教訓
「で、件の村まではどのくらいかかるんだ?」
「五日ほどですかね」
「まぁまぁな距離だな。結構がっつり支度しねぇといけなさそうだ。ケント、嬢ちゃんと爺さんと一緒に街で保存食とか買い込んでこい。俺は武器屋を回って他に情報がないか探ってくる。明朝出発できるようにしとくこといいか?」
「はい」
「よし、なら行け!」
ベリルさんと別れ街に買い物をしに行った。シュアちゃんとシンリーさんは商業街ノーヴァを出歩くのはあまりなく色々と見て回った。シュアちゃんは前に一人で回ったこともあり何店か見覚えのある店があったみたいで必要な物で手ごろな値段であればその店まで案内してくれた。シンリーさんは人込みの中まるで見えているかのようにスタスタと歩くので流石歴戦の冒険者といったところだろうか。感覚で必要な店を見つけている節があり感服した。
「毎度あり!」
「ケントさん、ベリルさんから言われていた品物に関してはこれで以上となりますけど~他に何か必要な物はありますか?」
ベリルさんから渡されていたメモの最後の一品を買い終えたときにシュアちゃんがそう聞いてきた。メモには結構な量の物が書いてあり俺はその荷物持ちで両手が塞がっていた。ここは先輩らしく振舞っておこうという謎の感覚からすべての荷物を持っているのはいいのだが、その量が尋常じゃなく今更ながら後悔している。
「結構な量を買ったことだし持ち運びのことも考えると他は”大丈夫”だと思うよ」
こうは言ったものの本音は荷物が多すぎてこれ以上は勘弁してくれと思っていた。その様子を悟られないように無駄に誇張して話をした。
「そうですね…あの…本当に一人で持ってもらって大丈夫ですか?」
「平気平気!ベリルさんに鍛えられて筋力もついたしこれくらいなら…おっとと」
すこしの段差に躓き前のめりに倒れそうになる。あともう少しで買ったものを街道にばら撒く一歩手前でどうにか態勢を保つことができた。
「ケント殿…」
「なんですかシンリーさん?」
「下手な見栄は返って無様ですぞ?儂らは仲間でその品物は皆で遠征に持っていくもの、ケント殿だけが持ち運ぶというのは何か違うと思うのじゃが~」
「見栄なんかはってませんよ。俺はガベラの先輩として~」
「ケントさん、私にも持たせてください」
「シュアちゃん…」
「さっきみたいに躓いて品物がダメになっても困りますし、ケントさんが怪我をしたらもっとダメだと思います。私もシンリーさんも手が空いていますのでその空きをうまく使わない手はないと思いますよ」
「シュア殿もそういっておられる。変な気遣いは不要じゃよ。それともシュア殿に凄いところを見せたいのであれば話は別じゃがな」
「べ、べつにそんなことじゃあないですよ。俺はベリルさんやガリズマさんみたく皆に頼られたいって思っただけで…」
「ならまずは仲間として協力させてもらえぬか?皆で運べば運べる量も増え移動も楽になるのじゃ。それに皆に役割を与えるのは先輩としての技量が試されると思うのじゃが…」
「役割を与える…ですか?」
「買いだしに行く前にベリル殿が儂らにしたのと同じじゃよ。買い出しは儂らに任せて、自分は別のことをすると決めたように仲間として信頼しているからこそ役割を与えるのじゃ。今のケント殿は傍から見ると自分だけでどうにかしようとしていて儂らはどうすればいいかわからないのじゃ。そこが今のケント殿とガリズマ殿、ベリル殿との違いじゃよ」
「信頼して任せる…か。俺は一人でやることが立派で頼られるって思っていたけどそうじゃないのか」
「ケントさん…これ持ちますね」
「あぁ、ありがとう」
「ほれ、儂も持たせてくれぬかの?」
「わかりました。シンリーさんにはこっちをお願いします」
「うむ、任された」
皆で荷物を分担して持った。深くは意識していなかったけど仲間を思うって言うのは自分が頑張るだけでは成立しないみたいだ。時には皆を頼り乗り越える…これが必要になるらしい。ベリルさんとガリズマさん、それにラーシャルドさんはこれを普通にやっているのがどんなに凄いことなのかなんとなくでしかわかることができないけど、いつかは俺も当たり前にできるようになれたらなって思う。
明朝
「お前ら準備はいいか?」
「はい」「大丈夫です」「無論じゃよ」
商業街ノーヴァの門の前でベリルさんが皆を率いて出発前の確認をしていた。今回は俺、ベリルさん、シンリーさん、シュアちゃんの四人でパーティーを組んで遠く離れた村に行き武器が届かない原因を探すっていうクエストだ。トーナのことはガリズマさんに任せた。ギリギリまでごねられたけどトーナが人化し頭数として勘定をするうえで今回の遠征への同行は良くないと判断したのだ。なだめるのに小一時間かかったが無事に帰ることと帰ったらトーナのお願いをなんでも一つ聞くことを条件にお留守番をすることに頷いてくれた。ガリズマさんがトーナに何か耳打ちしていたのが気になったがお留守番してくれるのなら問題はないだろう。前のように小さな魔生物ではなくなりコミュニケーションを取れるようになったことがことを制した結果だ。言葉を話せるようになり会話で解決できるようになったのはある意味良かったことだろう。これで前みたいに尾行されてこっそりついてくることがないのを願いたい。
「じゃあ行くぞ」
ベリルさんを先頭に一行は歩みを進めた。道中見覚えのある森を横目にどんどん突き進んでいく。初日から結構なペースで進んでいた。
「そう言えばベリルさん、昨日の調査で何かわかったことはありますか?」
「わかったことか…商業街ノーヴァにある武器屋すべてを周り話を聞いたがどいつもこいつも似たようなことばかりしか話さなかった。武器屋どうしで情報共有をしているからかお前らが得た情報以外に目ぼしいものはなかったよ」
「そうですか…じゃあこれから何があるかわからないって感じですね」
「そういうことだ。最悪の事態も想定して行動することだな」
「わかりました」
「あ、そういや確か…いや、この情報については別に今回の件に関係はしていないか…」
「なんの情報ですか?」
「いや、武具が届かなくなる数か月前に仕入れる武具の中に妙に不細工な武具が混じるようになったらしくてな。そのことについて鍛冶師に連絡をとったことがあったらしいんだが~鍛冶師の方からはそんなものは知らないの一点張りで少しもめたらしい」
「不細工な武具…ですか?」
「あぁ、なにもそこらの素人が頑張って鍛えたような代物だったらしい。鬼人族は鍛えた武具に誇りを持っている奴が多くてなそんな駄作を作るわけがないんだが、実際にあったらしいし不思議だよな」
「ベリルさんはそれが今回の件に絡んでると思いますか?」
「どっかの誰かが鬼人族の信用失墜を企んでの行動としてなら関係ありそうだとは思うがな…まぁ、目利きが見れば一目瞭然だ」
「鬼人族の信用失墜…」
「商業街ノーヴァは結構大きな商業都市だからな~そこに商品として売り出すことができれば無名でもなんでも箔がつくってもんだろ?今は鬼人族が武器の類に関しては独占しているからそれを良く思わない連中ならそういったこともやりかねん」
「なんかかっこ悪いですね」
「かっこ悪くてもそれがうまくいけば多額の利益が見込める。利益があれば暮らしも豊になるだろ?見栄だけで生きていけるほど世界ってあまくねぇ」
「そうですね…」
昨日のシンリーさんの言葉にしろ、今のベリルさんの言葉にしろどこか耳が痛い話だった。自分にも思い当たる節があるのでそれを訂正してこれからの教訓にしよう…




