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守霊界変  作者: クロガネガイ
第二部
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 商業街ノーヴァを発って早二日、それなりの距離を難なく歩いていた。今のところ問題になるだろう盗賊だったり凶悪な魔生物だったりには遭遇していない。はじめは騒がしかったベリルさんも今では黙々と歩みを進めている。俺もただただ前へ前へと進むことに意識を割くことで長旅の疲れを忘れようとしていた。


「今のところ問題はなさそうですな」


 シンリーさんが現状確認とばかりにやや大きな声で問いかけてきた。丸二日も何の変化もなくただただ疲労だけが蓄積している様子を顧みての発言だった。まだ鬼人オーガ族がいる村まで三日程かかるのに今のままの雰囲気で問題に直面したらよくないと感じたのだろう。その考えが的中したかのように誰もシンリーさんの発言に対してすぐに返事をすることがなかった。大方俺とシュアちゃんに至っては俺たちの中でのリーダー格であるベリルさんに向けてのものだと判断して様子を伺っていたというのもあるが、ベリルさんも返事しなかったせいで一同足を止めてお互いに顔を見合わせる事態に陥った。


「やれやれですじゃ。皆さま方大丈夫ですかな?」


「爺さんそれはどういうことだ?今の質問といい何か問題でもあったか…」


「いえ、特にこれといった問題ではないのですじゃ。ただ長旅の疲れにより皆集中力が落ち始めていると感じたのでな…少しばかり確認をと思って質問したのじゃ」


「そうか…確かに少し集中を欠いていたかもしれんな…」


「そうであろう。まだまだ目的の場所まで距離はある、この先にはどういった問題が待ちかねているか想像もできぬ上、一旦ここいらで少し長めの休息をとることを勧めるのじゃ」


「休憩ですか?でもそれだと到着が遅れちゃうんじゃ…」


「少しの休憩であれば些細なことであろう。気分を一新することでペースが上がるやもしれんし別に悪いことではなかろうて…」


「爺さんの言う通りだな。急いだってあまりかわりゃしねぇ。それよりも何か問題に遭遇した場合、俺らの集中力が欠けていたら大問題になるって話だな」


「そういうことですじゃ」


「よし、それじゃあ手頃な場所を見つけてゆっくりするとしよう」


「そういうことならわかりました」


 はやく行かなければと先を急ぐ気持ちがあったがシンリーさんの言うことももっともな話なのでここは一度ゆっくりと体を休めることにした。


「お前たちも疲れはないか?」


 ベリルさんにしては珍しい発言が出て少し驚いた。いつもなら「疲れ?んなもん時間が経てばわすれんだろ。文句言わずにさっさとやれ」っていうな感じなのにどうしたのだろう…疲れがもたらす変化というのがココにもあるとは意外だった。


「私は大丈夫です。長旅には慣れてるので…」


 ベリルさんの発言にシュアちゃんが真っ先に答えていた。


「儂も問題はないの。久々の長距離移動にはなつかしさも感じておる」


「そうか…ケント、お前はどうだ?」


「俺…ですか?俺も今のところは大丈夫ですけど~流石に足が少し痛いですね。ベリルさんの特訓を受けて体力がついているから体力面は問題ないんですけど肉体面がついてこれてない感じですね。ベリルさんの特訓が無ければとっくの昔にばててそうです」


「そうか、俺に感謝するんだな」


「そうですね、ありがとうございます」


「おう」


「ベリルさんはどうなんですか?」


「俺か?俺も久々の遠征だから疲れを感じていないわけじゃない。実際、爺さんから集中力が欠けているといわれてハッとしたからな。俺もまだまだだな。流石伝説の冒険者だと思わざるを得ないぜ」


「いえいえ、そんなことはないですじゃ。儂が活躍していたのは半世紀も前の話、今では少し動ける老いぼれにすぎませんのじゃ」


「経験だけは衰えてねぇだろ?いくら衰えようとも培ってきた経験まで劣化するわけじゃないからな。その経験を俺らは学んでいかなければならねぇんだ」


「それはそうですな。儂がケント殿たちに与えられる一番の物かもしれんのじゃ」


「そうだな。爺さんが長い年月をかけて得た教訓を手っ取り早く身につければより早く伝説の冒険者に近づけるって訳だな」


「ベリル殿、そう簡単には追いつけさせませんぞ?」


「言ってやがれ、伝説は超えるためにあるんだ。いつかは超えてやるから楽しみにしてな」


「それは…楽しみですじゃ」


 そう言った感じで雑談交じりにゆっくりとした時間を過ごした。


「よし、休憩はもういいだろう」


 小一時間程ゆっくりと過ごして気分を一新できた。再び歩き始めた脚は少し軽く感じられた。



 とある地にて…


「さぁ、鬼神様よ武器を作ってもらおうか?」


「断る!あたしにこのような仕打ちをする奴なんかにあたしの業物を与えてやる義理はないね!」


「フン、その威勢いつまで続くか楽しみだな」


 黒いローブに身を包んだ男と手足を縛られた女が口論していた。


「お前ら鬼人オーガ族が鍛えた武具はそんじゃそこらの業物とは段違いって話だ。その業物を我が主に捧げれば一体どうなるか…実に楽しみであろう?」


「そんなことあたしには関係ないだろ?さっさと村へ返してもらおうか。あたしには向き合うべき仕事が沢山残ってるんだよ」


「強きな女は悪くない。だが、あまり調子に乗るのは解せないな。今のお前は俺の気まぐれによって生かされているということを忘れるなよ?」


「あんたの気まぐれで生かされているって?アハハ、それは面白うことを言うもんだ。目障りならさっさと殺してしまいなさいな。あんたはあたしに武具を作らせたい…でもあたしはそれをしない。あんたがあたしを殺さないのはあたしを殺してしまうと目的の品が一生手に入らなくなってしまうから…そうでだろ?」


「五月蠅い、貴様は早く武具を作ればいいんだ」


「嫌だね。だって作ったが最後あたしは生きて村に帰れなさそうなんだもの」


「融通が利かない女だ…」


「言っとくけどね~常にあんたの思い通りになるってことはないの。お願い事があれば誠心誠意持てるすべてを持って相手に接しないとダメなのよ」


「…黙ってろ」


 男はそういうとその場を後にした。女は頑丈な鎖により拘束されているからか男が居なくなってもその場に一人残っていた。


「全く、災難な目にあったわ。皆は大丈夫かしら…」


 鬼神と呼ばれた女性は空を見つめポツリと何かを呟いていた。

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