四話「好奇心の少女達」
「うんしょ、っと。着きましたね、街に!! ふわーっ、影武者とかわった甲斐がありました」
「おい……待て、ください王女様」
王女が何故こんなところにいるのか。話は列車の暴徒を全員ふん縛った後のことだった。
彼女は列車の道中は、近衛部隊の人達や自分によく似た影武者の少女と一緒に移動していた。しかし出来心で影武者の少女に最後尾の景色が見たいと言ってどうにか彼女と共謀して一人脱走した。そして最後尾の車両で荒事が片付くのを待っていたという。
でも道中バレるんじゃないかって? それは勿論対策してあったようで、赤髪と金色の瞳をした王女様は笑って、胸に下げたロケットペンダントを握り締める。
「王女様禁止ですから!! ほら、私、この〈変化のロケット〉でこの通り別人にしか見えないのですから!!」
するとあら不思議。黒髪黒目の幼女に見た目が早変わり。背丈も小さくなって……そう、一般通過王女様である。
影武者は、おそらく今頃肝を冷やしているのではないだろうか。王女は単身列車に取り残されていると知っているのは彼女だけだから。マナトはそのことを思うと、胃がキリキリしてきた。なんだこの状況、心臓に悪い。
「一応、ジョンには通報しました」
「通報って」
「こんな幼気な女の子連れてる時点で十分じゃないですか。ねえ先輩?」
「うるせえ生後三ヶ月」
「なんですか先輩やるなら喜んで相手になりますよ??」
マナトは大きな溜息を一つ。こんなことを言い合っている場合じゃない。
「えーと」
「クロ、とお呼びいただけるといいと思います」
「ほんじゃクロちゃん。今の状況がどれだけヤバいかわかるか?」
「そうですね、実質誘拐犯、といったところでしょうか?」
そう思ってたのか。いや、まあ、誘拐犯じゃなくて護衛だって証明はできるが……軍の文書があるからね。見せる前に近衛に殺されそうだが。
「いや、護衛の数が減った事。護衛の階級が下がったこと。俺は大して金を持ってない。軍は金を出してくれない。クロちゃんの正体がその辺でバレるとマズい。このあたりか」
「心底不安になってしまいますね?」
「安心しろ、俺も不安だ」
「何も安心できませんよ先輩!!?」
「最優先にクロちゃんの居所を暴徒に掴ませたくない。暴徒どもは軍から情報を盗んでくることもあるだろうしな」
今回の列車襲撃に関しては軍の落ち度なのかどうかは定かじゃないが、可能性はある。足がつくのはしばらく避けた方がいい。フェイク経由でジョンに連絡するくらいはいいだろう。
フェイクの使っている回線は特別製なので盗聴の危険はかなり低い。それにジョンはあれで頭の出来がかなりいい。知らん現地の軍人よりもよっぽど頼りにはなるはずだとマナトは考えている。
「だからまあ、極力街に寄るつもりはない……ってことになる。期待してるとこ悪いが」
「「え……?」」
フェイクまでなんでショック受けているんだ???
「クロちゃんと相談して行こうと決めていたお店があったんですけど」
「どんなだ?」
「山盛りらあめん・ほんてん」
「……飯屋かよ」
「はい。そうですが?」
そういやフェイクは趣味が食べ歩きだった。アンドロイドなのに。
「これを逃したら、二度と食えないかもしれないんですよ?????? なんで邪魔するんですか????????」
「あの、マナト様? どうしてもダメなのですか?」
「死ぬのと天秤に掛けて考えろ」
「先輩のケチ!! 守銭奴!! ドケチ!!」
「金銭問題じゃねえよ。確かに金ないけど違うからな???」
「はてさて……本当にそうなのでございますか? それに今の私はクロです。クロアとは別人と言うことになります、ですから、問題はないかと私は考えます!!」
「あの、先輩、ひょっとしてクロちゃんは王女じゃないのではないかと考えました!!」
「それはねえだろ……常に少なくない魔力使ってるだろ、その〈変化のロケット〉の状態維持に。そんなことしてまで身を隠す必要は王女じゃなきゃないだろ、ってそれはお前も納得しただろ、なあフェイク??」
「うう、先輩のケチー!!」
なんとでも言え。
「王女の証とも言える宝石は今、私の手にはないので黙っていれば王女と断定できません。行きませんか?」
「……いいや、ダメだ!! お前の近衛との合流を優先!! いいな!?」
そんなこんなで食糧とバイクの燃料を買い足し、次の街へ向かった。