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守霊界変  作者: クロガネガイ
第二部
116/145

強打と打響

「よし、皆あつまったかな」


 百目鬼どうめきの行動によりお互いに手が触れ合う距離まで近づくことができた。手を伸ばすと誰かしらに触れることができる。誰に触れたかは相手の声で判断するしかないがどこに誰がいるかわからない状況に比べればこちらの方が幾分か都合がいいだろう。


「で、これからどうするんだ?」


「ベリルさんどうします?」


 皆が近くに集まったはいいがこの状況を打破したわけではない。未だ目の前の者さえも見ることのできない漆黒の闇の中にいることは変わらないのだ。光も肉体強化による周囲感知も妨げられる中、どうすればいいか各々自身の経験を振り返りながら考えていた。


 カーン…カーン…カーン


「おい、もう皆集まっただろ」


 百目鬼どうめきがまた打刃だっはを打ち付け金属音を響かせる。それは一定のリズムを刻みある種の曲のようにも聞こえた。


「おいって!」


「静かに…俺に考えがあります」


 ベリルさんが静止しようと声を荒げると百目鬼どうめきは冷静な声で一言そう告げた。


「考えってこんなのはうるせぇだけだろ…」


 ベリルさんはポツリと悪態を一つついたけれどそれ以上は何も言わず百目鬼どうめきの行動を見守っている感じだった。現状手立てがない以上なんでも試してみるしかないというのは彼の経験則にもあったようでダメもとでも結果がでるまではと考えたらしい。俺に小声でそう言ってきた。本当に意味があるのかとか前みたいに俺の斬撃でとかっていうのの提案のついでみたいだったけど何事も一つの視点から見るのではなく多角的視点から可能性に賭けることも必要なんだと思わされた。


 カカンカカンカカンカカンカカン


 またリズムを変えて打刃だっはを振るう。これで十回目を超えるだろう。未だに何の音沙汰もない。一定に響く金属音に混じり荒い息遣いが目立つようになってきた。時間にして十数分ぐらいだろうか。百目鬼どうめきは自分の仮説を実証すべく一人で打刃だっはを打ち付けて音を響かせている。不規則な音ではなく一定に鳴り響く打音を奏でるのはそれだけでもかなりの重労働だ。気力、体力、筋力とそれらをすり減らしながら音を作り上げる。消耗に反してなんの成果もない今の状況は信念の摩耗も引き起こす。決断を揺るがし行動に迷いが生まれた場合、求める結果は得られなくなってしまうのだ。


 カランッ


 一定のリズムで響いていた金属音が突如途切れその最後に何かが地に落ちる音がした。


百目鬼どうめき大丈夫か?」


 今の音はおそらく体力の限界を迎えた百目鬼どうめきによる最後の叫びだろう。もうこれ以上は無理だと言っているのと同じようなものだった。


「これでどうだ…」


 俺の問いに百目鬼どうめきはそう答えて荒い息遣いを整えていた。長距離走を走ったランナーのように荒々しい息遣いと掠れた声だった。彼なりに必死にやった証拠であろう。でも結果は…


「ダメか…ほかに何か策のあるものはいるか?」


 結果はわかっていたと言わんばかりに沈黙を貫いていた刃鬼バキが声を上げた。


「すこし期待をしていたが要らなかったようだな」


「そんな風に言わなくても!」


 皆、行動に移したくてもそれを妨げるこの状況に苛立ちが生まれ始めた。


「隠れて練習していた槌打ちだったようだがそれが何になる?お前を信じて黙って過ごした時間で他に何かできたのではないか?」


刃鬼バキ、君は…」


拳斗けんと、大丈夫だ…」


「でも…」


「あと少し、お前に任せる…」


「え?」


 カカンカカンカカンカカンカカン


「なんだこの音は!?」


百目鬼ドウメキがやってるんじゃないよな」


 全方位から鳴り響く打音、それは百目鬼どうめきがいる方からではなく外からこちらに反響する形で響いている感じだった。


「これって…」


拳斗けんとテレビとかでこういうの見たことないか?」


「テレビとかで?」


「あぁ、声でワイングラスを割るってやつ」


「あ~あれか」


「俺が試したのはそれの応用みたいなやつさ。できるかどうかも何もかも勘だよりだったけどどうにか成功したみたいだな」


 カカンカカンカカンカカンカカン


 打音は更に大きくなり周囲から幾重にも響き同調している感じだった。


「これはなんだ!大丈夫なのか」


 刃鬼バキをはじめとした鬼人オーガ達があわてふためく声が聞こえる。同様にベリルさんたちも対策について話しているみたいだった。


百目鬼どうめき、これって大丈夫なのか?」


「わからねぇ…でも、もうそろそろだとおもう。皆に耳を塞いで地に伏せるようにしろと伝えてくれ。俺が言いたいところだけどこれ以上大きい声が出そうにない…そうすると間に合わないからよぉ」


「わかった…皆さん、今すぐ耳を塞いで伏せてください。何が起こるかわかりませんがそうすれば堕被害が最小限に済むはずです」


「わかった!お前ら急げっ」


 誰よりも早くベリルさんが答えてくれた。周りの人も動揺しながらも地面に伏せているような音が聞こえる。


 カカンカカンカカンカカンカカン


 共鳴音が更に大きく鳴り響く。今声を荒げても何も聞こえないくらい大きくなっていた。音だけにとどまらず衝撃波のようなものが体を揺さぶる。同調した音の波が閉鎖空間で反復増長され形を持ったみたいだった。


 カカンカカンカカンカカンカカン…バリンッ


 地震の揺れのような音の波の中何かが壊れる音がした。あまりの衝撃に目を開けることさえできない。


「うっ…」


 空いていた腹部の隙間に入りこむように音の波がお腹を殴打する。激痛に耐えながら今の姿勢を維持した。破裂音がしてから数分が経過したころ響いていた音は聞こえなくなり体を揺さぶっていた衝撃波も感じなくなった。ゆっくりと目を開けて周囲を確認すると不思議な空間に閉じ込められる前までいた場所に皆伏せていた。

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