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5/7

 

 キミは犬のポチを追いかけて、ゴブリンの集落にたどり着いた。

 そして、近くの茂みに身を潜めて、ポチと一緒に周囲を観察することにした。


 そこは岩壁を浅く広く掘り抜いた場所で、骨の松明が何本も生えている不気味な空間だ。

 獣のガイコツばかりを串刺しにしたトーテムポールが入り口に立っていて、『これ以上近付くならオマエもこうなるぞ』と、こちらを威圧しているように感じる。


 ひえー。思っていたよりも怖いところに来てしまったね。

 キミ、怖くなってない? 私は怖いよ。

 でもキミのためだ。しっかりとサポートするね。戦うのはキミだけど。


 背が小さくて緑色の、恐ろしい笑みを浮かべたゴブリン達が輪を作り、中央の台座を囲んでいる。

 台座の上にいるのは、赤毛の少女。

 キミの探している防具屋の娘だった。


 ポチは低く身を屈めて声を抑え、キミを見据えた。

『やるなら今だよ、勇者様』

 と、そう言っているようだった。


 どうする? 結構な数がいるみたいだよ。

 ただ闇雲に突っ込んでいくのは得策じゃないよね。ここはクレバーに攻めたいところだけど……。


 ゴブリンたちが、台座の周りをぐるぐると周りながら、

「ママ! ママ! 新しいママ!」

 と、蛙を潰したような声で合唱を始めた。

 赤毛の少女は、

「ふぇええ! 怖いよぉ! たすけてー! ポチー!」

 と、叫ぶ。

 しかし、その声もゴブリン達の妖しい歌声の中にかき消えてしまった。


 キミが作戦を考えていると、しびれを切らしたポチが物陰から飛び出してしまった。

 それからポチは、まだこちらに気付いていないゴブリンのうち一匹に体当たりをして、転ばせた。


 ポチは勇敢だ! ……でも他のゴブリン達が怒ってしまったよ。

 ポチは吠えて威嚇(いかく)をするけど、棍棒を手にしたゴブリンが今にもポチに飛びかかろうとしているよ!


 キミは跳ねるように駆け出した。

 そして、ポチに迫り来る棍棒を、すんでのところで剣で受け止めた。

 ばちん、と火花が散るけれど、武器屋のおじさんが託してくれた剣は頑丈で、そのままゴブリンの棍棒を吹き飛ばすことに成功する。


 ナイス判断! キミはポチを守ることに成功したよ。

 でも油断しないで。まだ、ゴブリンはたくさん残ってる。


 キミの背後から、

「あっ、危ない!」

 と、少女が叫んだ。


 キミが振り向くと、飛びかかるゴブリンが、すでに目の前に迫っていた。


 ゴブリンが持っている凶器は、ギザギザの尖ったナイフ。

 体重の乗った一撃が、キミの胸に勢いよく突き出された。

 手を動かしても、とっさの事でガードが間に合わない。

 がきんっ、と大きな音が鳴る。

 キミは胸に強烈な衝撃を感じた。


「旅人さんっ!」

 少女が叫ぶ。


 キミは少しよろめいたあと、胸に手を当てた。

 冷たい感覚。

 そこには、少しだけ傷のついた板金があった。


 よかった! 鎧は少し傷付いたけど、キミは無傷みたいだね。

 なんて頑丈な鎧なんだろう!

 これなら、キミの得意な剣舞を思う存分()せてあげることができるね。


「旅人さん! また後ろにっ」

 ふたたび少女が叫ぶ。


 しかし、強い自信を獲得したキミは、大胆な行動に出た。

 見えもしない後ろに向けて、振り返りざまに剣を振り抜いたのだ。


 ばちんっ、と火花が鳴る。ゴブリンと棍棒が宙を舞った。


 そして、すぐさま背後に感じる殺気に反応する。


 ばちんっ、と同じようにゴブリンが弾き飛んだ。


 さらに、もう一度ぐるりと回る。


 ばちんっ、と火の粉が爆ぜる。


 もう一度。


 ばちんっ。


 キミがターンを繰り返すたび、火の粉とゴブリンが宙を舞う。

 リズミカルに鳴る金属音も相まって、まるでゴブリン達と幸せなダンスを踊っているかのよう。

 そうして、キミは無我夢中で剣のワルツを踊り続けた。


 やがて、踊り相手がいなくなった頃、静かになった舞台の上で、キミは剣を鞘に戻し、スカートの裾をつまんで一礼した。


 少女の拘束はすでにポチによって解かれており、

「かっ……かっこいい!! あなたは勇者様なのね!」

 と、キミに飛びついてきた。

 どうやら少女は無傷で、元気いっぱいみたいだ。


 キミが興奮している少女を抱き止めていると、ゴブリン達は起き上がって、一斉に逃げて行ってしまった。


 クエストクリアー! だね!

 すっごく格好良かったよ。剣のワルツ、素晴らしいね。

 ――おや? 一体だけ、逃げ遅れたゴブリンがいるみたいだ。


 キミは、地べたで動けなくなっているゴブリンに近付いていった。


 どうする気?

 ゴブリンはボロボロで、もう戦えないみたいだけど……。

 でも放っておいたらまた悪さをするかもしれない。

 さあ、どうするのかな?


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