鬼人の村
「止めるな百目鬼、俺はこいつらを…悪魔の手先を始末するので忙しい。邪魔をするのであれば鬼神様のお気に入りだろうと俺は排除するぞ?」
「だから待てって!いつものお前ならしっかりと状況を見据えて判断していたじゃないか。こいつらが鬼姫を攫った悪魔の手先ならまた何か企んでるかもしれないだろ。一旦冷静になれよ」
「俺の判断の遅さが…今回の結果を生んだんだ。冷静な判断?そんなもの無意味でしかない!目の前の悪を裁けばいいだけだろ?俺は二度も過ちを踏むわけにはいかないんだ。だから…剣光よ、邪なるものに裁きの雷を!降り注げ!」
「ったく、この頑固野郎が…鍛え治せ打刃」
ガツンッ
目の前では異様な光景が繰り広げられている。俺らを敵と見定めて一方的に攻撃を繰り出している鬼人の頭を人族の少年が槌のようなもので思いっきりぶん殴っていた。さっきまでの会話から彼らは知り合いなのだろうが一体どうなっているのだろう…
「ベリルさん、今の内に…」
「あぁケント、この結界をどうにかできるか?」
「それは何とも言えませんが俺だけならなんとか…結界を作り出している奴をたたけば解除されるかもしれません」
「なら任せた」
「はい。猛虎の型、虎紋瞬光レベル一…壱虎」
俺は静かに雷の結界を通り抜け外へと出た。
全くこの頑固者といったら面倒この上ないな。手当たり次第に村を訪れるものを消し去ろうとするのはやめて欲しいものだ。
百目鬼と呼ばれた人間はやれやれといった感じに腰のベルトに槌をしまった。
「お前ら下がっていいぞ」
「いえしかし…」
「こいつらは俺が対応する。刃鬼についても俺に任せてくれ」
「わかりました。では我々は定位置にもどります」
「あぁ、そうしてくれ」
「でだ、お前たち突然の襲撃すまないな。こいつは鬼人族、鬼神の右腕の刃鬼っていうやつで俺はこの村で世話になっている百目鬼っていうものだ。えーっと全部で四人だったか、あれ?一人足りないな…」
キンッ
爪と槌が激しくぶつかり合い甲高い音が響き渡る。
「おいおい、悪かったって…謝ってんだからそんなに怒るなっての」
「下手すりゃ死んでたのに謝って許してもらえると?」
「そいつはこのバカに言ってくれ。もう何度も止めてるのにいつもいつも…まぁ、そんなことはどうでもいい。お前らの用は…たしか~商法取引についてだったか。それについては村に入ってからにしよう。俺の後についてきてくれ」
百目鬼と名乗った人間は伸びて地に伏せている刃鬼という鬼人を引きずり歩きはじめた。
「お前、そういって俺たちを自分たちの有利な場所へと誘導しようとしてんだろ?」
ベリルさんが後ろ姿を向ける百目鬼にそう呟いた。
「別にそんなものはない。ただこちらの事情について話そうしているだけだ。こんな村の入り口で立ち話をするよりしっかりと客人をもてなさせる場に行くだけだから安心してくれ…さっきの件で信用できないかもしれないが今は俺の後についてきてくれ」
そう言った百目鬼は前を向いてまた歩き出した。
「ベリルさん…」
「仕方ねぇ、アイツの後をついて行くぞ」
「大丈夫ですかね?」
「そんなの知るかよ!だがここで待ってても時間の無駄だろ?」
「そうですね」
「爺さんは念入りに警戒を頼むぜ。アンタの祝福はこういう時かなり役に立つからな」
「任されたのじゃ」
俺たちの間でもどうするか決まり先を行く百目鬼の後をついて行くことになった。
「一ついいか?」
「あぁどうぞ」
「ここは鬼人族の村だろ?なぜそこに人間が混じってやがるんだ」
「それにも事情があるんだが…どれから話したものか~」
百目鬼と名乗った人間はブツブツと独り言を呟いていたが突然こちらを振り返った。
「改めて自己紹介をしよう。俺の名は百目鬼零士。見ての通り人族だ、よろしく頼む」
百目鬼が急に自分の名前を名乗った。
「百目鬼…零士…え!?百目鬼零士!?」
「おいケント、急にデカい声だしてどうしたんだよ。お前の知り合いか何かか?」
「い、いえ違いますけど…」
「ならなんなんだよ」
「いや~別になんでもないです。すこし気になっただけですから…はい」
「ちっ、ならいい。自己紹介ねぇ…俺はベリル。幻影という二つ名で知られてる」
「儂はシンリーじゃ。不動明王と呼ばれておる」
「私は…シュアっていいます」
俺を除き皆が軽く自己紹介を終えた。
「で、お前は?」
「俺は…霊仙拳斗です」
「へぇ~二つ名は?」
「英雄…」
「カッコいいじゃん」
「あ?ちげぇだろ。お前の二つ名は英雄だろ」
「あーベリルさんは黙っててくださいよ」
「なるほどね。これでお互いが何者か知ることができた」
「名前を知っただけではまだわからないことだらけだと思うが?」
「詳しい話は家についてから…もうすぐ着く。霊仙…拳斗か…」
百目鬼はポツリと俺の名を呼んで前へと向き直り歩く速度を上げた。
案内された家は一際大きなもので一目でそこがこの村で一番偉い人のものだとわかるくらい立派だった。
「適当に座ってくれ」
百目鬼はそういうと引きずってきた刃鬼という名の鬼人を玄関に放り出し家の奥へと消えていった。
意識を失っているその鬼人は結構雑に扱われているのにピクリとも動かなかったが耳を澄ますと吐息が聞こえるので生きてはいるのだろう。暫くすると百目鬼が盆に湯呑をのせて戻ってきた。
「おいおいいつまでそこに居るつもりだ?適当に座ってくつろいでもらって構わないぞ」
「襲ってきた奴らの住処でくつろげると思うか?」
「確かにその言い分はそのとおりだな。だが立ち話をするにも疲れるだろう?こちらとしては敵意はない…このばかを除けば皆いい奴ばかりだ。こいつも悪い奴ではないんだが今はすこし荒ぶっててな、それについても今から話すつもりだから一旦腰を下ろしてくれないだろうか」
百目鬼の対応にベリルさんも仕方ねぇといった様子で卓の側に敷かれていた座布団に腰を下ろした。俺らもそのあとを続く様に各々腰を落ち着けた。
「じゃあ、まずはどれから話そうか…あんたらは見るからにノーヴァの商人に雇われた冒険者ってところか?」
「あぁそうだぜ。こいつの武器が壊れちまってな、新調しようと街の武器屋を巡ってもどこも品がないもんだからモノを作ってるおおもとであるここを訪れたわけだ」
「なるほど…そういうことか。まずはそのことについて話すとしよう。まず第一に鬼人がノーヴァの商人と結んだ契約について今は一時的に反故にさせてもらっている。これについては文書にて知らせたはずだが~それがあちらには届いていないらしい」
「なぜ反故にする必要がある?」
「それは今、鬼人の村で重大な問題が起きているからだな」
「重大な問題?」
「あぁそうだ。そこの刃鬼が叫んでいたのを覚えているか?」
「確か鬼神がどうとかってやつか?」
「そうそれ。鬼神とは鬼人族におけるもっとも優れた鍛冶師に贈られる称号みたいなものなんだ。性格には❝鐵の鬼神❞っていうんだがそれはいいか。で、その称号を与えられたものは次代の鬼神があらわれるまで鬼人族を率いていく先導者となり村で一番偉い存在となる」
「それでその鬼神ってやつは今どこにいるんだ?」
「問題はそこなんだ。今この村に鬼神はいない…数週間前、突如村に襲来したものに攫われてしまったんだ。そいつは去り際に『至高の魔刃を持ち寄れ、それとこいつを交換してやろう』とだけ言い残し消え去った」
「つまり、その誘拐犯の仲間だと勘違いして俺たちを攻撃してきたってことですか?」
「まぁそういうことだな。刃鬼は鬼神の側に付き添う右腕のような存在で鬼神が攫われたときも傍にいた。自分が傍に居ながらも攫われてしまったことに責任を感じてあんな風に荒ぶっていたってわけだ」
「なるほどな。ノーヴァとの商法取引を一時的に反故にしているのはその鬼神を攫った奴が提示してきた魔刃なるものを作るのに集中するためってところか?」
「あぁそのとおりだ。正直その魔刃とやらがなんなのか皆知らないんだ。でも、それを作らないことには鬼神…鬼姫は戻ってこない。だから皆その謎の武器を作るのに精一杯で他のものを作る暇がないんだ」
「事情はよく分かった。で、もう一つ疑問があるんだが…なぜ人間であるお前が鬼人族の内部事情についてそんなに詳しいんだ?」
「そのことか…俺がこの村にいるのは攫われた鬼神…鬼姫に助けられたからだ。俺はある日突然この世界に迷い込んで着の身着のまま何も持たずこの村の近くに倒れていたらしい。たまたま鉱石を採掘に出ていた鬼姫に発見されこの村で看病されたんだ。はじめは驚いたもんだぜ、だって額から角が生えた奴がいっぱいいるんだからな。でも、皆優しくしてくれた。あんたが人間が鬼人の村にいるのを異様だと感じるのはなんとなくわかる。この世界では種族間におけるいがみ合いみたいなものがあるらしいしそれに関するもんなんだろう。別に俺は種族がどうだとか関係ないとおもってる。ただ命を助けられた恩を…彼女に返すために俺は生きている」
「君も…か」
「拳斗だったか?君とは何か気が合いそうだな」
そういって百目鬼は俺のほうをみた。彼が言いたいことはなんとなくだけどわかる気がした。この世界には姓と名を持つのは貴族か騎士のような身分のものだけらしいし自己紹介の感じからなんとなく俺が彼と関係があると踏んでいるのだろう。俺も彼の話を聞いて思い当たる節が何個かあった。それは俺と同様彼もある日突然この世界に転移してきたということだ。彼の場合はこの鬼人の村の近くに転移したから俺よりは幾分かマシだと思う。俺に至っては変な生き物に引き飛ばされそうになったからな。それに比べればなんとも羨ましいものだ。
「うぅ…」
背後からうめき声が聞こえた。振り返ると頭を押さえながらゆっくりと立ち上がる刃鬼という鬼人の姿だった。




