記憶の記録
「さて、これをどうするかってことだが~どうするよ?」
俺たちは消え行くダライの頭部から奪われた記憶をそこらに散らばっていた武器へと移すことに(たぶん)成功した。で、残されたこの記憶が刻まれた武器からどうやって本人に記憶を返すかって話になっていた。
「とりあえず奪われたやつに押し当ててみて反応があるかをみるのはどうでしょう?」
「まぁ、そーするしかねぇか」
俺の提案にウィードが賛同する。記憶が刻まれた剣のひとつをもって一番近くに倒れていた鬼人の側へと向かった。
「ねぇ、安仁屋~それがその人の記憶であってるの~?」
「はぁ?そんなの知るかよ」
「それならやめといたほうがいいんじゃない。もし別の人の記憶だったら私たちにはどうしようもできないじゃん」
「あ~確かにそうだが…じゃあ、一体どうすりゃいいんだよ」
神楽ちゃんに止められウィードは此方へと戻ってきた。確かに神楽ちゃんのいうことは正しい。もし俺の提案がうまくいき記憶を取り戻せたとしてもその人のものでない可能性がある。これだけたくさんのものがある以上どれが誰のものなのかの判別も大変になる。
「なぁ、百目鬼はどう思う?」
先程から何かを考えている様子の百目鬼にも意見を聞いてみる。なんか頭を抱えて苦しそうとも見受けられるがどうしたのだろうか。
「…われ」
「え?なんて」
「あたしに…変われ」
「はい?」
百目鬼が一瞬ビクんと震えたかと思うと頭に当てていた手を下げこちらを…記憶が刻まれた剣の山に凝視し始めた。
「お、おい…百目鬼?大丈夫か」
すこし心配になり声をかけるが百目鬼は真剣な表情で剣の山を見つめていて俺の声なんか聞こえていないようだった。
「おい、貴様…一体何者だ?」
ウィードがそんなの様子の百目鬼に気づき声を荒げる。百目鬼はその声にも反応を示さずただ剣の山を見ていた。やがてこれだと一言だけ発すると剣の山から一本を抜き取りその場から離れていく。
「ちょっと百目鬼!」
俺もその行動には違和感を覚え咄嗟に百目鬼の前に立ちふさがりとおせんぼした。
「百目鬼、どうしたんだよ」
「悪いけど話は後さね。一刻もはやくこれを刃鬼に返してやらないと…」
そういった百目鬼は俺のとおせんぼをスルリと掻い潜り走っていった。その先には倒れる刃鬼の姿が見えた。
「おい、拳斗何してやがる!さっさとやつを止めろ!」
ウィードが百目鬼の行動をやめさせるようにいったが俺は止めなかった。百目鬼の中に誰がいるのかわかったのだ。そして、そのものが何をしようとしているのかも…
「ウィードさん、大丈夫ですよ」
「大丈夫なわけないだろ!下手に別のやつの記憶を返したら俺らじゃどうもできなくなるのがわかってないのか?」
「彼女にはどれが誰のものなのか…わかってるみたいです」
「彼女?なにいってやがる、あいつは…百目鬼は男だろ?」
「百目鬼は確かに男ですよ。でも、今彼の中にいるのは…」
俺は先程の口調から百目鬼の中にいるものの正体を察した。何故彼女が百目鬼の中にいるかはわからない。だが、ダライが彼女の記録を奪えなかったということの説明にはなる。相手の記憶を記録として奪う力をダライだがそもそも奪う記憶がなければ意味がない…だから奪えなかったんだろう。
「ほら、刃鬼起きな!敵は消え去ったさね。一刻もはやく村の復興をしないといけない。ほら、アタシもはやく戻ってこの体を百目鬼に返さないといけないさね。そんなにのんびり寝ていると蹴るさね?ほら、はやく目を覚ましな!あんたはアタシの右腕なんさね」
「うっ…ここは?き、鬼姫様は!?」
「はぁ~ようやくのお目覚めかい。頑張ったのはみてとれるけど情けない格好でのびてたさね」
「百目鬼?お前なんだその口調は…まるで鬼姫様のような~ってそんなのは後でいい。はやく鬼姫様をお守りしないと!百目鬼、鬼姫様はどこへ?」
「はぁ~このバカはまだわからんようさね」
百目鬼はやれやれといった様子で首を横にふっていた。
「百目鬼、緊急事態ということがわかっていないのか?敵に鬼姫様が…ってあれ?」
「ようやくさね?まったくアタシの右腕たるものがアタシに気づかないとかありえないさね」
「こ、これは…鬼姫様…何故、百目鬼の体に?」
「敵がアタシの記憶を奪おうとしてたから一時的に百目鬼へと意識やら記憶やらアタシという存在を飛ばしたんさね。まぁ、アタシの肉体が残らないことも考えての最終手段さね。父上はこれさえもままならない窮地に立たされ、最後を迎えたのかと思うとアタシの場合は運が良かった…と言えるさね」
「そ、それで奴は?敵はどうなったんですか」
「脅威は去った…これも来訪者のおかげさね。あんたを初め、アタシも今回の件ではなんの活躍もできなかった…アタシらは村の窮地を外からきた彼らに助けられたんさね」
「鬼姫様…」
刃鬼と話している百目鬼…改め鬼姫はどこか悲しげな表情をしていた。村の長として同胞を守れなかったことが彼女を責め立てているのかもしれない。だが、それは仕方ないことだと俺は思う。あんな強敵、いくら村随一の猛者でも皆を守りながらなんて無理な話だ。俺らだってそれぞれの力を駆使してどうにか勝てた…だから、彼女が凹むのは違う。
「鬼姫さ…」
「話は済んだか?」
俺が鬼姫さんに声をかけようとしたときウィードが頭を書きながら間に入ってきた。
「あぁ、すまないね。村を救ってくれた恩人に礼のひとつもいわないのは失礼だったさね。アタシをアタシの仲間を救ってくれて感謝するさね!」
「礼はいい。アイツらの討伐は俺らの目的でもあったからな。目的達成の上でたまたまあんた等を救う結果になっただけだ。それより…あんた…鬼姫といったか?あんたにはこれらの奪われた記憶の持ち主の見分けがつくようだがどうだ?」
「なんとなくだけどわかるさね。今のアタシは存在だけを百目鬼に憑依している状態にある。そんな存在であるアタシと同様な状態のものを見分けるのは別に難しいことではないさね」
「そうか…ならはやくこれらを持ち主に返すのがいいと思うがどうだ?」
「わかったさね。話はそれをやったあとでもできるさね」




