認めたくないものだな
「ブラボー1よりアフルァ1、こちらターゲットを捕捉した。距離にして50ヤード、身長は4フィートで情報にあったリトルGに間違いありません」
無骨なヘッドセットを付けた迷彩服の男が、フェイスガードを上げて距離測定器で見ているのは、川の上流に向かっている三匹のゴブリンだった。
彼の後ろには、揃い迷彩服で炭酸ガスのエアガンを構えて膝を立てる二人の男がいる。
ブラボーチームの三人は、ブラボー1こと青木正夫中佐が率いた偵察部隊だ。
「ブラボー1、アルブァチームの到着を待つ必要はありませんぜ。安全装置を解除して違法にガス圧を高めた俺たちのアサルトライフルなら、丸腰のゴブリンを制圧するのは容易い」
「まてブラボー2! 俺は、戦場で浮足立って死んでいった新兵を知っている。まあ映画やドラマなんだが、お前のような奴が一番最初に死ぬ。確実にな」
異世界に似つかわしくない装備で身を固める彼らこそ、南粕上高校非公式サバイバルゲームサークル『ナンカス吸血鬼』だ。
ワンダーフォーゲル部と同等のサバイバル能力があり、弓道部のような遠距離攻撃が可能なサバイバルゲームサークルだが、その存在が非公式だったこと、そもそも運動部に所属していないサバイバルゲームサークルには、校外調査団への声がかからなかった。
『こちらアルブァ1の赤井大佐だ。私が到着するまで、リトルGには手を出すな』
「赤井大佐、ターゲットは川の調査に向かっている剣道部の連中を尾行しているようです。こいつは、運が向いてきたかもしれませんね」
青木中佐の無線に応えたアルブァ1こと赤井流星大佐は、サバイバルゲームサークルのリーダー格であり、本隊であるアルブァチームとともに後方待機していた。
ちなみに彼らが呼び合う階級は、なんとなく先輩、後輩、サークルでのポジションで自称しているだけである。
『そうか、我々の炭酸ガスのエアガンを玩具だと見下して、壁外調査団に招集しなかった本国の連中を見返すチャンスというわけだな』
「はい、そのとおりです」
『しかし我々のエアガンが、異世界の化物に通用するのか些か心許ない。ブラボーチームは、やはりアルブァチームが到着するまで現場に待機しろ』
「承知しました!」
無線を切った青木中佐は、歩き始めたゴブリンを追いかけるブラボー2こと渡辺仁伍長を呼び止めた。
「おい、仁。我々は偵察が任務だ」
「叩くなら今しかありません」
「手柄のないのを焦ることはない」
「赤井大佐だって、月例会のフィールドマッチで勝って出世したんだ」
「おい、命令違反する気か?」
青木中佐は、茂みを飛び出そうとする仁伍長の肩を掴むが――
「手柄を立てちまえばこっちのもんよッ、敵を倒すには早いほどいいってね!」
「それ以上はやめろ、死亡フラグが立ちまくりだぞ」
仁は下り勾配の草地を尻で滑りながら、状況の飲み込めていないゴブリンたちに違法改造したエアガンを掃射した。
勇み足の伍長が、ボロ布の腰蓑しか巻いていない子鬼の素肌に0.4gの6㎜BB弾を撃ち込むと、青色の血飛沫が飛び散る。
ゴブリンの外皮が人間より薄いのかもしれないが、チャンバーパッキンの気密性や炭酸ガスを限界まで高めたエアガンの威力は、もはや玩具の域を超えていた。
「仁、無駄弾を撃つな。0.4gのBB弾が尽きれば、威力の劣る0.25gのBB弾しか残らんのだぞ」
「こいつらを倒したら、あとで拾ってやりますよ。ここで手柄を逃せば、俺はいつまでも伍長のままだ!」
援護のために駆けつけた青木中佐は、フルオートでゴブリンにBB弾を浴びせる仁に手を焼いている。
さすがのゴブリンも、ただ黙って撃たれていなかった。
弾倉のBB弾が尽きた一瞬を見計らって、棍棒を振り上げると仁伍長の肩口に叩きつける。
「うわーッ、あ、青木中佐、た、助けてください!」
「ジーンッ、だから言わんこっちゃない!」
三匹のゴブリンに取り囲まれた青木と仁、そこに現れたのは派手な赤い軍服を着て、白い鉄兜を被った赤井大佐だった。
赤井大佐は、手にしたボルトアクションである三八式歩兵銃モデルの遊底を手前に引くと、一発ずつモンスターの目を狙って撃ち抜いている。
視界を奪われた三匹は、赤井大佐に向かって棍棒を闇雲に振り回すのだが、当たらなければどうということはない。
「青木に新兵が押えられんとはな。それにフルオートで、無駄弾を撃ちまくるとは……エアガンの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやろう」
赤井大佐は、言葉通り単発のエアガンで三匹を翻弄して見せた。
そこに遅れて到着したインド人留学生のビンディ・ヴェーダ少佐が加わった。
二丁拳銃を構えた彼女の着ている戦闘服は、もちろんベージュの砂漠迷彩服である。
「ふっ、異世界のゴブリンは化物だな」
「大佐、お守りします!」
「ビンディ、すまんな」
ボトルアクションの歩兵銃と二丁拳銃で一騎当千、鬼神のように戦う赤井大佐とビンディ少佐、そこに本隊であるフルオートのエアガンを携えた本隊が合流すると、血だらけのゴブリンが敗走を始める。
赤井大佐は深追いするなと、手を上げて銃撃を止めた。
「た、大佐……申し訳ありません」
「仁伍長は、手柄が欲しかったのだな? 本来ならば軍法会議者の失態だが、我々は月例会の直後に異世界転移したので弾薬に乏しい。貴重な0.4g弾も、兵力も、何一つも無駄にできんのだよ」
「は、はい! 一発残らず拾い集めます」
仁は他の一・二年生と一緒に、川原に四つん這いになって巻き散らかしたBB弾を拾っている。
「ビンディ、よく見ておくのだな。実戦というのは、ドラマのように格好の良いものではない」
「はい、大佐」
赤井とビンディは、サークルメンバーを残して学校に戻っていく。
彼らサバイバルゲームサークル『ナンカス吸血鬼』は、異世界生活では実践向きの武闘派サークルではあったが、所属するメンバーの性格は文化部向きだった。
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