音のなるほう
「実に愚か、実に滑稽、実に無様…たかが女一人のために多数の犠牲を払うとは馬鹿馬鹿しいことこの上ない。なぁ、そうとは思わんか?」
「貴様、何をしてきた?」
「ほれ、これを見ろ」
拳斗らを排除し己の塒に戻ってきたダライは自信ありげに百目鬼が作った剣を見せつけた。
「これは…ふふ、それがどうしたというのだ?」
「鬼神よ、見てわからんのか?魔刃だよ魔刃!お前の村のものがわざわざこちらに出向いて作り上げたものだ。これを用いてお前との交換を目論んでいたようだがそれは叶わなかったようだ。今頃は暗き暗き闇の中でただ朽ち果てるのを待っていることだろうよ」
「へぇ~そいつは大変だ。で、あんたは目的の品を手に入れたんだろ?ならアタシは用済みじゃないのかい?」
「ほう、お前は一族の長たるにしては少々残酷なやつなのだな」
「残酷ねぇ~それはアンタに言われたくはない言葉の第一位だよ。で、解放してくれるんだろうね?」
「同胞のことより自分の無事が最優先か…まぁよいだろう。何者も自身の命よりも優先されるべきものはなかろうからな」
「さぁ出すならだすで早くしてくれないかい?」
「ダメだな!貴様にはまだ利用価値がある。お前以外でも魔刃を生み出せるのがいるとわかった今、再び村へと赴き、更なる魔刃をつくらせればよかろう」
「強欲なことだねぇ~そんなあんたに一つ悪い話をしてあげよう」
「なんだ?何を言おうとその声は届かぬぞ」
「あんたの持つ魔刃は…ただの鈍さ」
「何を言うかと思えばそんなことか、これのどこが鈍だというのだ?」
ダライの持つ剣は異様な魔力を纏い刃も鋭かった。それは鈍と称するには値しない要素であり今の状況を鑑みても捕らわれた鬼神による言い掛かりにしか思えなかった。
「おそらくそいつをうったのは百目鬼だろうね。アイツはいくら禁じても隠れて鉱石をたたくようなやつだった。熱心に取り組む姿勢はいいもの…だからあたしは無理に虐げてその可能性を潰すようなことはしなかった。前にこっそりと百目鬼が打ったものを見たことがある。そいつは村の奴がうつよりも”見た目”と”雰囲気”は完璧だった…でも、そういうのはただの張りぼてに過ぎないのさ。アンタがそれを魔刃と信じてやまないならもう言うことはないよ。でも、そいつじゃあ何も斬れはしないよ」
「面白いことをいうものだ。見た目もよく纏う魔力もいいのにそんなことがあるというのか?鬼神よ、貴様の目は既に落ちぶれているのではないか」
「なんとでも言うといい。忠告はしたさね。あとは好きにするといい」
「そうか、なら好きにさせてもらおうか。お前の村へと赴き試し斬りと見せしめを兼ねて何匹か血祭りにあげるとしよう。無力な貴様はここで嘆いていればいいさ」
「別に構わないよ。そいつじゃ誰も傷つけたりできないんだからあんたはすぐに戻ってくることになる」
「哀れな長よ、こいつで切り伏せた奴の首を見て、絶望させるのが楽しみだよ」
ダライはそう言うと魔刃なる剣を持って姿をくらました。
「まさか百目鬼達が来てるなんて、あたしのことなんか別にいいのになんで…」
残された鬼姫は自身を縛り付ける手枷を見つめながらため息を一つついていた。
「さて、これからどうするかについてだが~」
ダライの能力により捕らわれた拳斗たちはお互いの姿が見えないほどの暗闇の中、今後について話し合いをしていた。適当に技を放ち抜け道を探ろうにも皆の位置が分からない以上道が見つかるよりも先に怪我人が出てしまう。だからその選択肢は実行に移しがたかった。声のするほうでなんとなく位置は把握していたが足場も何が潜んでいるかわからないこの場所で下手に動き回るのもいいことではない。皆その場を動かずにどうすればいいかについて話し合いをすることにした。
「誰か光魔法かなにか使えないのか?」
「あの~光魔法とは少し違うんですけど陽炎息吹を試してもいいですか?」
「あ~あれか、よし試してみろ」
「はい」
「朗らかに照らす陽の光、竜の吐息は全てを癒す…陽炎息吹」
シュアちゃんの詠唱が終わり本来ならば彼女の手から赤い光が見えるはずなのになにも起こらなかった。
「だめ…みたいです」
「ベリル殿、おそらくこの空間では光を生み出すことそのものが制限されているのではないですかな」
「試しになんか他の魔法を使ってみてくれ。攻撃系ではないやつだ」
「わかりましたのじゃ。我が肉体で感ずるあらゆる感覚を研ぎ澄ませ…錬武」
ベリルさんの提案を受けてシンリーさんが自己強化魔法を詠唱する。
「うむ、強化自体はできるようじゃが~錬武をもってしても周囲の把握はできかねないようじゃ。儂の祝福もこの空間では狂っているようじゃしどうしたものかの…」
「あ~めんどくせぇ空間だこった。閉じ込めるだけ閉じ込めて放置とかなんなんだよ」
「邪魔されないようにするため~とかですかね」
「たぶんな」
魔法による解決も制限され、結界を破壊するための攻撃も皆の安全のために制限される…複数の敵を足止めするにはいい結界だった。そんなとき、
カーン
突如金属音が辺りに響き渡った。
「おい、なんだよ急に」
「皆動かないで、今位置把握をしてるんだ」
百目鬼がそういうともう一度金属音が辺りに響いた。
「なるほど、大体の位置はわかった。俺の指示の元、まずはお互いが触れ合える距離まで近づこうよ」
「意味がわかんねぇがお前には皆の位置がわかんのか?」
「あ、うん。音の反響で何が何処にあるかっていうのを探ったんだ。こういうのをエコーロケーションっていうんだっけ…音の反響を利用して距離や方向、大きさを知るってやつ」
百目鬼が得意げに話している。エコーロケーションってのは確か蝙蝠とか海豚が使うやつだったはずだ。目が見えなくても音波を使って周囲の状況を把握するもの。魔法は制限され下手に身動きが取れない今の状況でも音波なら被害なく状況把握が可能ってか…盲点だった。
「まずは一番近い人から~」
百目鬼がそういいながら移動を開始する。コツコツと彼が歩く音が暗闇の中木霊していた。




