俺が訳アリ兄妹のパーティーメンバーになった話
レンガ造りの建物が連なる街の角。
ひっそりと経営している小さな宿の一室に、向かい合っている2人の男が居た。
「で、何の話を聞きてぇんだ?」
その片方、軽い雰囲気を持った赤茶色の髪の男が机に肘を乗せ、相対している黒髪の青年に質問を投げる。
「あー…面白いやつを頼む。」
茶髪の男の質問に対し、黒髪の青年は考えていなかったとばかりに目を逸らすと、そう答えた。
「そうかい。まぁ、良いけどよ。……にしてもアンタも物好きだなぁ…いきなり話を聞きたいって。じゃあ、話すぜ?これは2年前、俺がまだAランク冒険者になりたての頃だ…」
その言葉に、青年はピクリと反応したが、声は出さなかった。無言で話の続きを催促する。
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…………………
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俺がやっとAランクに上がって、浮かれてた頃だ。
その日の依頼が纏められた掲示板を眺めていたんだが、珍しくギルドの受付嬢が声をかけてきたんだ。
俺は珍しいなと思いつつ、話を聞いてみる事にした。一介の冒険者に受付嬢が声を掛けるなんて、婚活かギルドからのお願いくらいだからな。そんなことは滅多にない。
話を要約すると、最近、ある兄妹が駆け出しになったそうなんだが、高難易度の討伐依頼を受けようとしているらしい。冒険者が受ける依頼は基本自由だが、まだその兄妹が若く、見殺しにしたくない為、パーティーメンバーになってお守りをして欲しいって感じだな。
なんで俺なんだと聞くと、前に頼んだ冒険者は兄妹の方が拒否したらしい。理由が、「連携が取れなかったから」だそうだ。
そして、これこそが俺に話が回ってきた理由。基本的に、冒険者は高ランクになればなるほど固定のパーティーを作るだろ?だから、その仲間以外とは連携が取れない奴が多いんだ。
それでなんで俺に回ってきたかって?それは当時、俺は固定のパーティーじゃなく、他パーティーの助っ人として参加して功績を稼いでた。「高難易度依頼をこなせる程度実力があり」「連携が取りやすく」「お守りをしてくれそうな奴」がその時俺しかいなかったって話だ。
で、内容を把握した俺は次に、受けた時のメリットを提示させた。タダ働きは御免だからな。
それに対しての返答は、「お金は出せませんが、ランクアップ、功績等に考慮します」だった。幸い、金はまだ残っていたからな。恩を売っとくのも悪くねぇかと思った俺は、そのお願いを受けたわけだ。
受ける事を伝えると、受付嬢は頭を下げて「ありがとうございます」って丁寧にお礼を言ってきた。俺は冗談半分に「今度ディナーでもどうだい?」って言ってみたんだが、「それは遠慮しておきます」って振られちまったぜ。………え?その情報は要らない?あぁ、そうかよ。
翌日待ち合わせの場所に行ってみると、そこには2人のガキがいた。
薄桃色髪の11…12くらいか。そんくらいの女のガキと、かなり黒に近い深緑髪で、15くらいの男のガキ。「あぁ、こいつらか」って一目でわかった。
俺がその2人に声を掛けると、女の方が笑顔で駆け寄ってきて、こう言ったんだ。
「おにーさんがカルガドフさんですね?よろしくお願いします!」
てさ。……ん?あぁ、言ってなかったか。俺の名前がカルガドフだ。
話を戻すぞ?その時の俺は、受付嬢から聞いたんだろうと思って、俺もガキの名前聞いときゃ良かったなって後悔していたんだが…その女のガキは、いきなり自己紹介を始めた。
「私はハルカと言います!魔術師です。こっちの兄がセンで、一応剣士です」
ってな。
その後は軽く打ち合わせと戦術、得意な動きなんかを見せあったりして、依頼の指定場所に向かう事にした。
打ち合わせの最中、妹の方は終始笑みを浮かべてたが、兄の方は真反対で常に無愛想で印象は最悪だったぜ。
「あぁ。」
とか
「は?」
とかしか言わねぇからな。
まぁそれはいいんだが。
で、依頼の指定場所…暗黒の森…って分かるか?1部には有名な、アンデッドなんかがたむろしてやがる森なんだが、そこにいる獅子王討伐が目標だった。
獅子王っつっても一体じゃなく普通に魔物だから主って訳じゃねぇんだが、暗黒の森1の死亡原因って言われてる奴だ。
俺も暗黒の森自体は行ったこともあったんだが、獅子王とは戦った事がなくてな。「でもまぁ大丈夫だろ」って考えで行っちまった。慢心があったんだろうな。
一応その場で出来る限りの準備はしたが、万全とは言い難い状態で移動した。
暗黒の森に着いた後は、もう一度打ち合わせしてから入った。
ありゃあ酷かったぜ。その前に言った時は1年前くらいだったんだが、その時の3倍は魔物が出てくるんだ。
アンデッドも大群で襲いかかって来やがるし、ただでさえ生い茂りまくった木で昼でも関係なしに真っ暗だってのに、保護色の蜥蜴や木に擬態してる奴まで多くなってやがった。
正直、あの兄妹と一緒に行ってなければ死んでてもおかしくなかったと思う。
その時は妹の方が魔物をガンガン倒すのに気を取られて気が付かなかったが、兄の方もやばかった。目立つ攻撃なんかは無いが、休みなく全方位からの攻撃をほぼ捌き切りつつ、妹の方のサポートもしてた。
俺は情けない事に、自分の事で精一杯だった。周りを見る余裕すらほぼなかったから、兄の方の実力にも気が付けなかったしな。
それでもその魔物達を倒し切ったところで戻る提案をするべきだったんだが、俺はいい所を見せたかったんだろうな。そのまま進む事に賛成しちまった。情けねぇ限りだよ。
そのまま運良く…いや、悪くか。直ぐに標的を見つけちまった。
そいつは聞いてた物の5倍近くの巨体で、どう考えてもおかしかった。
それでも、「まぁこんなもんか」と納得しちまったんだ。どこかでおかしいとは思いつつ。
そのまま戦闘にはいって、俺が理解したのは攻撃した時だ。
所謂補助系の魔法も使って、兄の方が攻撃を受け、隙をさらしたタイミング。そこに、全力の一撃を死角から入れたんだ。
俺は足を1本貰った、と確信を持っていた。
だが。
傷一つ、無かった。
あぁ。
駄目だ。
こいつには勝てない。
こいつは殺れない。
俺はやっと気付いたんだ。戦えば殺されるだけだと。
その瞬間、吹き飛ばされた。
物凄い衝撃で大木に打ち付けられた俺は、ハルカの回復魔法のお陰で辛うじて意識を保ってた。
次に俺がしたのは、痛みを堪えながら逃げる方法を考える事だ。
恐らく骨は折れてただろうし、即死じゃなかったのが幸運だったレベルだ。
俺がそんな大ダメージを受けてしまったせいで、恐らく全員で逃げる事は出来ないだろう。
そもそも、スピードだけでも軍馬を凌いでいるかもしれない。誰かが囮になるのが現実的だ。
そこまで考えて、俺はハルカに言った。
「俺が囮になるから、お前ら2人で逃げろ。」
多分、最後にカッコつけたかったんだ。
2人はまだ若いからとか、そんな理由じゃなく。プライドを守りたかったんだよ。
だが、それを聞いたハルカは、満面の笑みでこう言った。
「………おにーさんは、合格!」
俺は意味が理解出来なかったよ。絶望的な今の状況で合格?何のだ?ってな。
だが、そう思ってたのは俺だけだったんだ。
ハルカのその声を聞いた途端、センの動きが変わった。
それまで防戦一方だったのが、一瞬で攻めに入り、流れるような剣技で獅子王の四肢の1本を切断した。
俺が不可能だと判断した物を、いとも簡単にやってしまった。
そのまま、抵抗も殆ど許さず一人で討伐した。たった数秒で。
確実に死んだ事を確認し、剣を鞘に仕舞ったセンが呆然と座る俺の元に近付いて来て、俺に言葉を発したんだが、なんて言ったと思う?
「冷たく接していてすみませんでした。宜しければ、僕らとパーティメンバーになって貰えませんか?」
だってよ。
どう考えても実力が見合ってない俺をパーティメンバーに誘ってきたんだ、笑えるだろ?
その後は合格の意味なんかを聞いた。どうやら、「子供二人だとやたら不便な為、大人で信用出来るパーティメンバーが欲しい。ギルドの受付の人が優しいし、悪いけど利用させてもらおう」って言う発想から、組んでみて見極めようとしてたらしい。
態度がやたら冷たかったのはハルカ目的じゃなく、悪いところがあっても仲間として意識できるかどうかが知りたかったらしい。
まぁハルカはまな板だがスタイルは歳を考えると良かったし、1部の奴には刺さるだろう。愛想も良かったしな。
概ね納得した俺は、その誘いを受ける事にした。
命の恩もあるしな。
そういえば、あの有名な初代勇者様が作ったランキング?の1位だったんだよ、センが。
え?ランキングを知らないのか?この街にもあるだろ?ほら、広場にあった石碑だ。
それを知った俺の行動は早かったね。まだまだ強くなりたかったし、1位に教えを乞うことが出来るチャンスなんて滅多にないからな。
その後はセンに剣を学んだりして ━ ━ ━ ━
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「と、そろそろ時間だな。」
「…………その兄妹はどうなったんだ?俺と会った時は1人だっただろ?」
「……あぁ。…………ハルカがな、消えたんだ。いきなり、忽然と。俺とセンは必死に探したが見つからなかった。」
「………それで?」
「今も見つかってない。センは1人で旅に出た。俺は足でまといだからな。
……だが、俺も諦めちゃ居ないぜ。
必ず見つける。助け出す。
絶対に。」