英雄は遅れてやってくる
「ケント、全力で行くぞ!」
「はい!」
ベリルの合図を始めとして攻撃を開始する。勢いよく左右に散会し敵を挟み込む形で位置をとる。激昂する鎧はそれらの動きに一切反応せずブツブツと何か言っている。
「一気に蹴りをつけるぞ!疾先刃」
「虎撃連舞!」
勢いをそのまま攻撃に転用して流れるように鎧目掛けて攻撃を繰り出す。鎧はゆっくりとその様子を眺め、ニヤリと笑った。
「ベリルさん!!」
何か敵の策にはまったとそう思った。勢いの乗った攻撃をどうにか反らし鎧から距離をとる。ベリルさんも俺の声にハッとして俺同様攻撃を反らした。
「何故当てぬ?我を楽しませる茶番劇か何かか?」
不気味な笑みを浮かべ手にする剣をゆっくりと持ち上げる。ブンッと音がして剣が振るわれた。俺とベリルさんの立つ間を綺麗に斬撃が通り抜ける。一直線に伸びる斬撃は跡を残し、その通り道にはまるで始めからそうであったように深い傷痕が作り上げられていた。
「なかなかの威力…流石主様だ。このような代物を我へと与えてくださるその配慮、畏敬の念を抱くほかない」
「おい、マジかよ」
俺もベリルさんもその跡を見て一瞬硬直する。たった一振で敵の持つ驚異がどれくらいなのかわかる一太刀だった。
「当たれば終わり…ってやつですね」
「だな…とんだ化物じゃねぇかよ」
状況を再認識して気を引きしめる。もし先ほどのように勢いのまま攻撃をしていたら気づく暇なく消滅していたかも知れないと思うとゾッとした。接近戦がダメでも戦える術は持ち合わせている。一撃必殺に近い技を持つ相手には俺もベリルさんも持ち味の速さで遠距離から攻撃を繰り返すことで太刀打ちできよう…だが…
「これより殲滅を開始する!要らぬ無能は消滅せよ」
鎧が本格的に行動を開始した。さっきまでの佇まいとはうって代わり両手で剣を握りしめ今にも振るえるといった様子だった。
「猛虎、何か無いのか?」
小さな声で相棒に助言を請う。
『死ぬな!ただそれだけだ。時が来るのを待て』
だけど欲しいものとは裏腹に関係のない助言をされただけだった。確かに猛虎にとってはこの場にいる者のことなど俺の命にかかればどうでもよいことだろうが目の前で誰かが消え行くのを見ていろなんてそんなのできない。戦う力があるにも関わらずそれを保身の為だけに使うのは違うと思った。戦う力も骨格を成す手甲鉤がないため本来の半分くらいだけどそれでも戦えないわけじゃない。一撃のダメージが弱くても手数で補えばいいだけのこと…でも…
「まずは一太刀…」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
あれこれと考えている内に鎧が剣を振るった。矛先には数名の鬼人がいた。悲鳴が響き斬撃が無慈悲に彼らを貫く。深い溝を残しそこにいたはずの彼らは跡形もなく消え去った…斬殺とかではなくまさしく抹消…あの剣に斬られたら最後、その存在そのものを消し去るらしい。
「ベリルさん…どうしましょう…」
困惑…駆けつけた時の勢いなんてものは無くなっていた。鎧の脅威に圧倒されてしまったのだ。
躊躇っている間に次の一太刀が振るわれる。一撃目を見た鬼人達は我先にと散り散りに逃げていたがそれを嘲笑うように斬り裂いていく。
鎧は変わらず不気味な笑みを浮かべている。殺戮をたのしんでいる感じだった。
「さて…間引きも良かろう」
辺りには斬撃のあとが多数残り悲惨な光景を見せている。攻撃の手を止めた鎧は生き残った数名の鬼人を眺めどうしようかと考えている感じだった。
「ケント、どうにかこの場から逃げるぞ…」
「逃げるって…どこにですか?やつの斬撃は当たれば消滅するんですよ。建物も盾にならない…それに奴が俺らを逃がすとは到底思えません」
無差別に消し去ったように見えた鎧の惨殺劇だったがその傷跡は綺麗に俺とベリルさんを避ける形をとっていた。
これが何を意味するかはわからないけど俺らに対して何らかの意識を働かせているのだと思った。
「ただ逃げるんじゃねぇ、体勢を整えるためだ。あの鬼神ってやつをつれてくるのに相当な力を消費している今じゃ奴に敵わねぇ」
「さて…そろそろ腕があったまってきたところだ。久々の抜刀、鈍ってないか心配していたが問題は無いようだな。鬼人の記録でより精度が増したとも言える」
「ほらはやくしろ!」
「滅浄崩剣!」
斬撃が一直線に向かってくる。回避をっと…足に力を込めると急に力が抜けた。疲労の蓄積が今現れたらしい。ベリルさんが危惧していた態勢が万全じゃないってこういうことだったのかと今身をもって認識した。だが認識するタイミングが遅すぎた。斬撃は勢いを増して飛んで来る。あれを受ければ消滅か…おい猛虎いいのかよ!俺が消えればお前も…
『そのまま動くな』
はぁ?なんだよこいつはこんな状況なのに動くなって俺に消えろと言ってるのか?まぁ動けって言われたところで足が言うことを聞かねぇから動けないんだけどベリルさんを助けた時みたいに俺の体を乗っ取ってどうにかしてくれてもいいんじゃないか?
今回はダメだって言うのかよ…
死を覚悟した…目の前では必死に手を伸ばすベリルさんが見えた。その手をとったとしても間に合わない。最悪俺諸ともベリルさんも消える可能性さえある。だから…
「ベリルさん、ありがとうございました」
お礼を述べその伸ばされた手を弾いた。まだベリルさんは動ける、なら俺がやられてる間に逃げればいい。そしてガリズマさんたちと仇をとってくれればそれで…
『ほら、来たぞ。絶対に動くな』
本当にこいつは俺を守りたいのか?いまの言葉、俺に消えろっていう意味と変わらないぞ?まぁ、いい。俺が消えれば猛虎も消える…死の世界があるのならそこでありったけの文句を言ってやる。
『ようやく目覚めたか…』
何がだよ…意味がわからねぇ。
「拳斗君!」
「え!?」
俺の名を呼ぶ声が聞こえた。その瞬間、ブワッと衝撃波に吹き飛ばされた。
「遅れてごめん。鐵の鬼神、鬼姫が一番弟子…百目鬼零士…押して参る!」
声の先にはボロボロの剣と歪な鎚を持った百目鬼が立っていた。




