ガラリとした店内
「すいませーん」
とりあえず目についた武器屋に入ってみる。ベリルさんには自分で扱いやすいものを選べって言われたけど正直何が合うのか全然わからない。冒険者とか勇者から連想して剣とか持ってみるかって思ったけどまた一から慣れないといけないのは正直きつすぎるよな。俺が扱っていた手甲鉤は軽くて装備しやすく両手が空くので普段から身につけていても気にならなかった。鋭利な刃がついていることを除けば刻を知らせない腕時計みたいなものだったな。それにしてもこの店、武器屋にしては品数が悪くないか?どうしてだろう…
店内を見渡すと剣を置く剣置きがあるだけで剣そのものはなかった。点々と木剣だけがあるのは確認できた。普通こういった武器屋なら真剣が並んでいるものを想像していたがこの世界では違うのだろうか?
「はい、いらっしゃい。どのようなご用件で」
店内の様子を怪しんでいると店主らしき男が店の奥から出てきた。
「武器を見に来たんですけど店内にあるもの以外に見れたりしますか?なければ他をあたろうかと思うんですが~」
店主が出てくる数分の間にこの店の品物は大方見てしまった。そもそもちゃんと武器として使えそうなものが見受けられなかったのでこのままではこの店に来た意味がないのだ。
「武器ですか…それは実践で使う武具のことでしょうかそれとも訓練用でしょうか?」
「実践で使えるものですね。俺が使っていた武具が壊れてしまったのでそれの代わりになるものを~っと思って見に来たんですけど合うものがなくてですね~」
「そういうことでしたか。しかし申し訳ないのですが武具の類は店頭に並んでいるものですべてとなります。お目当ての代物がなければ他はございません」
「そうでしたか、では他の店を見てみようと思います。ありがとうございました」
「あぁ、ちょいとお待ちを。恐らく他の店も同様に武具の類が不足していると思われます。あなたが他の店を訪れるのを妨げようとはいたしませんが他の店に行っても時間の無駄になるかと…」
「それはどうしてですか?」
「実はですね…」
店主が武器が不足していることについて話をし始めた。
事の始まりは数か月前、商業街ノーヴァにある武器屋では外部のとある村から直接武具を仕入れていたらしい。商業街ノーヴァにある武器屋は店主自ら武器を鍛えて販売するのではなく外部の鍛冶師に依頼して作ってもらいそれを販売するという感じで商いをやっていた。いつものように依頼を書いた伝書を送ったが最後なんの連絡もなく、武器も届かなくなってしまったらしい。他の武器屋も似たような感じで外部からの仕入れがとまり今のように武器屋というには物寂しい感じになってしまってるそうだ。
「いままでこんなことはなかったのでどうしたものかとつい先ほども他の武器屋の店主と話をしていたのです」
「そうだったんですね。伝書が届いていないとかは考えられないんですか?」
「それについてはすぐに思いましたとも!ですので武器が届かなくなってから数日おきに伝書と催促通知を送りました。しかし、結果はこのとおりですね」
「その武器を作っている村で何かあったんですかね?」
「それについてはわかりません。一応ギルドのほうに調査依頼を出しているのですが村がある場所も遠いので冒険者の方々もしぶって受けてもらえず困っています。あなたも冒険者なのですよね?どうか依頼を受けて村から武器が届かない原因を突き止めてもらえないでしょうか」
店主が救いを求める目で俺のことを見てきた。店主の話を聞く限り現状この街では新たに武器の類を手に入れることは困難となっているらしい。武器を仕入れている村がどうなっているかはわからないが仮面の悪魔のことも考えると武器がいるのは確かだ。なら…
「わかりました。その依頼うけましょう」
「ほ、本当ですか!?それは助かりました」
「因みになんですがその村で直接武具を仕入れることとかはできるんですかね?使い慣れてた武器が壊れてしまっているのでどうにかしたいんですが…」
「村に行けば腕のたつ職人ばかりなのであなたに合った武具をオーダーメイドしてもらえばいいと思いますよ。私たち商人が仕入れるのはどれも汎用性の高いものですので直接鍛冶師と話して作ってもらう方がいいかと思います」
「そうですか、わかりました。依頼は既にギルドホールに張り出されているんですよね?」
「はい、日が経っているので今がどうなっているかはわかりませんが依頼をしたのは確かです」
「わかりました、ではお任せください」
「はい、どうかお願い致します」
店主と別れ一度ギルドハウスに戻ることにした。クエストを受ける前に一度ガリズマさんに相談した方がいいと思ったのだ。何せ今の俺は丸腰だ、猛虎の力を使えば戦えなくはないだろうが使いすぎてまた倒れてしまったらどうしようもないからな。一人でクエストに挑むのは得策ではないだろう。
「戻りました~ガリズマさんいますか?」
「ん、どうしたんだいケント君?」
「あの~実はですね…」
武器が壊れてしまった話と今さっき武器屋の店主と話してきたことをすべて話した。
「武器が届かないか…それは何かありそうだね」
「何か…ですか?」
「うん、例えば盗賊とかに道中品物を奪われたとか凶暴な魔生物に村を襲撃されたとかかな」
「え、それなら早く助けてあげないとじゃないですか」
「ちょっとまって、今のは私の予想であって本当にあったことじゃないよ。でも、何度も伝書を送ってるのに何の返事も返ってこないのはおかしいね。盗賊に強奪されるにしろ、伝書は取られないだろうし…」
「おいケント、何かいい武器は見つかったか?」
ガリズマさんと話をしていると自室からベリルさんが出てきた。
「武器屋に行ったんですけどなにもなかったんですよね~」
「そんなことあるわけねぇだろ?ここは商業の街、商業街ノーヴァだぞ。商人の連中が品物を仕入れておかねぇ理由はないだろ」
「あのねベリル、そのことについてなんだけど…」
ガリズマさんがベリルさんにも今回のことについて話してくれた。俺から話してもよかったのだがガリズマさんから言われた方がベリルさんも納得してくれるし別にいいだろう。
「武器が届かないか~確かに妙な話だな。この街の武器屋は確か遠方の鬼人族の村から仕入れてたはずだよな。武器職人としての腕は天下一品で腕っぷしも強いって話だし、そんじゃそこらの魔生物にも負けねぇだろう。なんなら盗賊なんかもビビッて手を出さねぇはずだが…」
「ベリル、ケント君」
「どうしたガリズマ?」「どうしました?」
「君たちでこの村の調査クエストをうけてもらないかい?」
「俺もか?別にこいつ一人でも大丈夫じゃねぇか?」
「今のケント君は武器の一つもないんだよ。あの時の不思議な力を使いこなせたとしてもあの時のように力尽きちゃったら誰が面倒をみるのさ?」
「っておい、俺にこいつのお守をしろと?そういうことか?」
「だってベリルはケント君の師匠でしょ?弟子の面倒を見るのも師匠の責任じゃないかな~」
「師匠って俺はいつからこいつの師匠になったんだよ。俺がこいつを鍛えるのは足を引っ張らないようにするためで別に弟子とかにした覚えはないぞ!」
「へぇ~そうなんだ。そういえばベリルはさ、ビーインフィニティの件でケント君に助けられたけどベリルは何かしてあげたの?だって鍛えるのは恩返しではなく足を引っ張らないようにするためなんだもんね?」
「うぐっ…あ~もう、わかったよ。行けばいいんだろ行けば!」
「そういうこと」
「あの~なんの話をしてるんですか?」
ベリルさんがガリズマさんにうまく言いくるめられたその時、タイミングよくシュアちゃんとシンリーさんがあらわれた。
「ベリルとケント君にちょっとクエストを受けてもらおうと話をしていたんだ」
「そのクエストってどんなのですか?」
シュアちゃんとシンリーさんにも話を説明すると…
「私もついて行っていいでしょうか?」
「別にそれは構わないけど~わからないことだらけで危険だよ?」
「危険は承知の上です。その鬼人族について調べたいんです」
「あ~そういうことか、なら行っておいでよ」
「儂もケント殿について行くのじゃ。問題ないかのガリズマ殿?」
「ええ、そうしていただけると助かります。ベリルだけだともしもの時に不安ですから」
「おい、ガリズマ!なんて言った?」
「ん~別に~老師とシュアちゃんが行くのを許可しただけだよ」
「いやそれじゃなくてだな…」
「ほらことが決まったら早く支度してクエストを受けてきて!ほら早く!」
ガリズマさんの言動について問い詰めようとするベリルさんの言葉を押しのけ半ば強引にギルドハウスから追い出されてしまった。ベリルさんも何か言いたそうにしていたが閉められてドアを見てため息をついていた。
「よしさっさと行くぞ。ケント、お前のために行くんだからクエストを受けてこい!ほらはやくしろ」
「は、はい!」
ベリルさんをこれ以上苛立たせないように一目散にギルドホールに向かいクエストを受けた。




