それでも川は流れていた
川があった。
人生という流れる川だ。
僕はいつのまにかそこにいていつのまにか流されていた。
朝が来て、学校にいって、クラスのみんなとあって、授業を受けて、部活をして、家に帰る。
そんな川があった。
あるとき、クラスの一人が不慮の事故で死んでしまった。
悲しくはなかった。
そんなに関わりがなかったから。
他人だったから。
でも、僕の友達は悲しそうだった。
それでも川は流れていた。
あたりまえのように通夜にいってその子の家に挨拶にいった。
みんなと。
でも本当はそんなに悲しくなかった。
友達にあわせていただけだったんだ。
人生という川に流されていただけだったんだ。
その半年後、母が死んだ。
心不全だった。
もともと体の弱い人だったから。
通夜のとき、参列者は僕を可哀想な目でみてくる。
僕は体にこみあげてくるものがあったけど、涙はでなかった。
あれ? どうやって悲しむんだっけ?
それでも川は流れていた。
気持ちの整理がつかないまま、あたりまえのように、通夜と葬儀をして火葬して、骨になった母を骨壺にいれた。
悲しくはなかった。
まるで儀式でもしているような感覚だった。
たった二日で気持ちの整理がつくとでも? この儀式には意味はあるのか?
それでも川は流れていた。
また朝がきて、学校にいって、みんなとあって、授業をうけて、部活をして、帰宅する。
あいかわらず大人たちは僕を可哀想な目で見つめてくる。
でも、いいんだ。
僕はまた、この川に、人生という川に流れてしまえばいいんだから。
それから2年、僕は高校に入った。
新しい世界だ。
でも、何か忘れている気がする。
この川の上流に、何か落としてきた気がしたんだ。
でも僕は流されているから取りに帰ることはできない。
それはきっともう遠くの上流にあるのだから。
それでも川は流れていたんだ。
するとね。
僕の体は沈んでいくんだ。
呼吸がしずらくなって。
苦しくなって。
ふと、横をみると川岸がみえた。
人生という川のはずれだ。
もし、ここで川岸にあがるとどうなるんだろう?
僕は落とした何かを拾いに行けるだろうか?
きっかけはなんでもよかったんだ。
些細なことでも重大なことでも、この息苦しさから解放されるなら。
それを拾いにいこうって。
そしたらみんな川のそこから僕の足をひっぱってくるんだ。
いっちゃいけないってさ。
だけど、ごめん。
拾いに行かなくちゃ、何を落としたのかさえ忘れたけど。
ごめんな、みんな。
そして僕は川岸にあがった。
流されていくみんなが見えた。
就職をしたり進学したりしてた。
僕はそれを川岸からみてたんだ。
僕はすこしずつ上流を目指した。
いっこうに進まない。
だって何を落としたのか忘れてたから。
慎重に川岸にを探索したんだ。
米一粒のダイヤモンドだっただろうか?
大粒のルビー?
それともサファイアだっただろうか?
それでもこの石ロコだらけの川岸をくまなく探しながら登り続けたんだ。
川の上流へと。
川岸にあがってみると、滑稽だった、僕らが流されてた川の先は滝になってたんだ。
流されていったみんなはもうずいぶんと下流にいた。
おい、その先は滝だぞ。
あるものは死に、あるものは助かる。
そういう滝がいつくもあって淘汰されて、結局、最後には、みんな死ぬ。
それがわかっているはずなのになんで流されるんだ。
その川は楽だろうな。
僕はやっと落としたものをみつけた。
そして川に戻ろうとしたら、もうその川は違っていた。
僕の知っている川じゃなかった。
この川には戻れなかった。
僕が探し物をしてる間も流れていたんだ。
でも、いいんだ。
僕は川岸から自分のペースでくだるから。