2
まだいるかな?
よしよし、新記録かも。
これだけ間を空けてもキミがいるというのは、本当に素敵なこと!
……でも、まだ生えてきたところから一歩も動けてないみたいだね。
まあ、生まれたばかりだし、右も左も分からないんだから、仕方ない!
とりあえず、取っ掛かりが肝心だね。
右や左よりも、まずキミがどんな人か知るところから始めよう。
さあ、その場でぐるんと一回転してみて。
うーん……これは!
容姿端麗・眉目秀麗・文質彬彬・質実剛健!
キミはどんな形容詞を並べても足りないくらい、美しい!
さらに、そんな外見に頼る素ぶりなんかを一切見せない、とても素直で爽やかな性格!
羨ましいなぁ。嫉妬しようにも、キミの放つ穏やかな雰囲気が周囲を和ませてしまうよ。
私はキミみたいな素敵な友人をもって鼻が高い!
……さて、キミの着る服までは私は用意できなかった。
この辺りは猫ちゃん犬ちゃんモンスターちゃんばっかりだからね。人間の生活に必要なものが、あんまりないんだ。
キミは自分の置かれた状況を判断すると、赤面した。
素っ裸だもの。周りの猫ちゃんみたいに毛皮で守られていない、つるつるの玉肌を晒してしまっているわけだ。生まれたままの姿とはこの事だね!
私も眼福だと思いつつも、やっぱり見るにたえない! 目は無いけどね!
何度も言うけど、『道』の上にあるなら、ある程度は知覚できるんだ。人間のキミにはちょっと分かりづらい感覚かもね。
さあ、猫ちゃんが何処からか拾ってきたボロ切れを装備しようね。
そう、ぐるぐるっと巻いて、ぎゅっと結んで……いいね! 胸から腰まで上手く隠せたね。
ただ、ちょっと丈が短いから動くときには注意しようね。運動神経のいいキミのことだから、うまく着こなせるはずだけど。
服を着たら、ちょっと周囲を確認してみてほしい。
キミには立派な目があるから、遠くまで見えるはずだ。
……どうかな? 何か、いいものは見つかった?
……え、草や木ばかりで何も無い?
ははーん、なるほどね。どうりで人の気配が無いわけだ。
私はどうやら、道は道でも、人の作ったものではなくって、動物が通ることで生まれた『けもの道』であるらしい。
キミは人間だから、人里を見つける必要がある。
でも、この場所は生い茂る草木の真っ只中……。
キミはまだ、『道』の上じゃないと動けない。
じゃあどうすればいいか、私は考えたよ。
『道』の開拓だ!
キミが草木を刈って、土を慣らして、私をぐんぐん伸ばしていく。
そうしたら、キミの行動範囲が広がる。私の知覚範囲も広がる。二人の好奇心を満たせて、ウィン―ウィンというわけ!
それじゃ、早速始めようか。
スコップなんかがあればいいんだけど……無いから、その辺の自然の材料で頑張るしかないね。
まずは石同士をぶつけて、鋭利な石ナイフを作る。
そうしたら、ナイフを使って木から皮を剥いで撚り合わせて、ヒモを作る。
次に頑丈な木の枝を探して、さっき作ったヒモをぐるぐる巻いて先端にナイフを装着。
簡易スコップの完成だ!
うーん、キミってすごく器用だね!
その道具を使って、先に進んでみよう。
この辺はこわいモンスターが出るから、人間のキミは夜に安心して眠ることもできない。
サバイバルで何とかしようと思っちゃダメだ。
キミは華麗なスコップさばきで、バッサバッサと生い茂る草を刈っていった。
ちょっとでも硬い植物が生えてたら、迂回すれば良い。道は必ずしも直線である必要がないから、簡単なことだね。
そうして、要領よく『道』を伸ばしていったキミは、よく開けた場所に出た。
何か良いものはあったかな?
背の低い草ばかりの広々とした原っぱ。
うんうん、それから?
砂利の敷き詰められた道。
素晴らしい! それはヒトの道だ。
ちょっと私をそこまで繋げてみてほしい。
キミのスコップさばきは、すでに神の領域! あっという間に、私を砂利道へとつなげてしまったよ。
この砂利道はすごいね。どこまでも続いてるみたいだ。例えば、向こう側は大木で隠れてるけど、その後もずーっと続いていて、途中で分岐したりして……あへぇ。
私の平べったい感覚が、さらにびよーんと引き伸ばされて、ちょっと気を抜くとヒトの心を忘れそうになるよ。
という事で、知覚範囲はキミの周囲くらいという制限をかけました! 自分の中で!
さて、キミが向いてる方向は正解の道だ。
丘になってて見えないけど、そこを下ると村の入り口が見えてくるはず!
わくわくしてきたね。やっと人に会えるんだよ?
私もキミ以外のヒトと会うのは何年ぶりだろうか……。
さあさあ、足を動かして。
キミは、村についたら何をしてみたいかな?
ゆっくり考えながら、歩いていこうね。