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八話:デストラッパー・ディグ



 アンヘリア帝国の帝都を出て暫く、僕達は『壁』と呼ばれる場所の近くで野営をしていた。

 アンヘリア帝国のあるこのへリティア大陸。国はアンヘリア帝国だけという訳では無いけれど、小国ばかりなのだという。

 地図上でヘリティア大陸の殆どを占める『壁』と呼ばれる場所は、その名の通り壁。『壁』の向こうはどうやら汚染されており人が住めない状態になっているらしいのだ。僕も話に聞いた程度なので、どうなっているかは分からない。

 魔王軍が根城にしているとも、生き物が一切住めない場所になっているとも言われている。


「この『壁』の近くの村で魔王軍の幹部が暴れていると噂がある」


 僕達を先導していたジェラルドさんは『壁』を見ながらそう言った。

 ジェラルドさん云々のことで忘れかけてたけどそう言えば僕達は魔王軍を倒すために旅をしているんだったと改めて思わされる。


「か、幹部!?」

「その通称を『デストラッパー・ディグ』と言うらしい。罠を仕掛けることに長けている者らしいな」


 ふ、二つ名が付いてるって…厨二だ。


 厨二だ!!


「デストラッパーって、名前直球すぎない?」

「そう思います…」


 エルディオさんは鏡を見ながら髪の毛を確認している。ばらばらな髪の毛を切りそろえるつもりもなく、多分錬金魔術の媒介に使える髪の毛の量を確認しているんだと思う。

 アシェリーはルーン石の魔力残量を気にしながら、僕があげた髪飾りを着けている。


「まあ、名前はトンチキだがその実力は確かだ。『壁』の調査の為に駐在している人間を襲っているとの情報が沢山あったからな」

「私が集めた情報の中には、死者が出たというものもあります」


 メルクリスさんが言うと急にそのデストラッパーって人が強そうに感じる。


「まだお前は魔王軍幹部と戦えるほどの力はないだろう。と言うより、コントロールの方法がまだ見つかっていない」

「まあ、でしょうね…」

「だからお前はもしも出会ったら逃げろ」


 ジェラルドさんの言い分はもっともだ。しかし、仮にも勇者として呼ばれた僕がそうでいいのだろうか…。


「勇者って言っても、戦の無い国から呼び出された少年ってのはみんな知ってるわけよ。だから今は頼ってくれって」

「ま、何の為におれ達が選ばれたかだよな…」


 ジオードさんとエルディオさんもそう言ってくれる。だからこそ僕は強くならなきゃいけないのになあ、と思う。

 でも強くなったらその力に溺れることもあるのかな。それは怖いな。


「村で、暴れているというのは看過、出来ません…」

「そういう事だ。初めて魔王軍幹部との対面になるだろう…俺達が追い払うのを見ておけ」

「はい」


 ここは素直にジェラルドさんに従っておこう。年下のアシェリーにまで守られるのは正直プライドが許さないけど…。


 その後、『壁』周辺の村を廻り僕達は『デストラッパー』の情報を収集した。魔王軍とあまり邂逅しないことは疑問に思うこともあるけど、あちらもどうやらまだ活発化していないらしい。


「『壁』の向こう側が、奴らの根城という可能性はやはり高いだろうな」


 情報収集をしていたジェラルドさんはそう呟くように言った。『壁』の周辺での魔王軍幹部の目撃情報が多いらしい。

 『壁』の向こうに魔王軍がいるのであれば、いずれは僕達も行かなければならないんだろうか。


「きゃーっ!!魔王軍よー!!」


 遠くでドゴン!という音が聞こえると同時に人々の叫び声があがった。ジェラルドさんは剣を構える。僕も慌てて剣に手を掛けた。

 僕達が見たのは大きな爆発。その煙が晴れると共に巨体を持った魔族の男性が現れる。


「アァ?人間かァ?」


 スキンヘッドに額に傷を持つディグは肩に担いだドリルを地面に突き刺す。こ、こわ…あんなの触れたら怪我どころじゃないよ。


「俺の名はジェラルド。お前が魔王軍の幹部ってやつだな」


 ジェラルドさんが前に出てディグを見据える。ディグは「なんだ女か」と鼻で笑った。


「ほお?俺がただの女だと見くびるな……よっ!」

「じぇ、ジェラルドさん!?ひ…1人で突っ込まないでくださいっ!」


 剣を片手に突撃していくジェラルドさんを見てアシェリーが慌てて魔法陣を描き始める。僕も後ろに回ろうと足を動かすと「君は待機だ!」とジオードさんに首根っこを引っ掴まれてしまった。なんでだ。


「オレと少年は後ろで待機だ」

「で、でも……!」

「まだ魔王軍との戦闘さえ殆ど経験がないだろ。そんな奴がいきなり幹部相手は無謀だ」


 その言葉に僕はぐうの音も出なかった。それに、ジェラルドさんがディグにゲンコツをかまして…。


 え、ゲンコツをかましてる?


「魔王軍はこの程度か?少しは反撃したらどうだ」

「いただだだっ!」

「ファイアショット!」

「痛っ!?」


 これはひどい。

 ただでさえジェラルドさんがディグの頭を掴んでアイアンクローをかましているというのにその上からアシェリーが唱えていた魔術が襲いかかる。

 見事に尻に炎が燃え上がってるよ……。


「う、うわあ……」

「ねえあの人弱体化してるはずだよね?あの人味方でよかった怖いよぉぉぉぉ」


 エルディオさんがジオードさんの肩を掴んでガクガクと震えている。僕は最早あの人は人間なのか疑わしいと思ってるところだよ…。


「さて魔王軍の情報を吐け。吐かないと言うんなら俺に刺されろ」

「…………貴様ァ、よく見ると綺麗じゃねえか」

「あん?」


 うわこの状況下でジェラルドさん口説き始めたよこの人。ジェラルドさんわりとロリショタ趣味で美少女好きだから無駄だよ。


「よーしシモ潰されてえかお前」

「ごはっ!」

「ジェラルドさん仮にも今は美女なのでそういう言動はちょっと……!!」


 ジェラルドさんは容赦なくディグを殴って地面に伏せさせる。容赦のない足蹴が虚しくチーン…と響くだろう。アシェリーだけがまともに突っ込みをしている。

 いや、強すぎでしょ…ジェラルドさん。


「これメリケンサックにも使えるな」

「ジェラルドくん…一応魔法具だから丁重に扱ってあげてくださいね…」


 メルクリスさんも突っ込む事態。というか冷静に分析するとあの魔法具そう言えばチート道具みたいな感じだったよね。そりゃ筋力とかなくなった分あれで補完できるわ……やっぱり僕いらないんじゃないの????なんで勇者必要なの????


「オラッ!」

「がはっ!」


「教えてください、幹部が弱いのかジェラルドさんが強いのか」

「確実にジェラルドくんが強すぎるだけですね」


 メルクリスさんの返事に僕は空を仰ぐしか出来なかった。今もBGMにジェラルドさんが幹部を殴る音が聞こえるよ。もうこれ、この人だけでいいんじゃないかな。


「さて、こいつどうする?」

「え、ええ……どうするって」


 一通り殴り倒したジェラルドさんが紅く染った手でディグを縛り上げている。魔王軍幹部は一応捕らえるらしい。最初にそれを聞いた時は正気かと思ったけれどなんだろう、なんか大丈夫な気がしてきた。


「一応捕らえるとは言われたがどこに連れて行くんだ」

「そうですねえ。一度戻ることになりますがアンヘリアくらいの国の牢獄に連れていくくらいはしないと、ジェラルドくんがここまで無力化させたとしても危険です」

「あ、安心して……ください。護送用の、檻くらい……作れるんで」


 動かなくなったディグをエルディオさんが錬金魔術で作った檻にぶち込む。縛り上げられたまま檻に放り込まれる姿は何ともみっともないものだった。


「少年。見たか?魔王軍幹部との戦い」

「あのすみません。一切参考にならないです」


 ジオードさんはその言葉を聞くと苦笑いし「まあ、そうだよな」と遠い目をした。

 多分僕は参考にしてはいけない存在を見てしまったんだと思う。帰り道、低級モンスターを剣で叩きながら僕は返り血まみれのジェラルドさんを思い返すのだった。

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