燃ゆる火床
「百目鬼!?」
驚きだった。俺とベリルさんが村について小一時間も経っていないのにフラフラだった男が今そこに立っているのだ。
「あいつ、何があったんだ?」
「わかりませんよ」
俺とベリルさんがお互いに顔を見合わせ困惑していると…
「ほうほう間に合ったようじゃの」
「皆さん…ご無事ですか…ハァハァ…」
百目鬼の背後から見知った二人組が顔を出す。
「あれは~爺さんに嬢ちゃんじゃねぇかよ」
「そう…みたいですね」
シンリーさんは能力を使っているのかいつもより少し若返って見えた。肉体を強靭かつ柔軟にそしてそのすべてを活性化させるシンリーさんの能力、錬武だ。その隣でこちらの安否を気にかけながらどこか疲れている様子のシュアちゃんがいて対象的だった。
「何が来たかと思えば駄作と小娘、老いぼれではないか…貴様らも運の悪いことだ。この場に居さえしなければ消滅を免れたやもしれぬのに」
鎧が攻撃を防がれたことなど気にせずもう一度剣を振るう準備にはいった。
「鬼姫…」
百目鬼が鎧の側で倒れている鬼姫の姿を見つけ掠れた声で彼女の名を呟く。
「フン、無能な師の弟子か…そやつが我に勝てるとでも?」
「鬼姫は無能じゃない…立派な鬼人の村の長さ…ごめん、鬼姫。俺には受け取れない…でも、おかげで気づいたんだ。だから!目の前の敵を倒して君に返すよ」
「何をしようと無駄だ。我は一度に滅ぼさぬ限り何度も甦る。そして我は記録し成長し続けるのだ。それがこのダライの与えられた恩寵よ」
「行くよ!」
ダライが振り上げた剣を振るう瞬間百目鬼が行動に出る。そこそこ距離が離れていたのを瞬きの内に移動した。
「なっ…なんだよあいつは!?」
それを見てベリルさんが驚いている。俺も何が起きたかわからなかった。その動きはあまりに早すぎたのだ。
「小癪なっ」
百目鬼の動きに一歩遅れて反応したダライが強引に剣の軌道を変えた。その距離数メートルほど崩壊をもたらす斬撃が一瞬のうちに駆け抜ける。
「鞴よ燃やせ 焔の打ち!」
斬撃が当たる瞬間百目鬼の前に業火があらわれ爆発する。黒煙がそれを包み状況が把握できない。
「滅びたか?」
「まずは熱すること!よしっ」
黒煙の中から百目鬼の大声が聞こえる。
嘘だろ?すべてを呑みこむあの斬撃を受けきれたってことなのか?その光景を見て混乱してしまう。未だに俺自身の体は言うことを聞かないらしい。今の状況を活かして安全位置に避難できていればよかったのだがそれもできないらしい。ベリルさんが傍に来て少しだけ移動することはできたがそれでもまだ戦火の中であることに変わりなかった。
「もう一度!消え去れ」
再びダライの斬撃が振るわれる。奴も己の攻撃がどれほどのものか理解している故に黒煙の中から聞こえた声に困惑していた。一撃で何もかも消し去るその斬撃に耐えられたなんて、もし自分がそれを扱う立場であれば混乱するのもわかる気がするが今それを使うのは敵だ…百目鬼がどんなことをしたかは知らないがその最悪な状況を打破できるのであればどうにか活路が見いだせよう。
再び爆発が起き黒煙がモワッとその場を包む。
「おい…大丈夫なんだよな?」
ベリルさんが俺に肩を貸しながらそう言ってきた。俺も状況が分からない以上その言葉に何も言えなかった。
「三度は必要なかろう」
ダライは不気味な笑みを浮かべこちらに視線を移した。剣を握る手に更に力が込められるのが遠目にみてもわかった。百目鬼を排除した後に俺らを消し去るつもりらしい。
「さてさらばだ、虫けらよ」
勝利を確信した笑み…それは不気味で残酷なものだった。ゆっくりと剣が振り下ろされる。
「ここまでか…」
死を覚悟した時…
「狂乱'ド'闘!」
金属音が響き不気味な笑みを浮かべていたダライがくの字に曲がり吹っ飛んでいった。ダライはとんだ勢いのまま民家の壁にぶち当たる。
「何…今の?」
「間に合って良かった。拳斗君大丈夫かい?」
黒煙が徐々に晴れその中からは俺が猛虎と一体化した時に似たオーラを纏う百目鬼が立っていた。
「百目鬼…その姿は~」
「これが俺の守霊さ。名を~」
百目鬼が俺たちの傍まで近づいてくる。
「おのれぇ、我を邪魔するとは…」
殺気を纏い怒り狂ったダライが崩れた民家からはいずり出る。
「ここは俺に任せて…君はベリルさんと一緒にシュアさんのとこへ」
百目鬼は俺の状態に気付いたのか俺らを庇うように前へでた。
「おい、猛虎…百目鬼のあの姿って~」
『あぁそうだぜ。奴の守霊が目を覚ましたらしいな。あの姿はお前もみたことあるだろ?アイツはアイツの守霊の力を行使しているのさ』
なんとなくわかっていたけど猛虎に確認して納得する。
なるほどね。眠っていた守霊が目を覚まして百目鬼に更なる力を与えたってことか…
ベリルさんにアシストしてもらいながら移動する最中彼の背中を見ていた。
「さて、お前にはさっさと消えてもらいたいんだけど?」
「五月蠅い!消えるのは貴様らだ。無駄な記録はその存在すらも必要とされぬ。主様より賜りしこの秘宝でとく失せよ」
「あ~そうだ。君には奪ったものをちゃんと返してもらわないとだね」
「滅浄崩剣!」
ゆっくりとダライの方へと向かう百目鬼に苛立ちを顕わにするダライは乱雑にその剣を振り下ろした。
「鬼姫、見ていてくれ。これが俺の討つ姿だ」
百目鬼は地面を消し去りながら向かい来る斬撃に向かってボロボロの剣で受けて立つ。
「そんな鈍を盾にできるとでも思うたかぁ!」
ダライはそんな姿をあざ笑う。俺らは彼の背中しか見えないがその背中には説明しようのない安心感があった。
「どんな鈍も鍛えれば蘇る。刃こぼれ、刃折れ、劣化…どんな状況になったとしても俺らはその命を諦めない。それが鍛冶師さ。それでこれが俺の…」
ボロボロの剣をもう片方の手に持った歪な槌で打ち付ける。カンッと音が響きボロボロの剣の打たれた場所が形を変える。その瞬間受け止めていたダライの斬撃が消え去った。
「貴様ぁ何をした!?」
その光景を見てダライが問う。
「これが俺の力の一つ殴剣打刃技法『羅刹』だ」




