転生者に問う④
「百目鬼と知り合ったのはついさっきのことだ。俺には転移者を関知する力があってな。いまこの世界にいる奴らを探して敵の親玉を倒そうとしているんだ」
「百目鬼が守霊の力を使えるようになってたのはウィードさんか神楽ちゃんが教えたんですか?」
「いや、俺らは特になにもしちゃいない。守霊ってもんは他者によって覚醒するもんじゃねぇからな。眠っていた力を呼び覚ませたのならアイツなりになにか覚悟なり決めたんだろうよ」
「そういうことだったんですね…」
「ところで拳斗くん、君はこれからどうするつもりだい?」
「どうするって…一旦、鬼人の村へと戻ったあとはノーヴァに帰るつもりですけど~」
「帰ったあとはどうする?君は俺の目にも捕らえられない謎の存在…イレギュラーといってもいい。俺の目が観測する転移者をワルドの残した希望とするなら君の存在はどういうものなのか…」
「イレギュラー…か」
「俺は神楽や百目鬼のほかにいるであろう転移者をあつめて奴らに対抗できるように鍛えるつもりだ。だから…守霊が使える君もその闘いに協力して欲しいと思っている」
ウィードはそういうと片手を俺に向けて伸ばした。さながら協力関係の証とでもいわんばかりの握手の誘いだった。この世界に災厄をもたらすであろう敵との交戦…それに立ち向かうための力、守霊…俺らがこの世界へと呼ばれたわけ…さまざまなことが脳裏で渦巻いていた。彼の手をとり共に巨悪へと立ち向かうっていうのは誰もが一度は夢にみたであろう英雄譚みたいだ。俺は今、その英雄譚の主役の内の一人として立ち上がるか立ち上がらないかの選択を迫られている。前なら二つ返事でその手をとっていただろうが今は…
「すみません。もう少し考える時間をくれませんか?」
俺の出した答えは保留だった。確かにウィードが言うことに嘘偽りのようなものはないだろう…しかし、百目鬼や神楽のようにウィードの力で観測されない俺というイレギュラーは果たしてどのような扱いになるのか…それが気になったのだ。
「あ~に~や~」
話も一息つき次の話題に移るかどうかと入ったところで神楽がウィードを呼んでいた。
「だ~か~らぁ~安仁屋じゃねぇっていってんだろうが!」
ウィードはその呼び声に半ギレしながら同じ返しをしていた。
あまりにも以前の名を否定するのでどうしてかと気になりはしたが今はそれを尋ねるのはよくないだろうと思い黙って彼の行動をみていた。
ズカズカと地を強く踏みしめて神楽の元へと歩いて行くウィードの後をついていった。神楽らの近くにつくなりウィードが神楽にお説教するように自分を安仁屋と呼ぶなと通告していた。
当の神楽ちゃんのほうは満面の笑みでうん、うんと頷いていた。あれは~そうだな。全然わかっていないやつだ。かまってもらえて嬉しいって感じにも見える。反省の色なんか全くなく、たぶんまたウィードは同じ台詞を言うことになるんだろうな…
「神楽ちゃん、今はそれどころじゃ…」
ウィードのお説教を遮ったのは百目鬼の一声だった。真剣な表情で何かを見ていた。
「で、なんかわかったのか百目鬼」
ウィードは百目鬼の声で我に返った。
「それが…これを見てください」
百目鬼がそういって指差した先にあったのは切り落とされたダライの首だった…もの?
それは形状を変え首とも見えない何かになりかけていた。
「お前の仲間の記録は取り返したのか?」
「いえ、まだです」
「そうか…それは良くないな」
「どういうことですか?」
「いや、こいつの肉体の封印は完了していてこいつは今、記録のみが保管されたものになっている」
「はい」
「俺らに対してなにもできないこいつが次にすることはなんだと思う?元は自分の主に益となる情報…記録を持ち帰るのが目的だったがそれができなくなった…」
「奪った記録をどうにか主に届けようとするかあるいは取り返されないように抹消するか…ん!?」
「そうだ。いまこいつは奪った記録とともに自身を抹消しようとしている。はやく奪い返さないとヤバいっ」
「そんな…な、なにか手はないんですか?」
焦る百目鬼の問いかけに皆顔をあげることはできなかった。この世界で一番長く生きているウィードでさえもこのように敵勢力を負かしたのは初のことだった。それゆえに奪われたものの回収についてはできるかどうかさえも未知のことだった。ただできるかもしれないという可能性にはかけていた。
「すまない…」
ウィードはただ一言謝罪の言葉を述べた。可能性の話で百目鬼に期待を持たせてしまったこと、実際はそれが不可能に近いことであったこと、自分には何もできないということ…それらを纏めたものだった。
「なぁ、そいつを取り込むっていうのは無理なのか?」
俺は何気なしにヤバい提案を持ちかける。
「拳斗、君は自分が言っていることがわかっているのか?こいつを…敵を取り込むっていうことがどんなに危険なことなのか…」
「いやいや違いますって俺が取り込ませようと思ったのは其処らにある剣のかにですよ」
皆が一斉に首をかしげる。なんかその態度からこいつなにいってんだっていうのがひしひしと伝わってくるのはたぶん気のせいじゃないだろう。
「拳斗君、もしそれができたとしてどうなるんだい?」
「こいつが消えてしまえば奪われたものもなくなっちゃうじゃないですか。だから別のなにかに一時的に記録しておけばあとからでもどうにかなるのかなって…ダメですかね?」
「そういうことか…確かにこいつの消滅とともに記録が失われるのはどうしようもできないが他の何かに記録を移して置けば考える余地が生まれる」
「それじゃあ~」
「あぁ、物は試しだ。百目鬼急げ!」
「あぁ、わかった」
ウィードに急かされながら百目鬼は近くにあった短剣をドロドロ状になりかけているダライの首に押し当てる。すると淡く光ったあと持っていた剣に何かの模様が浮き出た。
「よく分からないが記録を移せたのかもしれない。ほらこいつが消える前に残りのもうつせ!」
百目鬼が次から次へとドロドロへと武器を押し当てていた。
ドロドロが消え去ったあと、その場には十数本ほどの模様が現れた武器が散乱していた。




