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守霊界変  作者: クロガネガイ
第一部
16/145

凱帰

「うぅ…」


「ケント君、目が覚めたかい?」


 腹部に激痛が走る…腕も足も力が入らず、あるのかないのかわからない状態だ。かろうじて顔が少し動いたので声のしたほうを向く。


「ガリズマ…さん」


「良かった。意識がもどったんだね」


「俺は…うぐっ…」


「まだ動いちゃダメだよ、かなりの重症なんだ」


 動くなって言われても全身の感覚が麻痺していて、自分の意志で動くことができない。そういえばガリズマさんと目線がほぼ変わらない位置にいるのはなぜだろう。唯一可動できる顔で自分を支えている存在を視認する。ガッチリとした体躯で口を真一文字に結んだ大男…ラーシャルドさんが動けない俺を抱きかかえてくれていた。


「ラーシャルドさん…ありがとうございます」


 俺の言葉にチラリと目線を向けたがすぐさま進行方向を向きなおした。ラーシャルドさんなりの礼の受け取り方なのかもしれない。ラーシャルドさんは何かしらの理由で口が利けないらしい、だからか意思疎通にはアイコンタクトを使っている。ガリズマさん達は付き合いが長いのか目と目があっただけで何をしたいだとかどうするだとかまでわかるようだった。今さっきの一瞥は礼は受け取ったの合図だったのかな…よくわからないがそういうことにしておこう。そういえば!


「ベリルさんは…」


 なんで俺がラーシャルドさんとガリズマさんとともにいるのかよくわからなかったが、ベリルさんの存在をまだ確認できていないことに気付いた。ベリルさんはビーインフィニティの攻撃でボロボロになっていたはず…俺も重症なのだろうがベリルさんも同じくらいなはずなのに…俺の見える範囲にはいなかった。もしかして…変な考えがよぎった。俺が意識を失ったあと、なんとかガリズマさん達が駆けつけて俺だけは救出できたっていうこと…その際に意識を失ったベリルさんはビーインフィニティに…そんなわけないよな?だってガリズマさん達とベリルさんは長年連れ添ってきた仲間同士、どんな強敵でも見捨てたりするなんてするわけない。でも、ここにいないってことは…


「ん、俺がなんだって?」


 ラーシャルドさんの背後から声が聞こえた。その声は俺の師匠…ベリルさんの声だった。


「ベリルさん、良かった~生きてて…意識を取り戻していたんですね。そういえばどうやって俺たち助かったんですか…ガリズマさん達がタイミング良く来てくれて、あの紅い蜂は倒したんですか?」


「意識はハッキリしてんぞ。腕がスゲー痛いけどな。ビーインフィニティをガリズマたちが倒しただぁ~はぁ?何言ってんだお前」


「え?」


「ケント君、私たちが付いた時にはビーインフィニティはもう死んでいたよ。バラバラに切裂かれてね」


「そうか、俺が倒れたあとベリルさんが何とか倒したんですね。流石です!」


「あのな~俺はなにもやっちゃねぇよ。やったのはお前だろ?あんなすげー技隠し持ってたとか驚いたぜ」


「え…俺が倒したんですか?」


「おう」


「そんな冗談言わないでくださいよ~デカい蜂に体当たりされて気を失っていたのにどうやって倒したというんですか~」


「お前…覚えてないのか?」


「本当に…俺が倒したんですか?あの蜂を…」


「私たちが着いた時、ベリルは意識を取り戻していたけど地に伏したままだったよ。で、ケント君はビーインフィニティの死骸の中心にいた。私たちは実際にみたわけではないけれど、ベリルが倒したっていうのならケント君、君があのビーインフィニティを倒したんだよ」


「俺が…ビーインフィニティを…イテテ」


「お前、あれだけ大見得きったわりにはボロボロだな。でも、よくやったよ。もうそれ以上話さない方がいいぞ。あばらやら諸々折れちまっているみたいだからな」


「ベリルさんだってボロボロじゃないですか」


「俺は、こういうのに慣れてんだよ。冒険者やってりゃ骨折の経験なんて山ほどあるぜ」


「まぁまぁ、二人ともけが人なんだからギルドハウスに着くまでおとなしくしててね」


 ガリズマさんの言葉で俺もベリルさんも口を噤んだ。確かに全身が痛い…今まで生きてきて骨折なんて初めてかもしれないな。そんであんな化け物を倒したってことも…今でも信じられないけどベリルさんもガリズマさんも嘘なんてつかないだろうし、俺が倒したってことなんだろう。

 そういえば、腹蜂の体当たりを受けて意識を失いかけたとき何か聞こえた気がするけど…なんだったんだろうな。


「あっ…バーハニーはどうなったんですか?」


「それか?ちゃんと回収はしたぞ。お前がぶちまけてくれたから最初に集めた分の十分の一くらいだけどな」


 一応採取はできてるみたい…でも、ベリルさんを守るために咄嗟にバーハニーが入った瓶を投げたからその分採取量は減ったらしい。でも、あれがなかったら鉤爪蜂もすぐ攻撃してきただろうし仕方なかったよな?


「まぁ、これくらいあれば十分だと思うよ。質も高いしクエスト達成だね。ギルドに戻って提出して報酬を受け取ったら終わりだよ」


「そうですか…すいません、バーハニーの瓶投げちゃって」


「仕方なかったと思うよ。でも、バーハニーの採取とは別に今回はビーインフィニティの討伐ができたのが大きいね。被害が出る前に倒せたのは良かったよ。本来は申請してからじゃないと報酬はでないんだけどどうにかならないか申告してみるつもりだよ」


「思わぬ成果ってか」


「だね」


 そんな感じでギルドまでの帰路を歩いて行った。初めてのクエストで死にかけたけどなんとかみんな無事で帰れそうで良かった。冒険者って結構大変なんだな。

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