雷霆
「ルールを簡単に言っておく。魔法や武具の使用は無制限、俺が負けを認めるかお前らが負けを認めるまで続くものとする」
「お前らって…」
「それがどうかしたか?」
「いや、その言い方だと複数であなたを倒しに行くような言い回しだなって思って…」
「そう言ったつもりだが?」
「おいおい、それは何でも舐め腐ってねぇか?」
「別に君たちを侮っているわけではないが…俺を相手するのには十分なハンデだと思うぞ」
「へぇ~言ってくれるじゃねぇかよ」
「君たちは先程俺に捕縛され死を待つのみだったことを忘れたのではないだろうな?百目鬼が来なければ粉微塵にしていたぞ」
「へっ、そんなことになる前に家のケントがお前を殴ってただろうぜ?」
「そうそう…って俺任せですか?」
「なぁにあの時あの結界を抜けれたのはお前だけだったんだからそうなるのは仕方がないことだろ?」
「確かにそうですけど~」
「それにお前は俺たち仲間を守るときなら普段見せないような秘めたる力を発揮するんだ俺はそれを信じてんだぜ」
「は、はぁ…それって運任せってことですよね」
「そうともいう!細かいことは気にすんな」
ベリルさんが口を大きく開けてワァっと笑った。この人は普段はめちゃくちゃ厳しいのにこういう時に限ってこうなんだ。出会った頃のなんでもこなせるエリートの姿は幻想だったみたいだな。それでも実力はかなりのものだしこれからもこの人の元で自分を磨いていければいいな。
「こちらの準備はいいぞ。いつでも来い」
「武具は何でもいいと言ったが俺らはこいつの壊れた武具の代わりを求めてきたんだぜ。何か代用になるものとかないのか?」
「そんなものはない。駄作は皆溶かして処理しているからな。武具の使用は自由だが今ないのであればそのままで来るんだな。これは力試しだ。お前たちの実力がないと判断すれば即座にこの村から去ってもらう。至高の武具を求め、無謀にも巨悪に挑むのであれば今持ちえるすべてを持って示してみせよ!」
「だぁ~しゃーねぇな。おいケントなんとかなるか?」
「全力は無理かもしれませんがなんとか…」
「そうか、アイツに力を示さねぇとどうにもならんからな。お前ら、ここが日頃の特訓の成果の見せ時だ!」
「はい!」
「わかっておるのじゃ」
「は、はいぃ」
「百目鬼、お前が審判をしろ」
「わかったよ」
百目鬼が俺らと刃鬼の間に立ち片手を前に突き出した。
「両者準備はいいか?」
「無論だ」「あぁいいぜ、いつでもこい」
「それでは…はじめ!」
百目鬼の掛け声と同時にまず刃鬼が動いた。俺らの周囲を一瞬にして駆け回り元の位置に戻る。それはまるで閃光のようだった。
「捕らえた…」
「速ぇ…」
「ベリルさん来ます!」
「お、おう」
驚く暇もなく俺らの周囲に五本の剣があらわれる。
「これは…」
これはこの村を訪れた際に受けたあの包囲結界だ。五本の剣を何処からともなく設置しその内にいるものを捕縛する領域。電気に対する耐性が高い俺だからあの時、結界を抜けることができたがあれを喰らっては俺以外が何もせずに戦闘不能になってしまう。それだけは避けなければならない。あの時は技の本質を受ける前に百目鬼が止めに入ったから良かったが本来はこの結界に捕らわれた時点で中の者の死が決定しているような話をしていた。あ~色々考えるのはやめだ。猛虎、力を貸せ!
バチッ
俺が周囲の状況を認識したのは結界の内側が無数の雷に飲まれているところだった。
「間に合った…」
「ほう、どんな技を使ったが知らないが人にしては奇怪な動きをするもんだ。五領伐雷を搔い潜るとは貴様も俺と同様に雷の力に愛されているようだな」
刃鬼が俺を見て感心しているようだった。俺は何が何だか状況を把握しきれていなかったが、最悪の事態を防げたのは先程までたっていた場所の状況を見れば明白だった。
「ケントよく反応したな」
「ベリルさん、俺は…」
「お前ってやつはちったぁ誇らしげにしていればいいものをなんだよその顔は…頼りねぇだろ」
ベリルさんが良くやったって褒めてくれた。でも、正直なんのことだか見当がついていない。いや、刃鬼の技である五領伐雷というものを避けたってことはわかるのだが気づいたら皆を連れて外にいたっていうことしかわからないのだ。
「猛虎、お前がやったのか?」
『あぁ、あれを受けたらひとたまりもねぇのは見ればわかるだろ?お前があれこれ頭を使ってるときにお前の体、四肢に直接動けって命令をくだしたんだぜ。ナイス我様!』
頭の中で猛虎と話し状況を確認する。俺があれこれと悩んでいる隙に敵の領域が完成、続く攻撃の前に猛虎が自己判断で皆を連れて脱出したらしい。力を貸せとは言ったもののこれでは俺が体を貸したことになるのでは?と思うのだが…結果が良ければいいだろう。
「油断するなよ。敵は待ってはくれない」
刃鬼が次の攻撃の準備を終えそれを放とうとしている。彼の速さと威力は俺も知るところだ。何故なら俺の…いや、正確には猛虎の力に類似しているのだ。電気を纏い速く力強い一撃を放つその戦闘スタイルは猛虎のそれだった。
「猛虎の型!」
今は武具がない…がしかし前回のドルフィネ戦でも武具がない状況で戦ったんだこれしかない。俺は猛虎の力を呼び覚まし両手に手甲鉤に似せた鋭利な爪を生成する。
「みんな、俺の後ろに!」
「おう」「うむ」「はい」
「領域外では狙いにくいがまとめて始末すればよかろう!剣光よ、邪なるものに裁きの雷を!鳴剣飛雷」
詠唱と共に一直線に轟く轟雷が俺めがけて降り注ぐ。背後には大切な仲間、彼らを守るにはこの轟雷を打ち勝たないといけない。
「虎撃…連舞!!」
渾身の一撃を放つ。これでどうにかなるかはわからないが雷と雷?強い方が勝つ。俺はその賭けに全身全霊を賭けた。
バチバチバチと火花が散る。全身の毛が逆立ち全身が震えている。たかが実力を見るための試験にここまで全力を使うのかと思ったがこれだけの力を持ってしても守れなかったものがある。彼は自分の無力を恨み更なる力を得るため奮闘した。その努力の結晶を形を変えて受けている。実力がないものは去るしかない…何かを守るためにはそれを守れるだけの力が必要なのだ。俺はそれを身をもって知っている。皆を守ると誓い、がむしゃらに生きている。ただの自己満足でわがままでしかない。でも、そうするのがいいと思ったのだ。だから…俺はそんな俺を守る存在とともにこの困難を潜り抜ける!
「うらぁぁぁああああああ」
バーンと爆ぜ俺たちは爆風に吹き飛ばされた。次に気づいたときには柔らかな布団の上で横になっていた。
「俺は…」
「おう、やっと起きたか」
ベリルさんが入口から顔を覗かせそう言ってきた。俺はあの攻撃から皆を守れたんだとそれをみて思った。
「気分はどうだ?」
「大丈夫そうです」
「そうか」
「他のみんなは?」
「あ?他の奴らは~」
「目を覚ましたのか?」「ケントさん!」「おう、ケント殿よくぞご無事で」
外から百目鬼をはじめシュアちゃんとシンリーさんが入ってくる。
「まさか俺の全力を受けきるとはな…今回は俺の負けだ」
皆の後に刃鬼がそういいながら現れた。なんか角に変な紙切れをつけているがここからでは認識できなかった。
「あの試練の結果は?」
「合格以外にあると思うか?」
敵意剥き出しだったころとは違う雰囲気を醸し出しながらぶっきらぼうに刃鬼はそう言った。
「たかが力試しにあれだけの技を放つなんて鬼姫がいたらなんというやら…」
百目鬼がやれやれって感じで頭を抱えている。
「全力を示さねばどれだけの素質を持っているか計り知れないだろ?」
「一歩間違えれば皆お陀仏だったんだぞ?少しは反省しろ!」
「あぁ、悪かった…」
目の前では百目鬼が刃鬼を叱っていた。その様子は親に叱られる子供の用だった。あとから聞いた話によると刃鬼が放った一撃は当たれば周囲一帯を焼け野原にしてしまうほどの一撃でそれをなんとか俺の虎撃連舞が相殺したから被害はあまりなく済んだそうだ。熱が入り手加減なくやったことを百目鬼に散々怒られ、罰として角に布切れを巻かれたらしい。その布切れには反省中とこの世界の言葉で書いてあったらしい。
「お前たちの実力…特にケント、お前の力はよくわかった。俺の全力を打ち消すだけの力…頼もしいものだな」
「そんな…俺はとにかく皆を守ろうとしただけですよ」
「そうだな、お前はそうだった。ところでこれからどうするんだ?」
ベリルさんが俺に絡んできて頭をワシワシとかき乱す。そうしながら今後について刃鬼達に問いかけていた。




