人面鳥
キェーーーーーーーーーーー
遠方より飛来する人面鳥の群れ、一対一の状況が一瞬にして覆る。狩猟ゲームで鳴き声で仲間を呼ぶ獣ってのを狩っていたことを思い出す…狩猟対象は非力だが呼んできた別の個体はやたら強いとかいうやつな。今回は単に仲間を呼んだだけみたいだ。もともと単体で強くない生物は群れを成して個々の力ではなく数の力で困難を乗り越える習性が元の世界の生物にもあったな。その習性が此方の世界の魔生物にも当てはまるらしい。多勢に無勢、数の有利というのはかなり大きいものでそれを覆せるのは圧倒的実力差か相手の隙をつくくらいだろうか。俺とこの人面鳥の実力はやや俺が有利だ。一対一であれば難なく倒せるであろう。だが、複数を相手しながらとなると厳しい状況になる。
「やるしかないか…」
逃げるって選択肢がないわけではないがこの朽木林を駆け回っても疲れるだけになりかねない。なら、体力があるうちにどうにか抗って勝利を勝ち取るしかないだろう。グッと踏ん張る足に力が入る。
ピシッ
なんか朽木の折れる音とは違う乾いた音がした。すこしだけ気になり足元に目を向ける。
「うげっ、これって骨か…マジかよ」
足元に落ちていた白いなにかの正体、それは骨のようなものだった。なんの骨かは不明だとしてそんなものが転がっているこの場所ってなんなんだろうな。目の前の人面鳥のなれの果てかはたまた人面鳥の被害者のものかどちらにせよ恐ろしいわ!
キェ!キェーーー
最初の一匹が仲間の到来に合わせて指示を出すように引き締まった鳴き声を上げる。あいつにやられました、先輩方やっちゃってくださいってか?どこのチンピラの子分だよ。ってかこんな悠長にやってる場合じゃないな。どうにかこの状況を乗り越える方法を探さないと…俺の武器は手甲鉤のみ、あとはベリルさん仕込みの体術が少々だ。その体術も地上の敵を想定して練習したものだから空から攻撃してくるこいつらに通じるかは不明だな。俺の魔力はゼロ!悲しいが魔法で一掃みたいな派手なことはできない。なら…着実に一体ずつ倒していくしかないか。
「こいよ」
キェーーーーーー!
後から飛んできた人面鳥の中で小柄な個体一羽が先鋒として俺に突撃してきた。一度に多数を相手するよりこうやって来てくれるのはありがたいことだ。その突撃を両手の手甲鉤で受ける。最初の人面鳥に比べ小さいからかなんなく受けることができた。突撃の勢いが消え、人面鳥が退こうとしたタイミングを見計らって手甲鉤を振るう。完全に勢いをなくしたそれに鉄の爪による切り裂きがヒットする。ザシュッっと肉を割き血飛沫を上げ空に打ちあがる。ドサッっと地に落ちた。その塊の周りには紅い水たまりができた。残酷なことかもしれないが初めに仕掛けたのはやつらだ、やられる覚悟もできているはずだ。元の世界で読んだ小説にこんな言葉があった…『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ』と今回の状況を言い換えれば攻撃していいのはやられる覚悟のあるやつだけだって感じか。誰しも一方的にやられるのは勘弁願いたいよな。やられたらやり返す、倍返しだなんて言葉もあるくらいだ。その結果がこれだ。この人面鳥に罪はない、ただ俺に攻撃をしてきたから反撃を受けた…そして、その反撃に耐えれず倒れただけ…ただそれだけだ。
キェエ!キェエエ!
地に落ちた仲間を見て怒り狂ったのか人面鳥たちが騒ぎ出した。なんだよ、俺はただの非力な獲物で一方的な蹂躙をご所望だったってか?力試しに小柄な個体に凸らせて負けたら怒るのかよ。流石に舐めすぎではないか。最初に攻撃を受けた人面鳥も俺に力で負けていたのになんなんだよ。
キェェ!
仲間がやられて怒っているのかキェェキェェと騒ぎ立てて冷静さを忘れている。少し大柄な個体が三羽、敵討ちとばかりに飛んできた。流石にこれを正面から受けるのは無理そうだったのでギリギリまで引き付けて横に避ける。避けたのにムカついたのかまたキェェと鳴くや否やまた突撃してきた。あまり賢い魔生物ではないらしい。冷静さを欠くことは戦闘において最もやってはいけないことだ。怒りを力に変えてとか意味がない。冷静に戦況を見て最善策をうつ。それをやれるものこそが勝者となるんだ。仲間がやられて怒らないなんておかしなことだけど怒ったからって覚醒したり、急に強くなるとかはマンガやアニメの世界なんだよ。一瞬で強くなるなんて幻想でしかない。
キェ!キェ!キェ!
三羽ががむしゃらに突進を繰り返すが隙がありすぎて避けるだけなら問題なかった。これもベリルさんの特訓のおかげなんだろうな~ありがとう、ベリル師匠!
あまりにも攻撃があたらない様子を見ていた他の人面鳥たちがしびれを切らして、その攻撃に加わってきた。流石にヤバいな、数が増えて避けるので精一杯になる。避けたと思ったら次が間髪入れずに来る。なんだよこれ~三次元イライラ棒か?一体どうすればクリアなんだよ。




