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3/7

 

 キミは丘を下り、小さな村の中へと入っていった。

 ゆっくりと回る風車。可愛らしいカカシが両手を広げる畑。並んで歩くニワトリと牛。

 これでもかというくらい、のんびりとした時間の流れる村だね。


 そこで、キミはキミが会う初めての人間を発見した。

 彼女は赤髪の小さな女の子で、小さな犬と散歩中だったみたい。物珍しそうな顔でキミを見ているね。


 女の子はキミに、

「あなた、どこから来たの? ワイルドなお洋服ね」

 と言った。


 確かに、今の格好は人前に出るにはちょっとアバンギャルドってやつだね。

 わかる? アバンギャルド。すごい攻めてるって意味ね。ボロ布の急ごしらえワンピースだからね。


 キミが照れていると、

「恥ずかしいの? じゃあ、村の防具屋さんに連れていってあげるねっ」

 と、女の子がキミの手を引っ張って駆け始めた。


 少し人目の多い広場を通り抜けて、キミは丈の短いボロ布ワンピースを抑えながら、見事に走り抜いた!

 高い運動神経と繊細な気配りが功を奏したね。


 防具屋さんの中に入ると、店番のコワモテのおじさんが、

「おう、娘よ。もうポチの散歩は終わりかい? 早かったな」

 と赤毛の少女に言った。

 どうやら、二人は親子みたいだね。


 少女は、

「うん! それより、お父さん。この人にお洋服をみつくろって欲しいの」

 と言った。


 おじさんの視線がキミに注がれるのを感じて、やっぱり少し恥ずかしくなっちゃうね。


 キミは少し、赤面症の気があるのかな。それとも、これまでの経験で得たキミの特徴かな。

 どちらにせよ、これは悪いことばかりじゃないね。なにせ、周囲の人は率先してキミを助けようとしてくれているんだから!


 おじさんはにっこり笑うと、

「旅の人かい? 服がそんなになっちまうなんて、さぞ大変な旅をしているんだろうな。よしきた、この俺が一肌脱いでやろう!」

 と、腕をぐるんぐるん回した。


 そして、おじさんは鼻息荒く裁縫バサミをチョキチョキとやり始めた。

 キミがちょっと引いていると、

「お父さん、こうなると周りが見えなくなっちゃうから。ねえ、村の中をもっと案内させて?」

 と、再び少女がキミの手を引いた。


 キミは次に、村の武器屋さんに案内された。

 展示してある剣は、どれもいぶし銀といった感じで、これといった特徴はないけど、持っていたら勇気が湧いてきそうなものばかり。


 武器屋の無愛想なおじさんは、

「……見るのはタダだが、買うなら金が必要だ」

 と、キミと少女に言った。


 少女は武器屋のおじさんに、

「ういんどーショッピングよ。タダで出来るお買い物なの」

 と、返した。


 中々、ませてる女の子だよね。

 この村は成熟した大人ばかりだから、この子も苦労してるのかも。

 比較的、若いキミがこの子に気に入られたのは必然かもしれないね。


 次にキミは薬屋さんに立ち寄った。

 赤、青、緑などの、色とりどりの瓶が飾られた薬品棚が印象的だね。


 薬屋のお姉さんはとても愛想の良い人で、

「お、いらっしゃい! 初めての人がいるね? ポーションはあげられないけど、代わりにこの『やくそう』をプレゼントしちゃうよ。今後ともご贔屓にね」

 と、言った。

 すかさず少女が、

「わたしにも、ちょーだい?」

 と、言うけれど、

「ウインドウショッピングの常連さんにはあげられないねぇ! 破産しちゃうよ」

 と、からからと笑った。


 少女は本当にキミの事が気に入ったみたいで、それから色々なお店を冷やかして楽しそうにしていた。


 日が落ち始め、いわゆる黄昏時になると、少女は慌てた様子で、

「あ……おやすみする場所がないね」

 と、言った。

 どうやら、村には村人用の商人が居ても、宿屋みたいなものは無いみたいだ。


 少女はすこし申し訳なさそうにして、

「馬小屋でいい?」

 と、聞いてきた。

 お前の家に泊まらせろ! なんて、優しいキミに言えるわけもないから、仕方なく了承することにした。


 そして、少女に案内された場所は正真正銘の馬小屋だった。

 すでに何頭かの先客がお休み中で、キミは一番端っこにある、空き部屋を使わせてもらう事になった。


 馬小屋とは言っても、牛とかニワトリも入ってるから、中々にぎやかだね。

 でも、少しずつ彼らも寝息を立て始めたみたいだ。時計は無いけど、遅い時間になったことが分かるね。


 キミは生まれて初めての睡眠を体験することになるけど……どうかな? 怖いかな?

 目を閉じて、真っ暗になって、意識を手放す。これって、結構恐ろしいことだよね。

 朝起きたら、今までの事は無くなってるかもしれない。そもそも、二度と目を覚ます事が無いもしれない。


 でも、大丈夫!

 私がきっと起こしにくるからね。キミはまだ(はかな)げな存在だけど、安心して戻ってこれるようにサポートするから。約束するよ。

 だからキミも、途中で居なくならないって約束してね。


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