表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

五話:エルディオさんは引きこもりたい

「おいもやし錬金魔術士さっさと表出ろ」


 うわあ、エルディオさんの綺麗な琥珀色の瞳が目も当てられないことになってる…。


「うひゃあっ!?すす、すみませんんんん」


 ジェラルドさん、ジェラルドさん。

 エルディオさんが白目剥きかけてます。エルディオさんも、ジェラルドさんに少しは逆らいましょうよ。確かに僕よりもやしなのは事実ですが。


「いくら錬金魔術士とは言え、殆ど家から離れないのはどういうことだ」


 琥珀色の瞳に青紫色のまばらな長髪を持つエルディオさん。今も滞在しているリントヴルム家の次期当主であるすごい人のはず…はずだ。リントヴルムというのは、このアンヘリア帝国で有名な錬金魔術を扱う一族だ。

 エルディオさんは研究者気質なのか引きこもりがちで、今ジェラルドさんがそれを引っ張りだそうとしている。


「お、お、お、おれは…いま研究が」

「お前、俺達の旅に着いてくるつもりあるんだろうなあ?」

「あんたはチンピラですかっ!?」


 エルディオさんの突っ込みにジェラルドさんはため息をつく。

 どうしてこうなったかは簡単だ。


 エルディオさんと一緒に冒険をしようと思っている。と僕が零したせいだ。

 ジェラルドさんと僕は不本意ながら同部屋で、ジェラルドさんは僕の事をとても気にかけている。

 僕が召喚されてそうそうに勇者の力を暴走させて村を滅ぼしたせい…とずっと思っていたけれどどうやら僕が女だったら好みの外見であったから。といういらない情報をこの前得てしまったために複雑である。

 本当に知りたくなかったよジェラルドさんが僕を気にかけてた理由がそんな事だっただなんて…。


「テイシ…」

「うん、ごめんなさいほんとごめんなさい。僕、エルディオさんと会って少ししか経ってないから錬金魔術って言うのが気になってつい」

「…そういう事なら、別にいいです。ただ、そこの脳筋ゴリラは置いていっ」

「誰が脳筋ゴリラだ?」


 エルディオさんの肩にジェラルドさんの手が食い込む。ミシミシと音を立てんばかりに力が込められてるようでエルディオさんの恐怖の顔が張り付いている。

 実はジェラルドさんがジオードさんと決闘することになった原因もジオードさんの「脳筋ゴリラ野郎」発言だったんだよね…。

 そんなに脳筋ゴリラって言われるの嫌なんだ、覚えとこ…って思った記憶がある。


「痛い痛い痛い本当に馬鹿力ですねあんた!?」

「俺にはジェラルドって名前があるんだ」


 張り付いた笑顔でジェラルドさんはエルディオさんを脅…エルディオさんに言った。

 完全に怖いよジェラルドさん。この人女になっても本気で変わらなさすぎておっぱいのついたイケメンでしかないよ。


「…何か冒険する場所のアテでもあるんですか」

「この前の遺跡にもう一度行ってみたいんです。見落としてしまっただけであの魔法具に関する情報があるかもしれませんし」


 ジェラルドさんを女の人にしてしまったあの魔法具のあった遺跡。

 探索不十分だったかもしれないというのが大きく、僕としても気になっていたのだ。エルディオさんは「確かに」と頷いて聞いていた。


「俺としてもあの場所はもう一度調べておきたい。俺だけでもテイシを守りながら潜るくらいは出来ると言ったが、お前の力量をまだ知らなかったな、とテイシが言っていたから誘おうと思っただけだ」

「勇者って…」

「し、仕方ないじゃないですか僕はここに来るまで剣道以外それらしい事やってないんですから!」


 エルディオさんの視線が刺さる。

 ジェラルドさんに守りながら戦えると言われるレベルの勇者で悪かったですね!でも普通人間急に戦えと言われて戦えるわけないと思うんです!


「それを配慮して俺やチアが選ばれてるんだ」

「…ていうか、あんた自国とかには報告したんですか、…今の、状態」

「一応。陛下からも『ジェラルドなら大丈夫であろう』と連絡が入っている」


 オーブ?とかいうアイテムで遠くにいる人物と連絡が取れるらしい。まるでRPGのアイテムみたいだなあ。

 それを使って既にジェラルドさんの自国であるステラミストに報告済だそう。


「あんたへのその信頼なんなんだよ…っ」


 エルディオさん、もしかして苦労性なのかな。


「…分かったから、準備出来たらさっさと行きますよっと…」

「そのつもりだったから必要なものは既に揃えてあるぞ」

「マジすか…」


 エルディオさんは初めて会った時、言葉にならない言葉を喋っていた。今こうしてここまで喋れる様になった事は嬉しく感じる。

 ちなみに当時のエルディオさんの言葉はこうだ。


「……ひっ!え、えふひ…えるひお…り、りんと…ふるる…れす」


 出会って最初の自己紹介。最早事故紹介である。

 訳は「……はい、え、エルディ…エルディオ…り、リント…ヴルム…です」という感じらしい。こなれた様子のエルディオさんの妹さんに教えてもらった。

 出会って1週間と少しで溶け込めたのは妹さん曰く稀だろうだ。あ、この世界での暦は基本は僕の世界と同じらしい。だから1週間の概念もある。

 僕の世界での4月がこの世界での1月になるくらいと、祝日の概念が違うだけで。参考までに今日は9の月、25の日である。

 日本で言うと12月25日。そう、今日はクリスマスだったのだ。数えるまで忘れてた。

 ついでに僕の誕生日は9月16日。この世界で言うとの6月、16の日生まれだ。まあ今は関係ないか。


「そう言えば、ジェラルドさん魔術使えるようになったって言ってませんでした?」

「ああ、この魔法具が古代魔術仕様だからな」


 ただでさえ強いジェラルドさんが魔術身につけるとか僕絶対要らないよね!


「……モンスターのお出ましみたいですよっと」


 エルディオさんに言われて僕は見上げる。前来た時にはここには蝙蝠型のモンスターがいた。恐らく同じ種族のモンスターが出てくるだろう。


「力の元素、起動。ソードエンチャント」


 ジェラルドさんが突然初めて聞く言葉を唱え始めた。まさか、それが魔法具の能力?

 ジェラルドさんの構える片手剣にへにゃへにゃとした文字(これがルーン文字かな??)が連ねられていって、赤いオーラを纏う。


「せいやああっ!」


 ジェラルドさんが敵を斬りつける、僕はとろとろと蝙蝠型のモンスターに攻撃を当てようとしている間にジェラルドさんは敵を殴っている。


「強すぎだろ……」


 エルディオさんも呆れたようにジェラルドさんを見ている。

 僕達のパーティ、前衛が他僕とジオードさんしかいないもんなあ…ジェラルドさんに頼りきりなのは否めない…。


「えいっえいっえいぁ、いったあ!」

「テイシ!」


 僕だって!と思いながらモンスターに向かった矢先突っつかれてしまう。ジェラルドさんが僕を突っついてきた敵を殴り飛ばし、モンスターが壁に打ちつけられる。

 …打ち付けられた壁に、ヒビ入ってません?


「怪我、無いか?」

「な、ないです…ありがとうございます」


 ジェラルドさん女になっても力強いんだからエンチャントする意味無いんじゃないかな。

 脳筋だとかゴリラだとかは言わないけど。僕が殺られる。


「無の元素、起動。理を変換し今ここに我望む物を!」


 エルディオさんはそう言って勢いよく手持ちのナイフで髪の毛を一房切り落とした。切り落とされた髪の毛は苦無に変化して敵に突き刺さっていく。

 これが錬金魔術らしい。エルディオさんは自らの髪の毛を媒介に、別物質へ変換、武器にするのだ。

 物凄く簡易的なものに見えるが、同じく錬金魔術を扱うチアさん曰く錬金魔術の名家であるリントヴルムの人間だからこそのとてつもない技らしい。


「…遺跡の構造はある程度覚えています。…だ、だからおれが案内もできるんですからねッ!」


 エルディオさん、23歳らしいけどなんだか幼いよなあ…まあ、メンタル脆いのもあるかもしれないけど。


「おう、じゃあ案内してくれ」

「…魔法具があった場所を、探索、します」


 ジェラルドさんが女になって、倒れて、有耶無耶のままに立ち去ってしまったあの場所。

 僕が考え無しに魔法具に手を伸ばさなければ…。


「テイシ」

「…どうしたんですか?」

「何でもねえ。だが、俺の事についてお前が考える必要はねぇ。エルディオ、お前もだ。2人してジメジメした空気すんな」

「ひっ!?べ、別におれなんも考えてませんしっ!?にら、睨まないでくださいあぁ!」


 ジェラルドさん、どんな睨み方したのさ。エルディオさんはそのまま走り去ってしまうじゃないか。

 …って、走り去る??


「ジェラルドさんやばいよエルディオさんいないと僕達迷子になる!」

「ああ、そうだった。だがあいつの足くらいなら十分に間に合うだろ」


 エルディオさん、逃げ足「だけは」速いタイプだと思うんだよね。僕じゃ間に合わないかもしれない…しかも遺跡というからには暗いし。ジメジメするし。


「失礼するぞ」

「ぇ」


 ジェラルドさんの言葉と共に僕の視界が揺れる。体が宙に浮き、ジェラルドさんの顔が近くなる。うわ綺麗…じゃなくて、待って。

 僕の思考は置いてけぼりでジェラルドさんはエルディオさんを追いかける。


 僕を姫抱きしたまま。


「なんで僕がされる側なんですかーっ!」

「お前足遅いだろ。あいつに追いつけない」


 勇者ってなんなんだろう。僕は薄れそうになる意識を抑えながらジェラルドさんに姫抱きされて行った。

 あの…とりあえず…その…胸は…うう…。


「…はあ、はあ…こ、ここは…」

「おい逃げんなエルディオ!」


 いつの間にかエルディオさんに追いついたのかジェラルドさんの動きが止まる。よく周囲を見てみれば、ここはジェラルドさんがあの魔法具を見つけた場所だった。


「ここ…」

「あの場所か。エルディオ、探索できるか」

「……まあ。テイシはこっちの字、まだ読めないんですよね」


 ジェラルドさんにゆっくりと降ろされて、僕とエルディオさんは魔法具のあった跡を見つめる。


「なんか書いてあるんですか」


 傍には石版があり、何かが彫られているようだった。僕にはそれを解読する手段がなく、こちらの世界の字だと察した。


「……『勇者とそれに連なる者よ、魔王を倒し、世界を平和へ導き給え』」

「勇者!?」


 実はこの魔法具、当たりだったの!?


「魔王を倒す為に必要なものだったのか…」

「でも、どうして女の人に?」


 これ以上の情報がないかとエルディオさんが石版についた砂埃を払う。その下から出てきた文字を見て、エルディオさんは顔を顰める。


「これ、おれには読めない字だ。テイシ、あんたなら読めるんじゃないんですか」

「え?何これ…日本語…」


 下から出てきた文字は、日本語だった。

 勇者は日本人しか召喚されないという事なのだろうか…?


 そこに書いてある文章は…。


 俺の後に来た勇者X

 こX魔法具を貴方に託します

 これは、勇者か、勇者に近しい者しか装着する事が出来ません

 貴方が信頼出来る相手に装着させるか

 貴方自身が付けるX良いでしょう

 しかX、この魔法具は不完全です

 性別反転Xデメリットが掛かり、装着者の性別が反転します

 デメリットをXXして、装着しXください

 俺は西X20XX年のX本人


 ここ以降は、完全に擦り切れて読めない。

 ただ、これで分かったことはある。


「…デメリット、性別反転…?」

「そう書いてあるのか?」


 書いてある事が分からないジェラルドさんとエルディオさんは僕の話を聞いてこの石版の内容を知るしかない。


「はい。過去の勇者がここに残したらしいです。勇者か、勇者に近しい者が装着できるとか」

「エルディオ、デメリットとは何だ」

「文字通りですよ。……でも…デメリットかあ…」


 エルディオさんは面倒くさそうだ、とでも言うような顔をして頭を抱える。


「…デメリットって、そうそう治せるもんじゃないですよ。…ジェラルドさん、お、女でも十分強いですし…諦めたらどうっすかあ」

「お前に聞いた俺が馬鹿だったよ」

「とりあえず、今のところ情報はこれくらいですね。帰りましょうよ」

「そうだな」


 錬金魔術も見れたことだし、僕としては満足だ。それにいつまでもここにいる訳にもいかないだろうし。


「はあ、疲れました…おれは明日からまたひきこも…」

「えっダメですよ引きこもり良くないです。毎日体動かさないと」


 いくら外に出るのが苦手でも、家に引きこもってたら体悪くなりますし。

 エルディオさんは僕に言われると思っていなかったのかあからさまに嫌そうな顔をした後に「勇者サマの言うことなら仕方ないですねえ」とため息をついた。ジェラルドさんに殴られてたけど。


「お前も仮にも勇者御一行の一員だろうが」

「知らねーよ!何故かおれが行くことになってたんですよ!」


 ガバガバな敬語だったり、色々気になる部分はある人だけど、きっと苦労性なんだろうなあ、この人。


「ご家族も、エルディオさんが運動不足なのを見越して…?」

「マジで勘弁して欲しいわあ…」


 いつまでもここで駄弁っているわけにもいかないので、この日はそのまま解散する事にした。

 魔法具について多少分かったけど、石版とかの文字をちゃんと呼んでたら僕があれを装着してたのかなあ。というか、勇者に近しいものって、なんなんだろ。日本人とか?ジェラルドさん、一応半分は日本人の血が流れてるし。

 まあ、そういう難しいことは僕の専門外か。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ