光差す
「愚か者よ…我に二度、同じ手が通ずるとでも思うたか。もうそれは我に記録されている!」
ダライは自身目掛けて飛翔する剣を寸でのところで回避する。そしてその飛翔する剣を無理やりつかみ鬼姫目掛けて投げつける。
「鐵の母!」
鬼姫は咄嗟に鉄の壁を生み出しその剣を防いだ。まさか自身の攻撃を相手に転用されるとは思っていなかった。
次なる剣を生み出す手がとまる…このまま剣を投擲しても奴に利用されるだけ、一度でも奴はその能力を見れば直ちに学習する力がある。だから同じ手は何度も通用しない…しかも、他人の記憶を奪い取り更に記録を増やす。その容量には限りがあるようだがその限度をアタシは知らない…村の同胞をやられ、大事な部下をこんな目に合わされているのに…アタシは鬼人族の長としてこれ以上奴に太刀打ちできないっていうのか…
アタシの能力は鐵の母を起点にあらゆる武具を扱って戦うこと、だけどそれはどれも同じものとして大差ない。つまりは業鍛剣製でどんなものを生み出しても奴には効かないことになる。
「さぁ、終いと行こうか。貴様の記憶はいかなるものか楽しみであるなぁ」
「お前たち!」
鬼姫は叫んだ。鬼神としてできることを皆に伝えるために…
「決して槌を握るのをやめるんじゃないよ!アタシ達は武具を生み出す鍛冶師だ。頭ン中の記憶がなくたって体に刻まれた記憶は消せはしない…だから…」
「フン、遺言か…よかろう。潔く我が手中に収まるというのであれば有象無象は生かしてやらなくもない」
「鍛えるんだ…武具を己を…さすればきっと…」
「鬼姫様ぁぁあ」「鬼神様ぁあ」
アタシはある日突然鬼神になった。父、先代鬼神が戦争にてこの世を去ったのだ。今でこそ平和に暮らしていたがアタシの小さいころには他種族との諍いなんてものは日常茶飯事だった。血の気が多かった父は他種族からあらぬ因縁を吹っ掛けられては殴り込みに行き、誰一人として殺さず生きたままわからせる実力者だった。皆、父を尊敬しアタシも誇りに思っていた。そんな父が戦死したとの報告はだれしも思うはずがなかった。戦にて敗れた敗者にも同胞と変わらぬよう接する豪傑で圧倒的な力を持つ彼がもういないなんて誰も理解できなかった。父の死は何かの冗談だろうと思ったさ…でもそんなアタシに現実を突きつけるように鬼神の象徴である鐵の母が開花した。先代から次世代の後継者へと相応しいものに譲渡される力。父からは歴代の鬼神の英雄譚として毎晩聞かされていたものだった。
「この力はだな~凄いんだぞ。他のものに扱えない唯一無二の力だ。神からの賜りものって言うやつだな。この力で同胞を守ることそれが吾の使命っていうやつよ。ガハハハッ」
父の大きな笑い声で何度眠気を吹き飛ばされたか数えきれないほどだった。同胞を守る力…父の最後を詳しく知るものはいない…父の悲報を伝えた使者も詳しいことを話さずに息絶えた。ただこの力を継承したということは…アタシには使命が与えられたのだ。同胞を守る…鬼神としての責任だ!
「さぁもうよいであろう。あまり長居するつもりはないのでな…」
「打ちて射ちて撃ちて討つ」
「最後の悪足搔きか?無意味な…」
「我が思い、刃に込めて…」
「これで終わりだ!」
「鬼神雷光降り注ぐ」
「失意の果てへと飛び立て、汝が生み出す知性の欠片は我が貪り無へと帰す…亡創失意…喰らい尽くせ!」
「我が刃に込めし灯は煌々《こうこう》煌く陽のごとし」
鬼姫の詠唱が終わると同時にダライの詠唱が終わる。ダライから黒い靄のようなものが出て鬼姫の全身を包み込む。
「フハハハハハ、これでようやく魔刃のことがわかるっ!…どれ…なに、どういうことだ?なぜ何も記録されぬのだ」
鬼姫を包んでいた靄が晴れて中から意識のない鬼姫が倒れた。ダライは鬼姫から奪った記憶を確認しているが何か様子はおかしかった。
「なぜだ…何故だ何故だ何故だぁぁあ。確かに記憶を奪ったはずだぞ!なのに何故記録されておらぬ」
辺りは静寂に静まり返る。ダライは怒りを顕わにし微動だにしない鬼姫の体を乱雑に踏みつけている。
「おい…これは一体どうなってやがる」
「ベリルさん、あれ!」
遅れて到着した拳斗とベリルは今の最悪な光景を目にした。地に伏している刃鬼、あちこちに飛び散った紅い汁…そして鬼姫を足蹴にする鎧の者…そしてその鬼姫も血の気が一切感じられなかった。
「どういうことだよ…おいお前!説明しやがれ」
ベリルがすぐそばにいた鬼人に怒鳴る。
「鬼姫様が…私どもを庇って奴に…」
「ケント!」
「はいっ」
ベリルの呼び声に即座に反応し猛虎の型を発動する。
一瞬ののちに鎧の元へと駆ける。駆けつけた勢いのまま荒れ狂う鎧に渾身の一撃を喰らわせる。
鎧は吹き飛び民家へと激突する。土煙が立ち上り状況はどうなったかわからない。ベリルが睨みを聞かせる中、拳斗は鬼姫の容体を確認する。
「息は少しだけあるようです」
「あっちはどうだ?」
「ここからじゃわかりません。確認するにも奴がどうなったかをみてからじゃないと~」
「おのれ虫けらめ…神を詐称する愚か者…我が主に変わり始末しておかねばならぬ」
周囲を震撼させるほどの狂気、どれほど怒り狂っているのか計り知れないほどだった。
「貴様らの記憶などゴミ以下にすぎぬ。その肉体、散り散りにしてしてくれようぞ」
ダライが何処からともなく小さな本を取り出し詠唱を始める。
「抹消…消滅…消去…要らぬ記録は亡きモノへ…滅浄崩剣現れよ」
小さな本から鎧の者の背丈と変わらないくらいの剣があらわれる。それを鎧が握りしめ不気味に笑った。
「我は今より抹消を開始する。このダライめが尊き主より授かりしこの宝剣にてすべてを消し去ろうぞ」




