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守霊界変  作者: クロガネガイ
第二部
121/145

記憶の支配者

「ぅぅぅ…な…にが起きた。この激痛、奴の攻撃によるものなのか…」


 霞む視界の中、敵の位置を探すと視界が赤く彩られていく。血か…この激痛なら出血しててもおかしくないか…遠くから俺の名を呼ぶ声が微かに聞こえる。ちっ、耳までやられたのか?いや、それだけじゃねぇ全身の感覚がさっきから何も感じない。くそっ、俺は鐵の鬼神…鬼姫キキ様の右腕…こんなところで無様を晒してていいやつじゃねぇのに…体がいうことききやしねぇ。

 鍛え抜いたと思っていたこの体も想像を絶する強敵の前にはただのぼろ切れとなんら変わりないというのだろうか…鍛冶で剣を鍛え上げるように何度も何度も辛く苦しい鍛練に身をおいたのにこの様か…


「この程度か。この者の記憶にはもう少し相手になるものだと刻まれているが…なぁにただの過大評価だったようだな。さぁ、手早くここにいる全てを奪おうか」


 鎧は倒れた刃鬼バキを尻目に周りにいる鬼人オーガへと向き直った。ゆっくりと見渡しまるで次なる獲物を品定めしているかのようだ。


「お、おのれぇぇぇぇぇぇ」


 そんな中一人の鬼人オーガが無鉄砲に突撃し出した。彼は刃鬼バキが飛ばされた時、彼の名を呼んだ者だった。


「や…やめっ…」


 霞む視界の中、感覚のない手を前へと伸ばす。実際には刃鬼バキの手は微動だにせずダラリと垂れ下がっていたが気持ちだけはどうにかしようと働いていた。


「愚か!」


 鎧はそういうと何処からか取り出したかもわからない剣ををスッと振り下ろした。それと同時に吹き上がる飛沫、瞬きの後にはほんの数秒前まで動いていた同胞が真紅の液溜まりに溺れていた。


「ほぉ、ただの剣にしてはなかなか良く斬れるものだ。剣の扱いというのにもコツがあるのだな…この知識、実に良い!」


 一人悦に入った鎧は、手にもった剣についた血糊を振り払った。


「さて、この者の記憶には魔刃についてなんの情報もなかった。他の者らにはあるか試すとしよう。いやしかし、これだけの者の記憶を漁るのは苦となろう…」


 独り言のようにブツブツと呟く鎧…

 未だに体の感覚は戻らず意識が朦朧とする刃鬼バキ、周りには立て続けに倒れた同胞を悲しむ者や恐怖で動けない者などたくさんの鬼人オーガたちがいた。やがて鎧はどうするのか決めたようで一人うんうんと頷きその目をその場にいる鬼人オーガたちへと向けた。


「お前らに問う。魔刃なる武具について知っているものは誰だ?その者を差し出せば命だけは助けてやろう。これは温情ではない、気まぐれだ。故に一度しかチャンスはないと思え。さぁ!」


 覇気のような独特な威圧感が場を制圧する。そこにいる皆は萎縮して誰一人とて声を発しない。そんな様子を鎧は一瞥すると深いため息をついた。


「そうか、貴様らに価値はないか…良かろう。では我が新たなる技術の実験体になるがいい」


 鎧は再び手にもった剣を天高く翳した。鬼人オーガたちが鍛練した武具、その一つだった。

 鬼人オーガたちは日頃鍛造を天職として働いているがその合間に剣術も嗜んでいる。別に戦いに赴くためではない。彼らが剣術を身につけるのはより良い剣を作るためだ。

 使い手がどのように動けば斬れ味が良いか、振りによって脆さが出ないかなどといった使い手のことを配慮した善行だった。

 だが今はそれが鎧の手によって悪行へと変わる。使い手の為にと身に付けた剣術が災いとなってふりかかろうとしているのだ。


「刃と共に散り行くがいい!」


 鎧が鬼人オーガ達へとその手に持つ剣を振るう…


「剣よ…出でよ!」


 カキンっと鎧の剣を止めたのは誰が持つでもない空中を浮遊する大剣だった。


「これは…」


「なにしてんだい、そんなんじゃあたしの右腕は務まりゃしないさね」


鬼姫キキ様!?どうしてこんなにもはやく」


「なぁにちょいと優秀な足がいただけのことさね。それより…ここは鬼人オーガの村、そんであたしはこの村を任された鐵の鬼神、鬼姫キキ!あたしを拐って監禁しただけに飽き足らず村に危害を加える不届き者、あんた覚悟はできているんだろうね?」


「刃を振るわぬ小娘か…今更何をしに来た?こやつの記憶にも鬼神として戦地で勇躍したこともないであろうにそこの大剣ごときで勝てるとでも?笑止!無駄なことよ」


「まぁ、確かにあたしは鍛冶に没頭して先代のように村の発展には尽力してこなかったさね。でも、村を守る…その責任、しかと果たそうじゃないか!」


「丁度よい、記憶を奪うのがあと一人増えても問題なかろう。なぁ、鬼神よ…もう一度問う。貴様は魔刃を知るか?」


「さぁね、あたしに勝てば教えてやっても…」


 鬼姫キキが言葉をいい終える前に鎧は剣を振るった。正確に急所のすぐ横を狙っている。止めを刺そうというわけではなく一撃を入れてそのあと始めにやられた同胞のように鬼姫キキのもつ記憶を奪おうという算段だろう。


鬼姫キキ!!」


 動かぬ体の変わりに気持ちが声となってでる。しかし、その声も掠れてなんといっているのかわからなかった。


「散れ!」


 鎧の剣が振るわれる…光のごとき速さだった。剣術の才があるものでも鍛錬に鍛錬を積み重ねてようやくたどりつける領域…それに匹敵する速度で鎧は剣を振るった。

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