鬼神の弟子
「ふふ…ふはははは。羅刹というのか。よろしい、一度見た。もう我には通じぬ!」
「それはどうかな?」
「ふん、今に証明してくれようぞ。滅浄崩剣」
「殴剣打刃、技法『羅刹』!」
カンカンと百目鬼がボロボロの剣を素早く打つ。するとその位置の形が変化した。
一直線に百目鬼目掛けて飛んでいくダライの斬撃だったが百目鬼の剣が変化するとほぼ同時に消滅した。
「な…んだと…」
「ほら、どうしたよ。一度見たらもう効かないんじゃなかったのかい?」
「黙れ!」
百目鬼の挑発に怒りを露にして吠える。次こそはといわんばかりにダライはまた剣振るった。
百目鬼は焦る様子もなく剣を打つ。するとまた剣の形状が変化、それと同時に斬撃は消え去った。
「おのれぇ、何をしたというのだ。我はこの眼で確かに記録したのだぞ!」
「あぁ確かにお前は見ていたな。でも、お前が見ていた剣はこれだったか?」
「どういうことだ?ただの鈍、変わりなど無かろう!」
ダライは起きている現象を信じきれずただ乱雑に手にする剣を振り回す。斬撃が生まれる度に百目鬼がボロボロの剣を打ち、それらを打ち消す。ダライの能力とされる一度見たらどんなものでも対処できるようになるというものも百目鬼の力の前には効果がないようだった。
「物分かりの悪いお前に一つ教えてやるよ。その攻撃はもうなにも消せはしない!ってな」
百目鬼が高らかに宣言した。
さっきまでの余裕顔から一変、ダライは険しい顔をしていた。
圧倒的なまでに有利でかつ自分の意のままに出来ていると思っていた状況が己に鈍をつかませた駄作野郎に覆されたのが何よりも腹立たしかったのだ。
「おのれ…貴様ぁ」
ダライが乱雑に振り回していた手を止めた。その目には百目鬼に向けられている。
「ふぅ、やっとわかってくれたようだな。俺にはお前の技は通じないってね」
「あぁ、そのようだな。確かに我の振るう斬撃は貴様には通じぬようだ。だが、これはどう防いでみる?」
ダライは剣を腰の位置持っていき姿勢をやや低くする。体勢をやや前のめりに構えた。それはまるで居合の構えのようだった。一時の静寂、静まり返った状況の中ダライの叫びが響き渡る。
「抜!」
叫びとともに一瞬にして百目鬼との距離を縮める。既に目と鼻の先にまで速度の乗った刃が迫っていた。
「わざわざ近づいてくれて助かるよ…」
「消え去れぇぇぇぇぇぇ」
「殴剣打刃 技法『夜叉』!荒れ狂え、斬撃の風」
百目鬼の首元まであとすこしというところで百目鬼の新しい技が発動する。物凄い速さで振り抜かれた居合を吹き飛ばしダライの全身に無数の切り傷を刻んだ。居合の勢いを相殺した上で更に鎧を纏った男を吹き飛ばしたその威力は相当なものだった。発動もはやく何が起きたか認識するのもやっとだった。
「この我がここまでも…」
「これ以上はやる意味ないよ。さぁ、お前が奪った記録とやらを返して貰おうか」
「こうなっては…致し方なし」
「おい、まだ抗うのか?」
「今回は魔刃を諦めよう。貴様らから得た記録を持ち帰り主様に助言を願わねばならぬ」
「お前、まさかっ!?」
「貴様、覚えておれ。次会う時はその四肢を切り落とし苦痛とともにその記録を奪ってやろう」
「ま、待てっ!」
ダライは自身の不利を察したのか好戦的な姿勢から一変、この場を去ろうとし始めた。
百目鬼が止めようと攻撃を開始しても止めることはできない。ダライは攻撃を完全にやめ防戦一方に切り替えた途端無敵の塊へとなったのだ。もとより鎧は攻撃を防ぐための装飾とされるもの、それを着たまま激しく戦闘を行っていたこともそうだが本来の能力は戦うことではなく守ることにある。先程まで通じていた百目鬼の力も今のダライには効かない。
「おい、奴が逃げるぞ!」
ベリルさんもその様子を見て百目鬼のほうへと駆け寄っていった。俺はシンリーさんに介抱されながらシュアちゃんの治療を受けていてすぐには動けそうになかった。
「それでは…さらばだ!」
ダライが手を横に広げグルグルと回り始めた。徐々に速度をまし、まるで大きな独楽のような状態となった。そんなやつにベリルさんも加わって攻撃を開始するがすべての攻撃が弾かれる。
「おい、さっきの…羅刹ってやつは効かねぇのか?」
「羅刹は攻撃技法じゃないんです。あれは敵からの攻撃を書き消すもので相手に攻撃の意志がなければなんの意味もなしません」
「くそっ、どうすりゃいいんだよ」
状況に苛立ちを隠せないベリルだったが逃げようとするダライを止める手だては浮かばない…
「ここで逃がしたら…」
同様に百目鬼も焦っている。ダライは刃鬼をはじめ鬼人の記憶を奪っている。鬼姫さんからも奪ったらしいけど何も得られなかったらしい。だから今奴を取り逃がせばそれらを取り返す機会が失われることになる。




