろ!」
「よし、まずは何すればいいんだ?一応、ここは敵の支配する範囲内だから下手に動くと危ないだろうけどやらないことには何もできないからな」
「そうだな。まずは…」
猛虎から力の使い方について色々と教えてもらった。最初は今の俺でも使える虎撃連舞からだ。虎撃連舞の原理は簡単にいうと高速の切裂き攻撃の集合体らしい。傷口から斬撃の嵐が生まれるのは爪一振りに複数の斬撃を加えているからだと…は?何言ってんのこいつってなるよな。一振りに複数の斬撃を加えるってどうやるんだよ!って聞いたら、アイツは『そんなの爪をシュッっと振ってズバッだろ』って言いやがった。説明になってねぇよ!バカなのかこいつは…でも、俺はそんな技を繰り出していたんだよな。
「こうだよこう!」
シャッシャッシャッシャッスッスッスッスッスッスッスススス・・・・
猛虎が手本とばかりに爪を振るった。うん、んなもんできるか!常人離れした動きすぎるだろ。
「我ができるっていうんだやれ!あの人面鳥を倒したときにはできたんだぜ?できないわけないよな」
なんか猛虎が変な圧をかけてくるが確かに無理そうに見えてもついさっき繰り出していたわけだし…できるんだろうな~無理ゲーにか見えないけどね。
「こうか?」
見よう見まねで手甲鉤を振るう。だが、どうにもこうにもできねぇ。あの技ができたときには橙色の靄が手甲鉤を覆っていた。もしかしたらそれが関係していたのかもしれない。猛虎に確かめてみるか。
「なぁ猛虎、虎撃連舞が成功したときにはなんかこう橙色の靄が手甲鉤を覆っていたと思うんだが…お前、それがなにかわかるか?」
「橙色の靄?我はそんなものは知らんぞ」
「知らないってお前な~」
「その靄が関係していたとしてもケント、今のお前には速さが足らね~水面を走るには片足が沈み切る前にもう片足を出すことを繰り返せばいいのと同じように片腕の振りで足りないのであれば両の爪を使えばいいだけだ。さながら高速乱れひっかきともいえるな」
「本当にそれでいいのか?」
「問題ない。要は忠実に再現できずとも目の前の敵を倒せる技となればいいだけの話だ。さぁ、やってみろ」
猛虎は技の体裁に関しては特に気にしないみたいでどんな形でさえ、敵を倒せるものであればいいとのことだった。敵が倒せれば俺の身に危険が迫ることはないのであって確かに技の完成度がどうのこうのってのはどうでもいいことだな。




