十一話「死角なんてないよ。だって天才だから、この僕はね!!」
「さてと、解錠出来たね。Fp-001、先に行くといい」
「はーい。よいしょっと」
「安心しろよフェイク。爆発しても残骸は拾ってやる」
「何が起きる想定をしてるんですか先輩!? 別にそんな危険なものありませんからね!!?」
ジョンが地下通路のどん詰まり、天井についた扉のロックを解除した。フェイクは嫌そうに扉を開けて外を観察した。
「ほら、全然平気じゃないですか!!? 罰として先輩から順に来てくださいね!!」
「罰かそれ……?」
石畳で巧妙に隠されていた地下道の出口から全員通り抜ける。出た先は薄暗い、牢屋のような部屋だった。
マナトは部屋を観察する。重要そうなのは、唯一の出口であろう鉄格子の扉には三つのロックが掛かっているっぽいところか。
カードキーでも通すのだろうか、縦の亀裂の入った電子パネル。対応する鍵の必要な錠前が一つ。またダイヤル錠が一つ扉に埋め込まれているのが見て分かる。どれか一つで良くないか?
厳重なセキュリティだ、領主はそれほどに警戒していたのだろうか。少なくともマナト単独では突破は不可能だと言える。破壊しても良いならその限りではないが、破壊しようとしたら発動する何かしらの罠がないとも限らない。だから破壊は最終手段だ。
だいたい、此処にはジョンがいるのだ。そんなことをするまでもない。
「ラミュ、これはどういうものなのでしょうか?」
「はい。王女様。ここの鍵は五桁のパスワードからなる鍵、オーダーメイドで作られた世界に二つとない錠前、特殊なカードが無ければ通ることもできない電子ロッ「先輩、斬れます?」
フェイクがラミュの話をスルーしてマナトに聞く。興味が無かったらしい。一方マナトは少しだけ刀にてを添えて考えた。
「いんや、奥の手なら無理じゃねぇが……そもそも刀はこんな金属を切る為のものじゃねぇ。こんな所に使うべきじゃねえよ、駄目になるからやりたくないし、何よりジョンがいるだろ」
「なんか癪なんですよね、この男に任せるの。だってこの後絶対に調子に乗るじゃないですか」
「開いたよー。さすが僕。天才。ホレボレする手際だ。そうは思わないだろうか王女様?」
「ええ、早く行きましょう」
王女は冷たい声で言ったのだが、自分の仕事が本当に良い出来だったのかニヤニヤしっぱなしのジョンは格子の扉をゆっくりと開けた。驚いているのはラミュ一人だけである。
「こうもあっさりと……この国でも随一のセキュリティだと聞いていたのだが……?」
「ちょちょいのちょいさ」
「じゃあ国随一ってのは勘違いかもな」「ですねー」
「天才機械技師、ジョン=ドーの手に掛かれば、どんな仕掛けも紙切れみたいなものさ。……でももっと誉めてくれてもよくない??」
「あーはいはい。すごいすごいですねー」
あまりに雑に受け流すのでジョンはフェイクに食って掛かる。ひょいひょいと戯れ合う二人を見てどう言うことだと頭を抱え始めたラミュ。
それらが見えていないかのようにズンズンと先を急ぐ王女に置いて行かれないように先行しながら、ラミュは聞いた。
「て、天才だとしても! メトルムでもかなり強固な部類に入るセキュリティを敷いてあったのを、合致する鍵なしで解除? 馬鹿言うな、そんなの絵物語の怪盗でも出来るはずが無い! しかも単なる機械技師に!? どう言う手品だそれは!?」
「いや、俺に言われてもな。実際出来てるじゃねぇか」
「だが、しかしな……こうも簡単に通り抜けられると恐ろしくもなるぞ。凄腕の……盗賊か何か、ではないよな?」
「違うわ。俺たちは歴とした軍人だ。あー、まあ……ジョンって機械技師の肩書き背負っちゃいるが、別に専門じゃねぇらしいし、無駄に博識だからな、なんか知ってたんだろうよ? なあジョン?」
「うんにゃ、暗証番号はなんか音聞いてれば分かるじゃん、ダイヤル式だし? 錠前はピッキングすればいけるよ。一時期楽しくなって一日中解錠やってたんだよねー。戦争中期のこのモデルなら目隠しでできるよ。で、最後の一つはカードが必要だったんだっけ? それはねー、プログラムがガバってたから適当に書き換えておいたよ。うん。これで侵入される心配はないね。鉄格子に電流流すとかいい発想だよね、いやあ、これ考えた人は良い腕してるね。でも基礎的な見落としが多いおっちょこちょいな人なんかな? にしても良いことをしたよ、暇な時に製作者にコンタクト取っとこうかな!!」
事も無げに、しかし楽しそうに普段の数倍饒舌に語るジョンは気付いていなかったが、ラミュは無言。ドン引きだった。
システムの上書きと言ったか?? 軍になぜこのレベルの技術者が?? それがたまたま同行している?? いかん、眩暈がしてきた……ラミュは頭を抑えた。
王女は、ラミュが未だに不信感を露わにしているのを感じていた。今、そんなことに拘泥している場合じゃないのですよ。
王女は肩を竦めて、ラミュに言った。
「ラミュ。見たでしょう? 彼の腕に間違いはない、それは既に通ってきた道が示しています。疑問に口を挟む前にするべき事があります。どういう訳で皆が戦闘もなく、逃走をしたのか。まだ聞いていません」
「それは……」
「ラミュ。何故口籠るのですか? 何か言い難いことがあるのですか」
「領主の元に、一つ連絡があったのです。『魔人がくるぞ』と」
「そうですか」
「ちょっと待て、たったそれだけで逃げたのか? 天下の近衛部隊が、か??」
マナトはつい、会話に割り込んだ。
「ああ、領主は『信頼できる筋』と言っていた。事実、魔人から王女様を守る術は、確実なものがない。それに領主も共に館から逃げている……んむ? では何故王女はここに?」
「そもそも列車爆破の時にはお前らの元にいたのは影武者の方だって本人から聞いてる。置いてったんだよ、入れ替わりに気付かずにな」
「な……!!? それは真か!!?」
「ええ、王女の証はあの子に預けていますが、〈妖精王女〉である証拠は出せます。ラミュ、貴方が疑うと言うのであれば────見せましょうか?」
王女がそう言い、鉄格子に触れようとする。ジョン曰く電流の流れる鉄格子に。
ラミュは慌てて王女の前に回り込む。
「い、いえ!! 信じます。信じておりますとも。我々の目が節穴だったんですね!!! 不甲斐ない!!!」
「いえ、決してそう言うことではなく……少し外を見てみたかった、私の我儘ですから。そう気に病まないでください、ラミュ」
「無能には変わりな──むもぐ」
「はいお前は余計なことを言うんじゃねぇぞー」
影武者が上手くやったんだろうか。余計な事を言いかけたフェイクの口を塞いで、マナトは無理矢理引きずっていく。
この建物は一室しか無かったようで、牢屋を出て一つ扉をくぐると、上へと続く階段が。
登った先は、腰ほどまで丈の長い草が生い茂る平原だった。王女を残して先に出たマナトはフェイクを解放して言った。
「フェイク、怪しいのはないか。三秒で確認しろ」
「先輩ってば、アンドロイド遣いが荒いですー…………えーと?」
どうやら草に紛れて地下への出入り口は遠くからパッとは見えない様になっている。周囲には人の気配はないのはマナトでもわかる。
そのことからフェイクは自分に求められている行動は『遠方に存在する近衛達の行方の痕跡の捜索』であると結論。視覚を望遠モードに切り替え、真っ先に国境方面へと顔を向けたフェイクは妙な物を見つけ、凝視。
「あっちに馬車がありま……──っ!? あれ、馬の首が無いです!? やっば! ナイトメアってやつじゃないですか!!!?」
「フェイク、それは本当ですか? 首がない、つまりは既に襲われた後という事……早く行かなくちゃ……!!」
「王女様、ちょ、まっ」
フェイクの言葉を聞いてしまった王女が制止が間に合わないほどの勢いで走り出してしまった。慌ててフェイクとマナトは追いかける。
幸い、王女の足はあまり早くない。でも護衛対象に独断専行されると肝が冷えるからやめてほしいなーと思うマナトである。
「いきなり走り出しますか、もう!!」
「まあ、悪夢ってことだな、で、フェイク。方角合ってんのか?」
「はい間違いなく、ですよー!!」
「よしじゃあ王女の事と、それから最初の加速は任せる!! 俺を全力でぶん投げろッ!!」
「分っかりましたぁ先輩ッ、不肖フェイクちゃん、投げさせて頂きます!! レッツお星様!!!!」
「な、貴様ら何を!?」
遅れて出てきたラミュが叫ぶ。マナトはフェイクに駆け寄って叫ぶ。
「当然、フェイクの腕で投げるんだよッ!! じゃあ先に行ってんぜ──〈点火〉ッ!」
フェイクはマナトの足を手に乗せて、思いきり投げ飛ばした。