暗黙
「ここは…」
「まさか…出られたってことなのか!?」
「そう…見たいです…ね」
「でかしたなレイジ!お前もケント同様に何かしらピンチを抜け出す力ってのがあるみたいだな。ハハハ」
「そんなこと…ないよ」
「おい、大丈夫か?」
「あぁ、溜まってた疲れが押し寄せてきたみたいだ。拳斗君、少し肩を借りててもいいかい?」
「それぐらいお安い御用さ」
フラフラ状態の百目鬼に寄り添い支える。できるかどうかもわからないことだったけどうまく成功への道を見つけた彼にすこしばかりの休息があってもいいだろう。百目鬼が休んでいる間に俺たちができることをやるんだ。一人ひとりの力は小さくともそれをうまく繋ぎ合わせ協力する…そうすれば大きな力にあらがえる強さになる。
「ベリルさん!」
「どうした?」
「まずは周辺の様子を見ましょう。敵はおそらくいないかもしれませんが何か残されているかもしれません」
「そうだな。お前ら!各自今いる場所を基点に周囲に何かないか見回りを行うこと!わかったら行け!」
「了解ですじゃ」「はい」
ベリルさんの声に同じギルドメンバーであるシュアちゃんとシンリーさんは反応を示した。
「お前らも周りを見てきてくれ」
その場に残っていた鬼人族に対してベリルさんがそう告げる。すると刃鬼がベリルさんに近づいてきた。
「悪いが俺らは先に村へと戻る」
「おい待てよ。お前らのとこの長がいるかもしれないんだぞ?探さなくていいのかよ」
「鬼姫様を助けるのは確かに大事なことだ。だが…敵は我らが村へと去っていった。もし万が一にでも奴が村の者へ手出ししていたら誰が同胞を守るんだ?今ここに居るのは村の中でも腕のたつ者ばかりだ。俺含め村へ襲い掛かる脅威をなんども退けてきた。そんな奴らが今は村にいない…鬼姫様はお前らに任せる。俺としては鬼姫様の捜索を優先したい…がしかし、村へと戻った時に同胞が無惨な姿でいようものなら俺は鬼姫様に合わせる顔がなくなってしまう。俺は鬼神の右腕として鬼姫様がいなくとも同胞を守る責任があるのだ。だから…」
「わかったぜ。しゃーねぇな~こっちには脅威となりうるものはいねぇだろうしいいぜ。村へ行き敵襲をどうにかしてこい!」
「あぁ、感謝する」
ベリルさんとの話が終わると刃鬼をはじめとする鬼人達は村へと急いで向かっていった。
「ケント、俺も周りを見てくる。そいつのことは任せるぜ」
「はい、お気をつけて」
「おうよ」
ベリルさんの姿も見えなくなり残されたのは俺と百目鬼の二人となった。百目鬼は目を閉じてぐったりとしている。その様子は傍から見ればかなり深刻なものだがしっかりと息もありただ疲労を回復するために体勢やその他諸々の電源をオフにしているような感じだった。
「猛虎、周囲に敵影は?」
俺も今できることをやろうとした。まずは身の安全の確保だ。近くに皆がいるとはいえ先程のように一瞬で接敵されては意味がない。感知能力に関しては猛虎の野生の勘みたいなのでどうにかなるだろうと思い彼の名を呼んだ。
『問題ねぇよ。だが~』
「どうかしたのか?」
『いや、大丈夫だ。気にするな』
「おい、何かあるなら言えって~」
『まぁ、言うだけならいいか…直接お前には関係ないことだがそいつの守霊がさっき一瞬だが目を覚ましたんだ。ただそれだけだ。今はまた息を潜めているぜ』
「さっきって具体的にはいつだよ」
『お前らが閉じ込められていた空間が壊れる瞬間だ。ほんの一瞬だったから何をしたかはわからんが何かしらの力を発揮したんだろう』
「なぁ、どうして百目鬼の守霊は姿を現さないんだ?一瞬だけど力を貸したんだろ」
『知るかよ。我に他の守霊のことなんかわかるわけないだろ』
「そうだけど…」
『まぁ、そいつの守霊もそいつのことを気にかけてるってことだろうよ。まぁ我のように常に主が危険に晒されていないからあまり顔を出さなくて済むとかじゃねぇの?』
「おいお前!今しれっと文句言いやがったな~俺だってなぁ好きで危険に身を置いてるわけじゃねぇんだって!」
『そうかよ。でもな~仲間のために身を危険に晒すような奴のことだからな~』
「まだいうか?ガリズマさんたちは大切な仲間だよ。その仲間を命がけで守って何が悪い」
『悪かねぇが自分の身を最低限守れる奴がそういうことをやると思うぞふつうはな…』
「あ~もううるさい!別にいいだろ俺が何をやろうと」
『生きててくれりゃあなんでもいいぜ。我はお前の守霊だからよ。まぁ心配にならねぇように強くなれよ』
「お前に言われなくてもそんなことわかってるって!」
『そうかい…ならいいがな』
「何をそんなに…もめてるんだ?」
猛虎と口論をしていて百目鬼が目を覚ましていることに気づいていなかった。
「別に大したことは話してないよ。こいつが主である俺にあれこれ口答えしてきてだな~」
『それもこれも弱い主っていうのが問題であるぞ』
「お前なぁ~まだいうか?」
「ふふ、仲がいいんだね君たちは」
「いいわけないだろ!」「どこがだ」
「そういうところだよ。俺もお前らみたいに守霊と話せたらいいな~」
『ふつうはよっぽど危険なことがない限り守霊は見守ることに徹する。こいつみたいにいつも危険に晒されるようなことがない限りはな。お前の守霊が顔を出さないのはお前が安全に過ごしているからであろう。我は今のままでいいと思うぞ』
「守霊からの視点だとそれがいいんだろうね。でも、なんかさ…知り合いの居ないこの世界で一番近くで見守ってくれるのってなんだが嬉しいんだ。何があろうとも守ろうとしてくれる存在と話がしてみたいって変なことかな?」
「変じゃないよ。でもこいつみたいに文句ばっか言わない奴だとイイよな」
『おいケントまだやるか?』
「猛虎だって~」
「本当に羨ましいよ」
そう言うと百目鬼は下を向いてしまった。確かに今はガリズマさんやベリルさん、ラーシャルドさんといったギルドの仲間たちに囲まれているから気にならなかったしこうして時々猛虎と話しているから孤独っていうのも感じなかった。でも百目鬼はどうだろうか…鬼人と一緒に暮らしているとはいえ彼らと親しすぎるわけではない。鬼神の客人という域をどうあがいても抜け出せないような感じだ。彼の後ろ盾である鬼神も攫われていない状況で心細いことだろう。俺のように傍に誰かがいても気を許せるような存在はいない。それが今の百目鬼なんだ。彼が守霊の存在を羨むのもわかる気がする。確かに力としてはかなりのものだが彼が欲する理由はそこではない。傍にいて見守っているという存在が…よりどころが欲しいんだと思う。
『おいケント、聞こえてるか?』
「なんだよ急に…頭ん中に直接話しかけてくんなって…これ結構気持ち悪いんだぞ」
『さっきの話は百目鬼にはするなよ』
「さっきの話って~百目鬼の守霊についてか?」
『そうだ』
「どうしてだよ?」
『我の勘だがそれを話しちまうとヤバいことになりそうだと思うからよ~だから言うな』
「わかったよ。お前がそこまで言うなら黙っておく」
「おーい、お前ら」
遠くからベリルさんの声が聞こえる。何かあったのだろうか。
「どうしました~?」
「こっちに来てみろ。誰かが掘った洞穴があったんだ」
「わかりました~すぐ行きます。百目鬼、ベリルさんが何か見つけたみたいなんだ。そこまで行こうと思うんだけど歩けるか?」
「あぁ大丈夫だ。でも肩を貸してくれると助かる」
「それくらい些細なことだよ。じゃあ行こうか」
ふらつく百目鬼を支えながらベリルさんの元へと向かった。




