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守霊界変  作者: クロガネガイ
第一部
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封人

 あ~どうしてこんなにも不遇なのだろうか…何故か異世界に来てしまって一生懸命生きているのにこんなんじゃ元の世界と変わらない…いや、文明の利器のことを踏まえるとかなり劣化している。普通さ~なんの取り柄もないやつでも何かしら特技なり、能力なり与えられるはずなのに…またしても無しですか。魔力ゼロ、この世界の人は微量でも魔力を持っているというのに異世界人である俺はそれすら持っていない…いや、元々、こことは別の世界にいたから魔力がないというべきだろうか。あ~少しでも期待した自分をぶん殴りたいよ。


「ケント君、大丈夫かい」


「あ、はい…大丈夫~なんですかね。ガリズマさん、魔力がないと生きていく上で何か不便だったりしますか」


「う~ん。別に魔力が必ずしも必要ってわけじゃないから無くても困ることはないだろうけど~無いよりはあった方が色々な選択肢が生まれるかな」


「そう…ですよね」


「無いならないでないで割り切っちまえばいい話だろ?生きていく上である程度の腕っぷしと知恵、助けてくれる仲間がいればどうにかなるだろ」


「…はい。でも、魔力がないと念話ってやつが使えないからラーシャルドさんとは話すこともできないんですよね」


「あ~そのことかい。それならこれを使えばどうにかなると思うよ」


 ガリズマさんがそういって懐から腕輪のようなものを取り出し俺に渡した。


「これって~」


「腕輪型念話機だよ。保有魔力量に関係なく、登録した相手と念話ができるものさ。戦闘中、魔力を魔法に集中させたいとかそういう時に使うものなんだけど私は結構余裕があるからケント君にあげるよ」


「いいんですか?」


「うん、ケント君もラーシャルドと連携できるようになったほうが戦術の幅も広がるからね」


「ありがとうございます。そういえば、何でラーシャルドさんって話せないんですか?」


 ふと疑問に思ったことを何も考えずに尋ねていた。


「あ~そのことね。ケント君はさ、常人ジェネだよね?」


常人ジェネ?何ですかそれ」


「あ~そこからだね。常人ジェネっていうのは亜人種とか秘力種とかと関係のないただの人ってやつのことだよ。人種は大きく二つに分かれていて、人種ひとしゅか亜人種、別名進化種と呼ばれるこれらの二種類なんだ。で、人種ひとしゅの中で何の力も持たないものを常人ジェネといって、特殊な力を持った人種ひとしゅを秘力種と呼んでいる。ラーシャルドは人種ひとしゅの中の秘力種で封人シラってやつなんだ」


封人シラってなんですか」


封人シラっていうのは人の持つ五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・痛覚)と言葉を話す能力の六つの中から一つの能力を呪いにより封じられている人種のことだよ。ラーシャルドの場合、その中の言の葉の呪いってやつだね」


「呪いで言葉を話せないんですか?それって特殊な力じゃなくてただの障害じゃないですか」


「確かにそうだけど、封人シラはただ呪いで制限があるってだけではないんだ。能力が一つ制限されている分、特殊な力…祝福エメを使うことができるんだ」


祝福エメ?」


祝福エメってのは色々あるんだけど~呪いで封じられたものに応じて、通常人が持ちえない能力を使えるんだ。ラーシャルドの言の葉の呪いで扱える祝福エメは気流操作だったかな~周囲の気流の流れを自由自在に操れる能力さ」


「そうなんですか。でも、やっぱり言葉が話せないのって不便じゃないですかね」


「ラーシャルド自身はあまりそのことは気にしていないみたいだし別に問題はないと思うよ。念話で話すときもあまり自分から話すわけではないしね」


「人種については色々と面倒になるからあまり難しく考えるな。そういうやつもいるんだなって思っていればいいんだよ。何か困ったら俺らが助けてやればいいだけのはなしだろ」


「そうですね。俺たちはギルド【ガベラ】の仲間なんですから困ったらお互いに助け合えばいいだけですね」


「そーいうこと。んじゃ、ラーシャルドのところに行って念話機を使ってみたらどうだ。元々ガリズマが使っていたものだし、俺らのことは登録されているだろう」


「わかりました。ラーシャルドさんのところに行ってきます」


「念話機の使い方は腕輪に触れて話したい相手の名前を言うだけだよ。事前に相手のことを登録しておかないといけないけど今回は既に登録済みだからラーシャルドのところに行って腕輪に触れるだけでいいよ」


 ガリズマさんから腕輪の使い方を教えてもらい、ラーシャルドさんのところに向かう。部屋の戸を軽くノックし扉を開ける。部屋の奥のほうで椅子に腰掛けてくつろいでいるラーシャルドさんがいた。


「えーっと、こうだっけか…ラーシャルドさん」


 腕輪に触れ、ラーシャルドさんの名前を呟く。そうすると腕輪が一瞬光ったがそれ以外は何ともない。


「あれ?これってもう通じているのかな」


「ケント、聞こえているぞ」


「うわっ」


 なんか変な感じだった。頭の中に直接声が響いているみたいな感じ。


「えーっと…初めまして…じゃないけど~俺は霊仙拳斗れいせんけんとって言います。これからよろしくお願いします!」


沈黙インナービースト、ラーシャルドだ。ガリズマとベリルから俺が封人シラだということは聞いていると思うがあまり気にしないでくれ。念話でしか意思疎通ができないのは面倒だろうがよろしく頼む」


「はい、よろしくお願いします」


 初めてラーシャルドさんと話したが落ち着いた雰囲気の頼れる男って感じの人だった。これでようやくギルドのみんなと話せたな。ギルドリーダーで優しいガリズマさん、ちょっとうるさいけど俺のことを鍛えてくれる師匠のベリルさん、常に冷静で頼りがいのあるラーシャルドさん、こんな仲間がいるギルドで俺はこれから頑張っていくんだ。元の世界に戻るその日が来るまで生きてやるんだ!

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