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キミは丘を下り、小さな村の中へと入っていった。
ゆっくりと回る風車。可愛らしいカカシが両手を広げる畑。並んで歩くニワトリと牛。
これでもかというくらい、のんびりとした時間の流れる村だね。
そこで、キミはキミが会う初めての人間を発見した。
彼女は赤髪の小さな女の子で、小さな犬と散歩中だったみたい。物珍しそうな顔でキミを見ているね。
女の子はキミに、
「あなた、どこから来たの? ワイルドなお洋服ね」
と言った。
確かに、今の格好は人前に出るにはちょっとアバンギャルドってやつだね。
わかる? アバンギャルド。すごい攻めてるって意味ね。ボロ布の急ごしらえワンピースだからね。
キミが照れていると、
「恥ずかしいの? じゃあ、村の防具屋さんに連れていってあげるねっ」
と、女の子がキミの手を引っ張って駆け始めた。
少し人目の多い広場を通り抜けて、キミは丈の短いボロ布ワンピースを抑えながら、見事に走り抜いた!
高い運動神経と繊細な気配りが功を奏したね。
防具屋さんの中に入ると、店番のコワモテのおじさんが、
「おう、娘よ。もうポチの散歩は終わりかい? 早かったな」
と赤毛の少女に言った。
どうやら、二人は親子みたいだね。
少女は、
「うん! それより、お父さん。この人にお洋服をみつくろって欲しいの」
と言った。
おじさんの視線がキミに注がれるのを感じて、やっぱり少し恥ずかしくなっちゃうね。
キミは少し、赤面症の気があるのかな。それとも、これまでの経験で得たキミの特徴かな。
どちらにせよ、これは悪いことばかりじゃないね。なにせ、周囲の人は率先してキミを助けようとしてくれているんだから!
おじさんはにっこり笑うと、
「旅の人かい? 服がそんなになっちまうなんて、さぞ大変な旅をしているんだろうな。よしきた、この俺が一肌脱いでやろう!」
と、腕をぐるんぐるん回した。
そして、おじさんは鼻息荒く裁縫バサミをチョキチョキとやり始めた。
キミがちょっと引いていると、
「お父さん、こうなると周りが見えなくなっちゃうから。ねえ、村の中をもっと案内させて?」
と、再び少女がキミの手を引いた。
キミは次に、村の武器屋さんに案内された。
展示してある剣は、どれもいぶし銀といった感じで、これといった特徴はないけど、持っていたら勇気が湧いてきそうなものばかり。
武器屋の無愛想なおじさんは、
「……見るのはタダだが、買うなら金が必要だ」
と、キミと少女に言った。
少女は武器屋のおじさんに、
「ういんどーショッピングよ。タダで出来るお買い物なの」
と、返した。
中々、ませてる女の子だよね。
この村は成熟した大人ばかりだから、この子も苦労してるのかも。
比較的、若いキミがこの子に気に入られたのは必然かもしれないね。
次にキミは薬屋さんに立ち寄った。
赤、青、緑などの、色とりどりの瓶が飾られた薬品棚が印象的だね。
薬屋のお姉さんはとても愛想の良い人で、
「お、いらっしゃい! 初めての人がいるね? ポーションはあげられないけど、代わりにこの『やくそう』をプレゼントしちゃうよ。今後ともご贔屓にね」
と、言った。
すかさず少女が、
「わたしにも、ちょーだい?」
と、言うけれど、
「ウインドウショッピングの常連さんにはあげられないねぇ! 破産しちゃうよ」
と、からからと笑った。
少女は本当にキミの事が気に入ったみたいで、それから色々なお店を冷やかして楽しそうにしていた。
日が落ち始め、いわゆる黄昏時になると、少女は慌てた様子で、
「あ……おやすみする場所がないね」
と、言った。
どうやら、村には村人用の商人が居ても、宿屋みたいなものは無いみたいだ。
少女はすこし申し訳なさそうにして、
「馬小屋でいい?」
と、聞いてきた。
お前の家に泊まらせろ! なんて、優しいキミに言えるわけもないから、仕方なく了承することにした。
そして、少女に案内された場所は正真正銘の馬小屋だった。
すでに何頭かの先客がお休み中で、キミは一番端っこにある、空き部屋を使わせてもらう事になった。
馬小屋とは言っても、牛とかニワトリも入ってるから、中々にぎやかだね。
でも、少しずつ彼らも寝息を立て始めたみたいだ。時計は無いけど、遅い時間になったことが分かるね。
キミは生まれて初めての睡眠を体験することになるけど……どうかな? 怖いかな?
目を閉じて、真っ暗になって、意識を手放す。これって、結構恐ろしいことだよね。
朝起きたら、今までの事は無くなってるかもしれない。そもそも、二度と目を覚ます事が無いもしれない。
でも、大丈夫!
私がきっと起こしにくるからね。キミはまだ儚げな存在だけど、安心して戻ってこれるようにサポートするから。約束するよ。
だからキミも、途中で居なくならないって約束してね。