奮い立つ
「ここは…」
見つけた洞穴へと入り中の様子を伺う。辺りには鉄くずが散乱し壁にはところどころ何かがぶつけられたような跡が見受けられた。
「敵のアジトだったところでしょうか?」
シュアちゃんが壁に残った跡を見ながらそう呟いた。
「どうだろう…誰かがいたのは違いないようだけどこの荒れようは何かあったのかな」
「鬼姫はいないかい?」
「ちょっと百目鬼、無理するなって」
俺の肩を借りやっとのことで立てていた百目鬼がよろめきながら洞穴の様子を近くで見ようとした。肩にかかっていた腕が外れると同時に前のめりに倒れかけたから急いで支えに入った。もう一人でまともに立つことのできないくらい疲弊しているらしい。先程まではやり遂げた達成感と高揚感でアドレナリンか何かでどうにかできていたみたいだけどそれが切れた今は一刻も早く安静にさせなければといった状態だった。
「拳斗君すまない。君に迷惑をかけて…自分で鬼姫について探したいんだけどもう体が言うことを聞かないんだ」
「わかってる。あまり無理はしないで俺たちに任せてくれ」
「うん。でも、ジッとしていられないんだ。彼女は俺がこの世界に来て右も左もわからず途方に暮れていた時にあらわれた希望の光だったんだ。彼女の元で彼女の作る業物を見て今では憧れのような存在にもなっている。攫われてからも如何にかできないかってこっそり鉄を打ったり色々してきた。そしてようやく彼女がいるかもしれないところにきてこの様なんてほんとダメだな~俺って」
「そんなことないって百目鬼が起点を聞かせて動いたからあの黒い空間から皆何事もなくでることができたんじゃないか」
「異世界ってのは夢のような世界だって思ってたけど実際は現実と大して変わらないんだな…君のように守ってくれる存在と連携を取りながらっていうのも俺にはない。俺にだってそういう存在がいるというのに何も反応はなし。大切な恩人の一人も華麗に救ってみるなんてのも夢のまた夢。漫画やアニメのような世界にいながらも俺らが主人公ってわけでじゃない。あ~ダメだな…自分の無力を思い知らされて悪い方向悪い方向へと考えが進んでしまっている。なぁ拳斗君、どうして俺らはこの世界に転移してきたんだろうな…」
「百目鬼…そんなこと俺にだってわかるわけ…」
「はぁ~~~~~~~~なんだい誰か助けに来たと思ったら入口でグチグチグチグチと意味のない話をして…助けにきたんならどんな無様でもいい。来たぜってかっこつけて見せて欲しいものさね…なぁ、レイジ!」
「鬼姫!」
洞穴の奥から四肢に錠のようなものをつけた額に角のある女性がゆっくりとあらわれた。全身は土埃に塗れ髪はボサつきすこし痩せこけているようだったが二本脚でしっかりと地面を踏みつける様子からある程度元気であることがうかがえた。
「あなたが~鬼姫さん…ですか?」
「あぁそうだ。あたしが鬼人族の鐵の鬼神こと鬼姫だよ。よろしくっ」
「鬼姫!本当に鬼姫なのか!?」
「なんだいレイジ。あんたの目には別のなにかにでも見えるってのかい?」
「いや…そういうわけじゃないんだ。だって捕らえられているとおもったから…その~」
「あたしの方から現れて驚いてる?ってとこかい」
「そ、そうだ」
「あ~確かにあの馬鹿にとらえられて手足拘束されて延々と魔刃をうてって言われてたね。そうやすやすとうてる代物でないことをしらないんだね~」
「何もなかったのか?」
「ん?何かあったように見えるかい?ま~確かにここ数週間風呂にも入れていないから汚いだろうけど~なんか変なとこでも見えるかい?」
「い、いやそういうわけじゃないんだ。たださらってなにもされてないって不思議に思っただけなんだ」
「ふ~ん、レイジがあたしのようなのをさらったら色々しちゃうんだ~やらし~」
「ち、ちがっ」
あ~何を俺たちは見せられてるんだろう…目の前では俺の肩で支えられた百目鬼と鬼神こと鬼姫さんがイチャイチャしてる。いや、イチャイチャしてるってのは御幣があるな。一方的に百目鬼がからかわれてる…これが妥当だろう。でも~なんだろう。想像に描いていた鬼神と全く違う。もっと威厳のある男交じりの女性かと思っていたけど体付きはどちらかというと華奢で見た目も美人だ。話口調はすこし荒々しいような印象だけどそういうものなんだろう。というか~間に挟まれて彼らの話を聞いているこの状況…非常に居心地が悪いのだが?百目鬼に肩を貸すことは別に嫌でもなんでもないけど会って間もない女性と親しく会話する中に巻き込まれたら誰だって今の俺のような気持ちになるに違いない。
「おい、こいつがお前の言っていた奴なのか?」
「そうだよ。先程自分で名乗っていたけどその人だ」
「ところでレイジ、この人らは一体誰なんだい?あんたと同じ人族のようだけれど~あ、でもそこの娘は違うみたいだね。姿をローブで隠していてもなんとなくわかるよ」
「あぁ紹介するよ。彼らは商業街ノーヴァから来た冒険者、鬼姫に近い方から幻影ベリルさん、シュアさん、不動明王シンリーさん、そして俺に肩を貸してくれているのが英雄拳斗だ。鬼人の村が武器を取引している商会からの依頼でわざわざ村まで訪れてきたんだ」
「ふ~ん。挨拶はさっきしたから二度も名乗りはしないけど~随分レイジが世話になってるようだね。あたしが言うことじゃないと思うけど身を預かる立場として礼を言うよ…ありがとうね」
「い、いえ俺らはそんな…」
「目的の人物は見つかったんだろ?さっさと俺らも村に帰った方がいいんじゃないか」
「ちょっとベリルさん!」
「なんだよ?」
あ~もう少しは空気をよんで欲しいものだ。感動の再会を果たした時に急かすようなのはいかがなものかってわかんないかな~わかんないんだろうな~だからさっきの発言を平然としたようだし…
確かに早く刃鬼達の後を追って戻った方がいい。でも、一人では身動きの取れない百目鬼ととらえられていた鬼姫さんを連れて戻るのはそこそこ骨が折れるぞ。
「そういや、あの馬鹿はどうなったんだい?」
「村へといった。今刃鬼たち鬼人の精鋭が急いで戻っているところだ」
「そういうことかい」
「で、俺らはどうする」
「そりゃ~あたしらも早く村に戻った方がいいさね。父さんから託された大事なところ…どこの誰だかわからない奴に好き勝手されちゃ困るからね」
「なら早く行くぞ」
「おうさね」
「ちょっと…」
「えーっとケント?だったかね。レイジならそこら辺においときな。少し休めば自分で動けるさね」
「そんなことできません!おいて行くなんて」
「急いで戻るには邪魔になる。ほらレイジもしっかりとしな!動けない?馬鹿言うんじゃないよそんなんでどうするよ。鍛冶師はね、一本の武器をうつのに全身全霊でやるさね。その一本をつくったあとにうごけない?そんなこと許されない。至高の一本なんて何百何千うってもできやしねぇのに休んでるやつがどこにいるさね。ほらさっさと動きな。気合だよ気合!」
「そんな無茶な…百目鬼は結構無茶をしてこうなってるんだ。そんな気合でどうこうできるわけ…」
「うぉぉぉおおおお」
「え?」
突然雄たけびのような声があがる。その声の方を見るとさっきまでふらついていた百目鬼が歯を食いしばって自分で立とうとしていた。
「百目鬼!?」
「はー…はー」
俺の肩から手を下ろし自分の足で立つことができた百目鬼は目を見開きとても苦しそうだった。
「そうさね。そうでないとあたしの弟子じゃない」
「だ、大丈夫なのか?」
「拳斗君…先にいっといてくれるかい?すこししたら俺もついていくからさ…」
百目鬼はか細い声でそう告げる。今自力で立つのもやっとのようだけれど鬼姫さんの言葉を聞いて漂う雰囲気が少し変わった。
「それじゃあ行くぞ」
「ちょっとまってくださいよ」
「なんだケント、お前も疲れてんのか?百目鬼は後から来るって言ったろ?なら俺らは先行って待つだけだろ?」
「いやそうですけど…」
「男の覚悟を無駄にするのはダメだろ?ほら行くぞ」
「…はい」
ベリルさんが言いたいことはなんとなくわかった。でも、この異世界で仲良くなった同性で同郷の友が心配だった…ただそれだけなんだ。




