響く音
「まだいけるよな?ケント!」
「無茶いわないで下さいよ!今ので限界スレスレですって」
「ちょっ…あ………た……たち…」
能力をフルに活用した疾走の中、ケントとベリルに捕まれて身動きの取れない鬼姫はなにか言いたそうにしていたが風がその声を書き消した。
ベリルもケントも前を向きながらだと風に声が消されるため話す時だけは顔を反らし口早に話している。適度に自分等で加減をつけれるためどうにか伝えたいことを伝えられていた。自由の聞かない荷物のような鬼姫はただ担がれて運ばれていくだけだった。
「そろそろだ」
ベリルが呟くと遥か先にぼんやりと村が見えてきた。ラストスパートと言わんばかりに更に加速する二人…先ほどまでいた地点から村まで着くのにほんの数秒だった。村目前でベリルが急に方向転換した。ケントも驚きつつもそれについていく。
ベリルを起点にその場で円を描く。徐々に速度が落ちていき常人の走る速度くらいまで落ちたときには渦のような窪みができていた。
ゆっくりと足をとめ、その場に膝まづく二人は肩で息をしていた。そんな二人を尻目にフラフラと村の中心へと鬼姫は歩いていった。
「ベリルさん、そろそろ大丈夫ですか?」
「はぁ?それを俺に聞くのか。とうに息は整えている!お前が落ち着くのを待ってやってたんだ、感謝しろよ」
「は、はぁ…」
そんな風に強がるベリルであったが足元を見ると微かに震えているのが見えた。常人の何倍もの速度で疾走した代償といったところだろうか。ケント自身も本調子ではなかった。猛虎の型を使い、身体強化をしていても無理をした形になる。守霊の力をもってしても人としての限界はあるみたいだった。
「そろそろ行くぞ…おっと」
「ベリルさん、危ないですって」
しっかりと立とうとしてふらついていた。意思は前へ前へと向かおうとしていても疲労した肉体が答えてくれないようだった。これはベリルだけではなく拳斗もだった。さっきから立つために力をいれているのになかなか足が言うことをきいてくれなかった。
「くそっ、これじゃあ何もできないじゃねぇかよ」
憤りその矛先を地面に向ける。もっていたジャマダハルを地面に突き穿った。
「ベリルさん、今は休みましょう」
俺はそういうしかなかった。俺もベリルさん同様に体の限界を向かえていた。短時間に体を酷使した代償…それを取り払うには休息しかとる手立てがなかった。
「さぁ、こい。いまの我に死角はないぞ?」
「貴様…」
「そんな怖い顔で見るな。そんなにこいつが大事だったのか?まぁ、そうだろう。右腕と謳いこき使っていたようだしな。道具が壊れるのは実に惜しいことだ。だが、安心しろ。すぐにお前も同じようになる。我は記録する、我自身を媒体として主様へと献上する巻へとなるのだ」
ダライは手を天に掲げる。すると晴れ晴れとしていた空が急速にどす黒い雲に覆われた。
「これは…」
「あぁ、そうだ。新しく知った力、試さねばな!!」
ダライの口調が強まりそれと同時に落雷が鬼姫の元へと落ちる。鬼姫はそれを寸でのところで回避した。鬼姫の立っていた場所には黒く焦げた跡ができていた。高威力かつ高速で降り注ぐ落雷、もし一瞬の迷いが生じれば消し炭になるであろう。
「ほぉ、避けるか。まぁ、知り得たことであろう。対処は余裕か…」
「それは刃鬼の…」
「そうだ。このものから奪った力だ。再現できていたかな?」
「おのれっ貴様ぁ…」
「その様子、なかなかの出来だったようだな」
「鐵の母…」
「ふん、それを避雷針代わりにしようとでもいいのか?甘いな」
「アンタに言ってなかったことがある…」
「それはなんだ…言ってみろ。どうせ我のものとなる記録だ今知ろうと後で知ろうと変わらぬだろ?」
「アンタはただ再現しただけなんだろ?」
「そうだ、我は記録するもの。奪いし叡知の再現は可能である」
「ていうことは…頭打ちがあるってことだろ?」
「ふん、限界があろうとも蓄えた記録でどうにでもなろうよ」
鬼姫はそれを聞くと笑みを浮かべた。
「ほう、この局面で笑みを浮かべるか…面白いやつだ。それで…我に話していないこととはなんだ?」
「それは…これさ!」
カンッカンッカンッ
突如鳴り響く金属音、ダライは音のなるほうを探そうとするが辺りから聴こえどこからなのか特定できないようすだった。
音の発生源の特定を諦め、鬼姫の方へと向き直ると先ほどまで何もてにしていなかった彼女の手に小ぶりな鎚が握られていた。
「そのような玩具でどうしようというのだ?」
「あたしら鬼人族は小さい頃から武具の鍛練をするように鍛えられる。己が肉体にその真髄を打ち込んでいくのさ」
「それがどうした?」
「アタシは…鐵の鬼神、鬼姫…鬼人族随一の名匠よ!」
カカン!
再び金属音が鳴り響く…その間ダライは鬼姫を見ていたが彼女は一瞬たりとも微動だにしなかった。




