打音
「おいそっちは収穫あるか?」
「今のところ特には…」
「ちっ、人一人を運んだだろうにこうも痕跡がねぇなんてどういう運び方をしたんだ。日にちが経っているにしても何かしらの痕跡が残っていてもおかしくないはずだ…」
「ベリルさん」
「どうした?」
「このまま手がかりを探すんですか?」
「あぁそうだ。他に何か手があるのか?」
「いえ…」
「じゃあ我武者羅に手がかりを探すしかねぇだろ」
「そうですけど…」
「くそっ」
進展のない状況に空気が重くなる。急いでもことが解決するとは限らないのに何故か焦ってしまう。冷静に物事を判断してこそだとは思うが何故か今の状況ではそれができていなかった。
不思議だった。確かにいつもならこんな場面ではガリズマさんが鶴の一声のように皆をまとめあげる。それがないから?いや違う…そんなのではない。なんかこう心の奥底をユラユラと揺さぶる何かがある感じだ。村を出るまではこんなもの感じていなかったのに一体どうして…
「拳斗、すこしいいか?」
「うん、どうかしたの?」
「一つ策があるんだが~」
百目鬼が俺に耳打ちするようにそう呟いた。どうしてそのような感じで伝えたのかと少し疑問に思ったがあまり深く考えなかった。
「わかった。その作戦をやる価値はあると思う…でも~どうして俺にだけ話したんだ?」
「俺はこう見えても見習い以下の存在だ。まだ正式にそういったことをやる許可さえもらってない。こうした重要な場面に可能性が薄いことを提案しても刃鬼に否定されてお終いだ。でも、作戦に挑む二つのパーティーで俺は運よく村の者と関わりのない君たちとパーティーを組んでいる。ここでの指揮官は君だ。君の承認を得たうえで実行に移せばなにも問題はないと思ってね」
「う~ん、正確には俺は指揮官ではないんだけど…まぁこの際俺からシンリーさんに提案すればいい話だし大丈夫だよ」
「うん、頼むよ」
「でも~ほんとに大丈夫なの?道具とか材料とか色々と必要になるんじゃない?」
「それについては任せてくれ…ほらこのように~」
そういうと百目鬼は自身の荷物からひとしきりの道具を見せてきた。あ~なんか重そうなものを持っていると思ったらこんなのが入っていたのか…しかし、これだけのものを担いで結構な時間探索していたけどピンピンしてるのは凄いな。
「じゃあ、シンリーさんに話をつけるのは任せるよ。俺は先に準備をしておく。刃鬼達はまた別のところを捜索するんだろ?それも見届けてからことに移りたい」
「わかった。ベリルさんたちなら確か~今さっき出て行ったはずだよ」
「そうか、なら問題ないな。じゃあ任せた」
「うん」
百目鬼と別れてシンリーさんのところへと移った。捜索範囲をある程度決めておりその範囲内で各々索敵をする感じで行動していた。範囲もそこまで広範囲に及ぶものではないので多少小走り気味で行けば数分で着く。
「シンリーさん、少しお話が…」
「なんじゃケント殿、そんなに急いで…なにか手がかりでもありましたかな?」
「いえ、手がかりはないんですけど~実はですね…」
「ほほうなるほど…」
シンリーさんにも百目鬼との会話について説明した。シンリーさんも試す価値ありと判断したらしくその旨を百目鬼に伝えるように言われた。
「百目鬼」
「拳斗か、どうだった?」
「うん、やってみてもいいって」
「そうか~良かったぜ。せっかくここまで準備したのにダメだって言われたらどうしようかと思ったよ」
「でも、大丈夫なの?」
「わからねぇ、でもやらないよりは可能性がある」
「わかった。準備ができたらシンリーさん達に知らせる手筈になってるんだ。準備が整ったらシンリーさんとシュアちゃんを呼びに行こう」
「了解、あとすこしで終わるから待っててくれ」
そういうと百目鬼は準備に集中し始めた。百目鬼から提案されたこと…それは敵が潜んでいると思われるこの辺りであからさまに鍛冶を行うというものだった。敵が鬼神を攫った目的は魔刃なるものをつくらせるためらしい。だから刀鍛冶における最高峰、❝鐵の鬼神❞を攫ったというわけだが、別にその魔刃を此方から捧げれば鬼神というものはいらぬ長物となる。刃鬼を含め鬼人の村の者総出でその魔刃をつくろうとしたができなかった。だから百目鬼にできるとも限らない。だけどやるしかない…敢えて敵の手中に近いこの場所でことに挑むことで多少なりとも興味を引ければそれでいいのだ。そうすれば手がかりすらない敵の動向がつかめる。そのあとはどうにかその手掛かりをもとに鬼神の居る場所を突き止めればとそういう話を二人でしたのだ。
百目鬼曰くこの作戦は刃鬼たち鬼人がいると成り立たないらしい。どうしてかって?それは彼自身も話していた通り彼が見習い以下であるからだそうだ。隠れて鍛冶を行うこともやっとのことだったのにそれをこうもあからさまにやろうとするのは別の危険があったのだ。
どうして見習い以下が鍛冶を行うのを鬼人の者が許さないかは色々と事情があるらしいが深くは聞かなかった。まぁ確かに料理人とかも新人はまず皿洗いとか雑用を経て年月をかけて本題に入る。それに近い何かがあるのかもしれない。
「準備はできた?」
「あぁ大丈夫だ」
そういった百目鬼の手には赤い卵のようなものが握られていた。
「それは?」
「これか?これは焔石だ。カエンカズラという魔生物の卵でこうやって…割ると火が起こせる」
「なんかすごいな。マッチみたいな感じだ」
「本来は火の魔法を使うのがいいんだけど俺にはできないからさ。色々と調べて手に入れたんだ」
「へぇ~そういうのは見つかって何か言われたりしないの?」
「確証がなければ疑うことなかれっていうのがあってさ。刃鬼も言ってたと思うんだけどその現場を己の目で視認しない限り俺が隠れて鍛冶の練習をしていたことはわからないって話なんだ。この石も確かに怪しい代物だけどどう使うかを見られなければ俺が鍛冶に使うものとは限らないだろ?だからこうやって持っていられるわけだ」
「なんか複雑だな。疑わしくても現行犯逮捕しないとダメみたいな感じか?」
「まぁそんなとこ。それじゃあ準備は整ったことだし始めるよ」
「あ、先に皆を呼んでくるよ」
「わかった」
皆を連れて百目鬼の元に戻った。
「じゃあいいかい?はじめるよ」
「うん」
焔石を地面にたたきつけるとそこから煌々と炎が燃え盛りだした。その側には水を入れた容器と鉱石をうつための金床があり百目鬼の手には彼の守霊のものと思われる槌…打刃が握られていた。
「まずは火で熱して~」
百目鬼が作業を開始すると静寂の中に槌と鉱石がぶつかる音が響き渡る。
カンッカンッカンッカンッ
結構あたりに響くので周囲を探索するベリルさん達にも聞こえているであろう。本命は鬼神を攫ったやつなんだけどね。そいつが何らかのアクションを起こしてくれれば万々歳…ベリルさんたちが…特に刃鬼がそれよりも早く来たら作戦は中断…される前に俺とシンリーさん、シュアちゃんでどうにか時間を稼ぐのと説得を試みる感じになっている。心かき乱せるような感じの雰囲気に一定のリズムで鳴り響く打音がなんだか心地よかった。




