ギルド交流②
なんやかんやで俺の二つ名は英雄に決まった。元の世界での言葉の意味合いを踏まえると複雑な感じではあるが、この世界では単に誉れとして受け取られるみたいだしあまり気にしないでおこう。
「ケント君、なかなかいい二つ名になったんじゃないかい」
「そうみたいですね。二つ名ってこういう感じで決まるんだなって思いましたよ」
ローブの男と話していたガリズマさんが戻ってきて話しかけてきた。
「二つ名は自分で名乗ったりすることもあるけど基本的には何かの功績に紐づけて決まることが多いね。今回はビーインフィニティにより深手を負ったベリルを助けた新人って感じが英雄のそれみたいだったからそう決めたんだろうね」
「正直、俺は倒した記憶ないんで何とも言えないですけどね。そういえば冒険者同士では二つ名で呼ぶのがルールみたいな感じなんですかね?」
「いや、別にそんなものはないけど~ベリルとルシウスは変な意地を張ってお互いの名前を言えないだけだと思うよ」
「そうなんですね。ルシウスさんってあの大斧を持った人ですか?」
「そうだよ、暴れ斧ルシウスだね。彼と私と話していたローブの男、鮮血公ミヤはギルド【血の番人】に所属しているね」
「血の番人ってなんか物騒な名前ですね」
「そうだね。商業街ノーヴァにいるギルドの中では戦闘狂が揃っていることで有名かな。特にギルドマスターの不滅ウォーデンは一人で万の軍勢と闘えるってことで恐れられているよ」
「一人で万の軍勢をですか?!一体どんな人なんだろう」
「ルシウス、今日はウォーデンとラストはいないのかい?」
「あのバカなら時間までには来るだろう。ラストが無理にでも引っ張って来る。一々あのイカレ野郎に合わせていたら命がいくつあっても足りんからな」
「そうですよ。ギルドマスターなのに自由奔放すぎて手に負えません」
「まぁ、それがウォーデンらしさってことだから仕方ないんじゃないかな。それも承知で一緒にやってるんでしょ」
「だな」「そうですね」
「ガリズマさん、ギルド【血の番人】のギルドマスターってそんなに自由人なんですか」
「うん。自分のやりたい欲求に素直な人だよ。強くて頼りになるけど痛みが分からないからドンドン突き進んでいっちゃうけどね」
「痛みが分からないってなんでですか」
「ウォーデンもラーシャルドと同じ封人なんだ。そして受けた呪いは痛覚の喪失。彼はありとあらゆる痛みが感じられないんだよ」
「痛みを感じないって別に呪いなんですかね。痛いの好きじゃないから羨ましく思うんですけど…」
「痛みを感じないってことはね。自分の状態がどうなっているのか分からないってことと同じなんだ。いくら腕の骨が折れようとも痛みがなければそれに気づくこともない。目で見れば折れていることに気づきはするけど気づくまではそれが正常であると頭は思っているんだ。痛覚ってのは自分の身体に危険が迫っていることのサインでもあるんだ。それがないから彼は何も気にせず突き進んでいってしまうのさ」
「痛覚がないのもいいことばかりではないってことですね」
「そうだね。でも、祝福がその無茶をサポートしてくれてるから彼は今も健在なんだ」
「その祝福とは…?」
「ウォーデンの祝福は不滅さ。例えどんな状態になろうとも蘇る…それが彼の受けた祝福だよ。そのおかげで彼は万の軍勢と闘えるんだ。倒れても何度でも立ち上がるからね」
「それって不死とは違うんですか?」
「私も詳しいことは分からないけれどこの世に死なない生物はいないよ。ウォーデンも不滅ではあるけれど完全に蘇るわけではないんだ。何かしらの欠損があってそれ以外は元通りになる感じだね」
「それって…」
ドタン!
唐突にギルドホールの入口の扉が開いた。扉のもとに立っていたのは何かにまたがった子供のようだった。
「ミーヤ ゴーハン!」
「はぁ~ウォーデン、来て早々に何ですか」
「ガーリ ガーリ ゴハン!」
何かにまたがっていた子供は乗っていたものから降りてガリズマさんのもとに来た。何をするのかと見ていると両手を前に突き出して食料を要求しだした。
「ウォーデン、久しぶりですね。見ない間にまた幼くなりましたか?」
「ガーリ ゴハン!」
「はいはい。これでいいですか」
ガリズマさんが干し肉をその子供に渡すと子供は勢いよくそれにかぶりついていた。
「すみませんね。ガリズマ。ウォーデン、自分の食べ物くらい自分で調達してくださいよ」
「おい、ミヤ。それよりラストのほうにこい。こりゃ~派手に連れまわされたみたいだぜ。ハハハ。オイ、大丈夫か~」
「ぅぅぅ…」
「わかりました。ルシウス、これを飲ませてください」
ミヤさんはルシウスさんのほうに向かいウォーデンさんが乗っていたものに何かの液体を飲ませていた。確かそれは回復薬か何かだったはずだ。




