守霊
ギェエエエエ
「ん?」
人面鳥の屍の山からくぐもった鳴き声が聞こえた。どうやらあの斬撃の嵐を生き残った個体がいたようだ。正直、ここまで残酷な結果になるなんて思っていなかったから罪悪感に苛まれる。まぁ、奴らも俺を嬲りころそうとしていたわけだし、やられてもしょうがないとも思うが…あれは一方的な惨殺だったんだよな。
ギェギェ…
「まだ生きているのならこいつだけでも助けるか…恨まれそうだがとどめを刺すのも違うよな?」
屍の山を手甲鉤でかき分けて鳴き声の主を探す。助け出したそいつは小柄な個体だった。斬撃による傷は深くなさそうだが他の人面鳥たちに押しつぶされて片方の翼が変な方向に折れていた。
キェエエエ!
そいつは威嚇の声を出しながら俺から距離を取った。その顔は怒りと恐怖に彩られている。うん、当然の反応だよな。俺は仲間をころしたやつなんだから…俺は治療魔法なんてものは使えないし、応急処置をしようにも近づかせてくれないか…このまま放置ってのはどうかと思うがどうしようもできないしそうするしかないか。俺は人面鳥を挑発しないように静かにその場を離れようとした。
キェェエエエ!!!
人面鳥に背中を見せたタイミングだった。それは地面を強く蹴り、俺との距離を一気に詰めて俺の首筋に向かって食らいつこうとしてきた。油断しきっていたせいかその行動に反応するのが遅れた。もう目と鼻と先に人面鳥の不揃いな歯が迫っていた。ヤバい!とどうにか避けようと身を捻ろうとしたその時…
グシャッ
目の前に迫っていた人面鳥が突如弾け血飛沫が俺にかかる。
「こういうのを油断大敵といったか、敵に背を向けるとは死にたいのか?」
「お前は…誰だ?…って、その声は…」
「俺はお前の守護精霊、守霊 猛虎だ」
「守霊、猛虎?」
「ああ、そうだぜ。実際に会うのは初めてだな」
目の前には金色に黒が混じった髪、獲物を狙ったような眼、手の先に鋭い爪があり、どことなく虎っぽい耳を持った男が立っていた。
俺がその姿に困惑していると虎男がゆっくりと近づいてきた。
「ま、待て!それ以上近づくな」
「あぁ?なんだよ。もしかして、我のことを疑っているのか?それならやめとけ、時間の無駄だ。それより、我は名乗ったぜ、いくら主様とはいえこうやって相まみえたんだ、名乗って欲しいがな」
「わかった。俺の名は霊仙拳斗だ。これでいいか?」
「ケント…それが主様の名か、覚えた!」
「猛虎といったか、お前に聞きたいことがある。守護精霊ってのはなんだ?」
「フッ、守護精霊が何かってか…そうだな~守護精霊ってのは異世界人であるケントがこの世界で生きていくために与えられた特殊な力ってやつだな。元の世界でも守護精霊ってのは憑いた主を守る存在だったろ?」
「確かにそうだったけど、俺に与えられた力か…って、お前!俺が別の世界から来たことを知ってるのか?」
「あぁ、知ってるさ。ずっと見てきたんだからな」
「なぁ、俺はどうやってこの世界にきたんだ?見てきたんなら知ってるんだろ?」
「我が生まれたのはこの世界にケントが来たときだぜ。どうやって来たかまでは知らねぇよ」
「そ、そうか…」
「ケントみたいな異世界からの来訪者ってのは異常な存在だ。本来ならばこの世界に来たタイミングで世界にころさるんだがな~どうやら世界が生かしたらしい。我みたいな守霊を覚醒させてまでその存在を容認するなんてどうなってんだろうな」
「それはどういうことだ?」
「そんなの我に聞かれても知るかっての、俺の使命はお前を守ることでそれ以外はどうでもいいんだよ。だが、ある程度ケント自身が強くねぇと我の力も使いこなせないがな」
「お前の力ってのはあの橙色の靄のことか?」
「そうだ。我、猛虎の力…猛虎の型だ。連撃と機動力を持ち合わせた力だ」
「猛虎の型か…前にビーインフィニティを倒したってのもその力で倒したのか?」
「ん?あ~あの蜂か、そうだぜ。あんなところでケントに倒れられたら我の存在意義ってのが無くなるからな。やや無理やりだったがどうにかなったな」
「さっきの斬撃の嵐もお前の力なのか?」
「そうだぜ。虎撃連舞、お前が手甲鉤で傷つけたやつを起点に斬撃の嵐が拡散する技だ。斬撃が直接命中しなくても数十メートルくらいはその斬撃が飛んでいくんだぜ。スゲーだろ?だが、今のお前が使えるのはこれくらいだな」
「これくらいって充分すごかったぞ!やりすぎなくらいだ」
「ケント、お前を守るのが我の役目だぜ。主に刃向かうやつに手心なんて加えるかよ」
猛虎の役目は俺を守ることか…守るためなら手荒いことでも気にせずやりきると…守ってくれるのはありがたいがやりすぎも良くないよな。
「ケント、我のやり方に不満があるのならお前が我の力を使いこなせるように強くなればいいだけだ。強くなれ、ケント!」
「強くなれって」
「なんだ?できないってのか」
「できないなんて言ってないだろ」
「だな。それでこそ我の主様だぜ」
猛虎はそういうと嬉しそうに俺にもたれかかってきた。こいつが俺の与えられた力か、使いこなせるようにもっと強くならないとな。




