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九話「護衛としては間違っていても、こうすべきと思ったから……ってフェイクがな? 言うから仕方なくな??」

 

「ふぃー……軍の訓練所が占拠されてるなんて無能な、もとい大変でしたねー。こっちはクロちゃんが勝手に行っちゃって襲われかけたんですけど!! なんとか片付けました!! いやー大変な目に遭いましたよ。ほら、見てくださいこの戦果を!!」


「っぶな!? 投げんな、石ころでもお前が投げたら人が死ぬぞ!!?」


「でも先輩ならキャッチするじゃないですかほらー」


 フェイクが投げてきたのはルーンの刻まれた石だった。マナトはそれを仰け反りながらもキャッチして、辺りを見渡した。


 ここは近衛と合流するはずだった領主の館、その正門だ。


 少し進むと庭園が広がっていて、今にもその先に行こうとする王女の手を掴んでいるフェイクが立っていた。そして、その周囲には、領主邸の私兵か何かだろうが軒並み倒れていた。


 ……まさかお前、やったのか?? マナトが疑念の目を向けると失敬な! と、フェイクはぷんすこ怒りだした。


「私はしっかり自分の責務を全うしただけですー!! 王女のピンチを颯爽と守りきって見せましたとも!! ええ? 先輩こそなんですかぁ? 何してたんですかぁ??? 大変だったんですけど??」


「ちょろっと軍の駐屯所に立ち寄って装備回収して逃げてきたんだよ。行ってくるって、そう説明しただろうが。暴徒に占拠されてて時間が思いの外掛かっちまったのは悪いと思ってるが、つーか、俺お前に待ってろっていわなかったか?? 俺が目を離している間に王女と一緒にこんなところにまで来て……無事だったから良いものを、ちゃんと待ってろよ? あと軍の皆さんを無能呼ばわりはやめろ皆頑張ってるんだぞ」


「ひょっとして装備扱いなのかい? この僕が???」


「まあ無事に合流出来ましたし良いじゃないですか! それよりもクロちゃんですよ。抜け駆けはダメですからね!!」


「…………」


 マナトとジョンは暴徒に追われ、フェイクとクロは領主邸に居た兵士に襲われていたようだ。幸い、全員に目立った傷はない。フェイクが妙に変なところを見てるくらいか。もしかすると見えない故障とかあるのかもしれない。


 そして四人は領主邸の広い庭園を移動しながら、現状がどう言う状況かを話し合っていた。


「それで先輩。駐屯所、とーぜん! 暴徒は殲滅しましたよね?」


「あー、いや。面倒だったしジョンをかっさらって逃げてきたからな。ほぼ手付かずだ。時間がねぇんだ、無理言うな。なぁジョン、お前も何か言ってやれよ」


「まったくそうだよなぁー!! マナト、ちゃんと全部潰して来いよなー!」


「捕まってたお前が言うことじゃねぇよなぁ??? だいたいお前、引くほど厳重に囚われてたじゃねぇか。お陰様でお前一人持ち出すのが限界だったっての」


「いやーすごかったねえ誰もマナトに気付かずにスルーしてくんだ、叫んでみたかったねえアレは。って今持ち出すって言った?? 僕は道具じゃないんだが??」


「……叫んでたら投げ捨ててたぞ」


「へえ、私が偽兵士相手に七転八倒の大活躍をしている間にそんなことが……」


「七転八倒じゃぼこぼこにされてるじゃねえか、八面六臂か?」


「………………」


「なんで黙った!?」


「実際ギリギリだったからじゃない?」


そう言いながら、ドライバーを手にしたジョンがフェイクに歩み寄っていく。


辺りを見渡せば、庭園にはたくさんの燃えた跡、転がる人達が転がっている。息をしている者はほとんどいない。惨状と呼ぶべき状況だった、なるほどこれをフェイクがやったんだな。そりゃあまあ大変だっただろうがな。マナトは避難するような目をフェイクに向けた。


「い、いやいやいや!! 死体の半分くらいは変に隠れたところにあると思いますけどそれらは最初から死んでましたよ!!? 私がやったのはそうですね、表で死んでる軍服の奴らです!」


「尚のこと駄目じゃねえか」


「クロちゃんは誉めてくれたのに!!?」


 しかしこの軍服の遺体、眼帯をしている。……暴徒か。


「これはもういいですね」


 軍人三人がぎゃいぎゃいと言い合っているのを冷たい目で見ていたクロだが、ひとつ嘆息して変化のロケットをしまった。


変身を解いた王女は三人を追い抜いてズカズカと燐炎舞う庭園を進んでいく。


「おい待っ、勝手に行くなよ!!?」


 置いていかれないようにマナト達は追いかける。走るなー!! とマナトに担がれたジョンが抗議とばかりにジタバタするのを抑えつつ、クロの後を追う。


 場所は合流予定地だった領主の館。王女を追い越したマナトがその門扉を蹴飛ばし、邸宅内へと侵入する。


既に国境付近であり他よりも強固であるはずの軍の施設すらも暴徒の手に掛かって堕ちていたのだ、領主の館も無事であるはずもない。ほら見てみろ、火でも付けられたのか所々に煙が立ち込めている。


「ほらこの僕にマナトは感謝してくれ? 僕がいたから義肢のチューニング出来たんだ、ほら感謝、感謝して? Fp-001もチューニングするからこっち来るといいよ」


「感謝? まず捕まるなっての」


「それは無理さ。僕個人じゃ戦えないの、分かるだろ? ヤバかったんだぜー、気付いたら後ろから殴られてたしなーんもできなかった。しかも魔人とかいたし、抵抗したら……お陀仏さ。僕じゃなくても、無理!!」


力強く宣言されても困る。


一方、先行していた王女だが、玄関が空かずに困っているようで迷い気味にマナトを見つめた。


「…………マナト、開けてください」


「はいよ」


 マナトは領主邸の玄関は鍵がかかっているようだ。という訳で豪快に足の裏でノック。力強くドーン。あら吹っ飛んだ。


「先輩、野蛮」


「急ぎだ。許せ」


ドガッと真っ二つに折れた扉を何度も蹴り飛ばして蝶番を外して倒すと、ずんずんと邸宅の中に侵入していく。続けて遠慮も警戒もなく王女やフェイクも入っていく。


 高そうな調度品やらで装飾されている豪邸。いかにも領主の家って感じだ。玄関前の広間は上階まで吹き抜けになっていて左右方向に長い廊下、見える限り荒れている場所は──無い。


 そんな邸宅内の様相を眺めた王女はふむ、と考えてから言う。ラーメン食べている時と目つきが違う、完全にスイッチが入ったようで。


「マナト、意見を問います」


「……見たところ、放火されてるが、勢いが弱い。こりゃ小火止まりだな。表のは暴徒……近衛と一緒に王女がいると踏んでの暴動だろうな。でも屋内には襲撃に争った様子はない。武力で抵抗したなら、この長ったらしい廊下に痕跡が少ないのは妙だ。先んじて逃げたな。ジョン、近衛は王女のことは把握してないんだったな?」


「そだよー?」


 ジョンのあまりにも間の抜けた返しに、マナトは呆れた様に長く息を吐いた。ほらみろ王女は沈痛な顔して考え込んでいるというのに。


邸宅の中を観察した上で、マナトは考えた。


────こりゃ、安全を考えたらいまからでも引き返すべきかね。


王女も同様の思考に辿り着いたようで、苦虫を噛み潰したような顔でマナトへと命令するように口を開いた。


「では……マナト。合流は諦め──「何言ってんだよ王女様、突っ立ってないで行くぞ。ほらフェイク、お前が斥候な」


「はいっす!! "せんとう"は任せてください!!」


 マナトが王女の言葉を遮るように言い、フェイクは威勢よく返事した。理解が早くて助かる。


一方、王女はいきなり従う気の皆無なマナト達に目を白黒させていた。


「え、え、な、何故ですか?? この先に進まず、この絵を見捨てるのは、合理的なはず……」


「俺は、別にそれでも構いはしねえんだけどな。フェイクがな!?」


「はい!? 先輩こう言う時も押し付けるんですか!!? 知ってるんですよ私、先輩ぶん殴ったあの夜、本当は起きてましたよね!!?」


「はあーっ!!? 起きてねえよ、俺は何一つとして知らねえからな!!? 王女と近衛部隊の関係が、幼少からの馴染みだとか、生活を共にしてて姉妹みたいな関係だとか仲が良好だとか、そう言うやつなんか微塵も知らねえな!!」


 それは完全に知っている奴の発言だった。王女は理解が追いつかなかったのかぽかんと、弁明するマナトを見ていて。


「だあ!! 魔人がいるかもって話がある!! それならまあ頭数はあっても困らない!! それだけの話だ!! 何笑ってんだジョン、お前も来るんだぞ!!」


「はっはっは、冗談キツいよマナト? ねえマナト? 放してよマナト??」


 近衛と王女の影武者を見捨てて、彼女らと別にユグネリアに向かうのがマナト達にとって最も安全な行動だろう。


しかし、マナト達はなぜかこれが自然とばかりに決断していた。合理的じゃない決断を。


 それは何故?


王女は、ようやくこの義肢の男が何を考えてこんな決断を下したのか気付きかけていた。


「まさか……」


「王女様がそんな苦渋の決断みたいな顔して見捨てるって言おうとするならこっちも見過ごせませんよ。無理矢理押し通りますよ、先輩舐めないでいただきたいですね、魔人の一人や二人!!! 足手纏いの三人位どうと言うことはありませんから!!! 全員五体満足で再会させるくらい余裕ですよ!!」


「しれっと足手纏い側に立つんじゃねえよフェイク、魔人二人居たら流石に逆立ちしても生き残るのは無理だぞ? それにいざって時はお前が頼りなんだからな?」


「てへっ。そう言われてはフェイクちゃんも頑張らないとですねっ!!」


「で、どうすんだ? 王女様、いや、()()()()()?」


「…………!!?」


マナトは優しく笑いかける。フェイクはニヤニヤと彼を見ていた。王女と違って、気楽そうに。


「魔人がいるかも、と聞いています。とても危険なのですよ…………それでも、よいのですか……?」


 言ってなお、葛藤する王女に「へぶっ!?」ジョンを落としてからマナトは笑いかけた。


「ああ、俺は〈魔人殺し〉、荒事は得意分野、近衛たちとクロちゃん、無事に引き合わせて全員でユグネリアに届けてやるさ。任せとけよ?」


「……!!」


 マナトは自信満々とばかりにニヤリと笑う。


「……では、マナト。私を近衛達と合流させる、その道を切り開く剣となりなさい」


「了解」


 王女が、深く頭を下げる。


タイトル間違えてた……

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