闇に呑まれて
カンッカンッカンッカンッ
一定のリズムで鳴り響く打音…時折打った鉱石を冷やすために水につけまた熱する。そしてまた槌で打ち形を整える。元の世界でも見ることはなかったけど想像容易い鍛造の有様が今、目の前で起きている。
「百目鬼…順調?」
様子を伺いつつ現在の状況について尋ねる。だが、百目鬼からの返事はなかった。彼はただ一途に自身が打ち付ける鉱石を見つめていた。
「ケント殿…」
話しかけようとする俺をシンリーさんが止めた。目から邪魔してはいけないという感じがした。辺りに響く鉱石と槌の衝突音は徐々に短く不規則なものへと変わっていった。真剣そのものの百目鬼に伺うことはできないが感じからしてもうそろそろ完成が近いことを意味しているのだろう。いまの俺たちにできることは周囲の観察だ。敵が忍び寄っている可能性が無きにしも非ずなのだ。不意を突かれることだけは避けたかった。
「よし…できた」
百目鬼がボソリと呟いた。その手にはまだ紅く染まった剣が握られていた。
「できたのか?」
「あぁ、あとはこいつを冷やしてっと…」
手に持っていた剣を冷却ようの水桶に入れる。ジュワーっと水蒸気を上げながら一気に冷却されこれで完成となる。
「いや~我ながら傑作だと思うぜ」
鼻高々にそういい放つ百目鬼…俺らは詳しくないものだからその良し悪しはピンとこなかった。
「おい、お前ら何をやっている」
「え、あっ…ちょっと…」
不意打ちのごとく一瞬の気のゆるみにベリルさんたちが駆けつけた。真っ先にあらわれたのは血相を変えた刃鬼だった。口調もどこか怒っている感じでその顔を認識するまでもなかった。
「百目鬼、貴様何をやっている?」
「いや~来るのが遅かったね刃鬼」
「遅かった?俺はこの目で今の光景を見ているぞ」
「それがどうかしたのかい?俺の手には既に完成した剣が握られているけど…はたしてこれを俺が打ったと言えるのかい?」
「戯言を…」
刃鬼が今にも百目鬼にとびかかろうとしているのをお供の鬼人達が必死に止めていた。刃鬼が激昂するのは百目鬼から聞いたことでなんとなくわかるがどうしてここまで未熟者が剣をうつのを許さないのだろうか?
「おやおや、わざわざそちらから出向いてくれるとは助かるね~」
「!?」
「何者だ!」
油断なんてしたつもりはなかった。でも、気が付くと百目鬼の背後には漆黒の鎧に身を纏った男が立っていた。
「なっ!?」
「百目鬼、逃げろぉ!」
一瞬の間もなくすぐさま猛虎の型を発動させ虎紋瞬光レベル一、壱虎で一気に距離を詰める。
「速い…が遅い!」
俺の突進は鎧の男の薙ぎ払いで弾かれ俺は後方へと吹っ飛ばされた。壱虎は威力こそないもののもの凄い勢いでとびかかるものをこうも簡単にはじき返す奴の腕力は相当のものだった。
「さて、わざわざ来てくれたのだ。挨拶くらいはしてやろう…我が名はダライ…❝失意のダライ❞である。愚かなるものどもよ今一度闇を見よ!」
ダライと名乗った男はそう言うと百目鬼が手にする剣を奪い去り空高く舞い上がる。剣を左手で持ちもう片方の空いた手を俺らへと翳す。そして…
「望め、足掻け、落ちよ。そこにあるのは汝が失意のみなり…亡心牢閣。揺らぐ心の奥底で出口のない闇を味わえ…」
そう言い残し奴は消え去った。いや、正確には俺たちが闇に呑みこまれたというのが正解だった。
暗き暗き奥底に光は届かない…臆病な己を誰も救うことはない…天から垂れる一筋の糸も、容易く千切れまた暗がりに落ちる。誰もが心に闇を抱えている。希望を見出しその闇を晴らすものもいるだろう…だが、この暗がりはそれすら許さない。常に揺さぶり続けられ次第に疲弊し朽ち果てる。❝失意のダライ❞の名のもとに奴は全ての意志を失わせる。
「皆、大丈夫か?」
「怪我は~ないです」
「私も…」「儂もじゃ」
「お前らは?」
「そんなものはない…くそっ!またしてもか…鬼神の右腕たる俺が何もできずにやられるなんて…」
暗がりの中、なにがなんだかわからない状況でベリルさんをはじめに皆の生存確認がなされた。約一名それどころではない者がいるが彼らしいと思うことで気にはしなかった。
「ここは~」
「敵が生み出した結界かなんかだろ?前回のクエストの洞穴より暗いが俺らに直接的なダメージはないみたいだな」
「ダメージはないみたいですけど~これからどうします?」
「結界となればどこかしらにほころびがあるはずじゃよ」
「ほころび…ですか?」
「あのように即席のものであればなおさらどこかに継ぎ目のようなものがあると思うのじゃが~あまりにも暗すぎてそれどころではないのぉ」
「そうですね」
シンリーさんの言う通り周りの様子など伺うに値しないレベルで暗い…例えるならば夜に停電し夜空は雲が覆って一切の光がないみたいな感じだ。まぁそれでも現代の世ならスマホなり予備のバッテリーなどを駆使してどうにかするんだけどそんなものはないわけで~
「❝失意のダライ❞っていったか?アイツは」
「はい、聞き間違えでなければそういう風に聞こえましたけど~」
「おい、お前らその二つ名に聞き覚えはあるか?」
「俺は…俺は…」
「あ~アイツはもうだめだな。部下の鬼人!誰でもいい聞いたことはあるか?」
「え、あ~我々ですか?」
「そうだ。お前らの指揮役は今はそれどころじゃねぇみたいだからな。とりあえずお前らが知っているかどうかだけでも知っておきたい」
「いえ、我々も…お前は知ってないのか?」「知るわけないだろ。ほら、お前は?」「お前が知らないのに俺が知るわけないだろ」
「えーっとこんな感じです」
「そうか、わかった」
「ベリルさんは聞いたことないんですか?」
「さぁな。俺はあんまり二つ名とか聞いても覚えないからな。有名どころなら耳に残っているかもしれんが❝失意のダライ❞なんてのは知らん」
「儂も聞いた事がないのじゃ」
名を聞いたにもかかわらず誰一人として知らないそれは何の情報にもならなかった。
「なぁ~拳斗」
「ん?どうしたんだ百目鬼」
「奴が俺の作った剣を持って行ったってことは奴が欲するに値する代物だったってことだよな?」
「う~んどうだろ」
「じゃあどうして奪っていったんだよ」
「そんなの俺に聞かれても~」
「そ、そうだよな。わりぃ、つい気が高ぶっちまった」
「大丈夫、それより今の状況をどうにかしないと…」
「だな。アイツはどうして俺らをこんなのに閉じ込めたんだ?」
「どうしてって言われても~」
「だってよ~あいつは目的の魔刃を手に入れればそれでいいんじゃないのか?あの剣は鬼姫と交換するために打ったから別に取られても鬼姫を返してくれればそれでいいのに…」
「う~んわからないよ」
百目鬼の言っていることはわかる。確かに奴は鬼人族の鬼神を攫ったわけだがこちらとしてはそれを返してくれればいいだけなのにどうしてこのようなことをするのだろうか…考えてもわからん。




