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守霊界変  作者: クロガネガイ
第一部
29/145

ラタリー

「こっちでやんす」


 ラタリーの案内のもと混迷樹の森を突き進む。草木が生い茂り進むのも簡単ではないがラタリーは迷うことなく一直線に歩いていく。


「ラタリー君、よくこんなにスタスタと進んで行けるね。道なんてないのに何を基準に進んでいるんだい?」


「え…そ、それは~」


「ガリズマ、彼は魔力が見える眼を持っているんですよ。何かしら私たちには見えない目印をつけて、それを追っているのはないですか」


「ん~そうだったね。見えない目印か~追跡とかを巻くときには便利だけどラタリー君以外に見えないんじゃあまり意味ないね」


「お、おいらが囮をやることが多かったから、おいらにしか見えない目印を使うようになったでやんす。おいら逃げ足には自信があるでやんす。だから、おいらがちゃんと囮として機能していれば…」


 ラタリーは亡くなった仲間たちのことを思い出したのか暗い顔をして俯いてしまった。ラタリーが気を引いて仲間たちがその隙に逃げる。逃げる際に魔法を放って目印をつけていれば後で合流できるって訳だ。それがうまくいかず仲間たちはエデン商会の二人組に葬られてしまった。確かにラタリーが囮として機能していればそのような結末はなかっただろう。でも、もう終わったことで悔やんでもどうにもならない。


「俺たちが…仲間の仇を討ってみせます」


 そんな言葉がスッと出ていた。別にラタリーやその仲間と親しかった訳ではないけれど仲間を守りたいって思いだけは俺も持っている。ビーインフィニティとの戦闘で俺があと少し到着するのが遅ければ今頃ベリルさんはいなかったかもしれない。あの時、助けに向かったから今という現実を迎えられているんだ。ラタリーは囮として機能しなかった未来を引いてしまい仲間を失ってしまった。数ある分岐点で自分の望まぬ道をたどってしまったんだ。後戻りはできない、なら仲間たちのために今を生きて叶うなら仲間たちを殺したエデン商会の二人組に報復を…


「ありがとうでやんす。奴らに罪を償わせてほしいでやんす」


「あ…そ、そうですね」


 なんか拍子抜けしてしまった。自分でエデン商会の二人組を倒したいとかいうかと思ったら罪を償わせるって…俺は少し血の気が多いみたいだな。仲間がやられたらやり返す、仲間のための報復合戦とかいってな。そういのを亡くなった仲間は望んでないとかヒロインとか友人に止められるって展開がそのあとにありそうだな。復讐は何も生まないとか言ってさ、確かに言いたいことはわかるけど失った悲しみと怒りをどうするんだって俺は思う。感情を完全にコントロールできるほど人間できちゃいないんだよ。おっと、話が脱線してしまっているな。エデン商会の二人組にはそれ相応の報いを受けてもらうってことにしてまずは見つけないといけなよな。


「先を急ぐでやんす。もうそろそろおいらが奴らに遭遇した場所に着くでやんす。そこまではわかるでやんすが、それ以降の足取りはおいらにもわからないでやんす」


「そこまででいいから案内を頼むよ」


「わかったでやんす」


 ラタリーの後について行くと開けた場所に出た。草木が踏みならされた跡がある。おそらくエデン商会の二人組によるものだろうか。


「ここでラタリー君は奴らと遭遇したのかい?」


「そうでやんす」


「おい、お前の仲間とやらはどうなってやがる。周りをみたが血痕なんて見当たらねぇぞ」


「そうだな。殺されたとなれば血の跡がの残るのが普通だ。亡骸がないのはそいつらが持ち去ったんだろうが血痕がないのはおかしいと思うぞ。ハハハ」


 この場所についてルシウスさんとベリルさんはいち早くあたりの調査をやっていたらしい。確かに血痕がないというのはおかしいよな。


 ガッ…ガッ…ガッ…


「なんだお前」「貴様は誰だ」


 大きなこん棒みたいなものを持った顔面蒼白の男が大木の陰から現れた。そいつを見るやベリルさんとルシウスさんをはじめ皆が臨戦態勢にはいる。俺も少し遅れて武器を構える。


「六名か。ラタリー、そいつらの中で質の高い者はどいつだ」


「え?!」


「ローブを着ている血人ヴァンプワンドを持っている常人ジェネはなかなかの魔力を持っているでやんす」


「そうか。よくやった」


「ハハッ」


「ラタリー君、一体どういうことなんだい。奴はおそらく君の仲間を…」


「ひゃはは、おいらに仲間なんていないでやんす。あんたらに話したことはすべておいらの作り話でやんすよ。いや~滑稽で笑いを堪えるのも大変でやんした」


 作り話、ラタリーはそういってケタケタと笑いながら死人のような男のもとへと歩いていく。そいつはお前の仲間を殺した仇…いや、その話は嘘だったわけで…俺らはラタリーに騙されていたってことなのか?訳がわからない。


「旦那、これだけいれば大丈夫でやんすよね」


「ああ、十分だ」


「じゃあ、おいらはもう解放ってことでいいでやんすか」


「そうだな」


 ゴッ


「ぅぅ…なんで」


「お前は用済みだ。よく働いてくれたが、俺たちから盗みを働こうとしたことは決して消えはしない。ドルフィネもお前のタマシイは必要ないと言っていたからな。処分さ」


「そ…んな」


 俺の目には裏切ったはずのラタリーが死人のような男に頭を打たれ倒れている光景が映っていた。奴らは仲間同士なんじゃないのか?ラタリーは俺らを騙して死人のような男のもとに連れてきた。なのに死人のような男に攻撃されている…どうなってんだよ。


「君はエデン商会のものだね。ラタリー君は君たちの手先じゃないのかい?」


 ガリズマさんが死人のような男に問いかける。


「こいつは俺らのアジトに忍び込み。盗みを働こうとした罪人だ。本来ならば即刻抹殺する予定だったがなかなかいい眼をしていたからな少しばかり猶予を与えて働いてもらっていたわけだ」


「用が済んだから始末した…そういうことかい?」


「そうだ」


「君たちは…」


「お前らと話す暇などなかったのであった。早く連れて行かなければな」


 死人のような男はこん棒のようなものを地に突き立て両手を俺らに向けて翳した。


「闇に埋もれて失せよ…誘獄ハデス


 男の両の手から黒い靄がドッと現れ俺たちを包んでいく。そこで俺たちの意識は消え失せた。

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