手
「ほれ、いつまで寝ておる」
遠くから懐かしい声が聞こえる。この世界での恩人に似た声だ…
「お、おい鬼姫…流石にそれは~」
「ええい、うるさい。アタシの弟子になろうものがこれしきでくたばっては話にならんのだよ」
刃鬼の声も聞こえる…これは一体…
先程まで自身の守霊と話していたはずなのにいま聞こえてくるのは恩人とその側近の声、その両方が百目鬼にとっては大切な存在であった。
「あ、ちょっ…あぁぁぁぁぁ」
刃鬼がいつになく焦った感じで聞いたことのない声をあげている。なんか悲鳴にも似た声だ…さっきの会話の流れから鬼姫が何かしようとしているとは思うけれど一体何を…
「ほら、目覚めるさね!」
鬼姫の声とともに腹部に強烈な痛みを感じた。え?なにこれ痛すぎるんだけど!?
「イッタァァァァァァァイ」
自分でもだしたことのない声をだし、まるでギャグアニメのごとく飛び上がる。痛みに耐えつつ目を開けて回りを見渡すと大きな槌をもった鬼姫とその横で狼狽える刃鬼、心配そうな表情の拳斗君たちがいた。
「ウェッ」
自分で飛びかかった高さから落下し背中を強打した。
泣きっ面に蜂とはこのことなのだろうかと思わんばかりの痛みの応酬…一体何があったんだよぉ。
「ほら、目覚めた!根性を叩き直すっていうんはこーいうことさね」
「いや、鬼姫…たぶん違うと思うぞ?」
呆れる刃鬼が拳斗たちを見ながら同意を求めていた。
それに答えるように皆一斉に首を縦に降っていた。
「まぁ、いいさね。ほら百目鬼、おはようさね」
「イツツ…鬼姫、手荒な目覚ましすぎないかい?」
「あんたがいつまでたっても起きないのが悪いんさね。皆がどれだけ心配したか…でも、目覚めて…良かったさね」
鬼姫がもっていた槌を放り投げそっと百目鬼を抱き締めていた。先程までの横暴とはうってかわり抱き締めたまま微かに震えていた。
「鬼姫…?」
「ほんとダメかと思ったさね。アタシはこの命をアンタにかけたっていうのにアンタときたら…」
「勝ってに命を託されたら困るんだけど?」
「そりゃそうさね。でもあの時のアタシにはあれが精一杯だったんさね」
「敵は?」
「もういないさね」
「そっか…よかったぁぁぁぁぁ」
「でも、倒しきったわけではないさね」
「え!?どういうこと?」
「それは…」
「それについては俺から話そう」
「ウィードさんでしたっけ?」
「あぁ、そうだ。調子はどうだ、百目鬼?」
「体がいたいですけどそれ以外は大丈夫そうです」
「そうか、力は使いこなせそうか?」
「力…」
「まぁ、いい。鬼姫から聞いただろうが詳しく話す。お前らの村を襲ったやつは封印に成功した。記憶を奪われたものも鬼姫の活躍で命のあるものはもとに戻った」
「命のあるものは?」
「そうだ。多少なりに被害者はでている」
「そう…ですか」
「お前には軽く話していたが改めて…俺らと共にこい、百目鬼!」
「急になんですか」
「鬼姫からはお前の意思に委ねると聞いている。だからお前が俺らと共に行くと言えばいいだけだ」
「俺がなんのためにあなたたちと同行しなきゃならないんですか!」
「奴らはまだ息絶えていない。鬼姫もいっていただろう?倒しきってはいないと…俺らが倒したのは敵の中の一人にすぎない。このままの状態であれば時が経つにつれ奴らは力をつけ、次こそはこの村、いや…この世界の全てを奪っていくだろう」
「そんな…」
「お前には力がある!そして俺らはその力の使い方を知っている。これだけ言えばあとはわかるな?」
「あなたたちと一緒に行けば俺の力が使いこなせるようになるってことですか?」
「そうだ。共に巨悪を討ち滅ぼそう」
ウィードが百目鬼に手を伸ばす。百目鬼はそれを掴もうと手を伸ばしたが途中でその手を止めてしまった。
「どうした?」
「なぁ、鬼姫…俺はどうしたらいい?」
「はぁ…今になって何をいうさね」
「俺は恩人であるお前を守りたい」
「なら、さっさとその手を掴むさね」
「でも、この人たちと一緒に行くってことは君と…」
「はぁぁぁぁぁ、もうアンタは融通の聞かない子供かなにかさね?アタシを守りたきゃ強くなればいいだけさね。アタシと離れたくない?とでもいうんさね?そんなあんだがいたってなんの役にもたたないさね」
いつになく鬼姫は百目鬼のことを突き放した。拒絶に近い馬鹿にした対応だった。百目鬼はその態度に怒るわけでもなくただその場から立ち上がっただけだった。
「ほら、アタシを守るんだろ?なら強くなるさね。アタシの弟子がなまくら小僧って恥さらしになるさね」
「ちょっと鬼姫、言い過ぎだ」
百目鬼にたいして罵詈雑言を投げ掛ける鬼姫を側にいた刃鬼がとめにはいる。百目鬼はただそこに立っているだけだった。
「もう一度聞こう。俺らと共に行こう」
ここでウィードが百目鬼に手をさしのべる。なんだか最悪の空気のなかそんなことなど気にしないって感じだった。
「ほら、今のアンタを必要としているやつがいるじゃないか!さっさとそっちにいくさね」
「やめろって鬼姫」
刃鬼が全身を使って荒ぶる鬼姫を止めていた。もし彼がいなければ鬼姫は手にもっていた槌で百目鬼をぶっていたかもしれない勢いだった。
「ウィードさん、あなたと行けば俺は強くなれますか?」
そんな中、百目鬼がポツリと呟いた。
「あぁ、俺が保証する」
「わかりました。よろしくお願いします」
百目鬼はウィードの差し出した手をとりうつ向いたままその場を去っていった。




