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三話:ジオードさんは失恋したようです

 ジェラルドさんが女の人になってしまって数日。僕達はアンヘリア帝国の帝都にあるリントヴルム家にお世話になっていた。

 エルディオさんが融通をきかせてジェラルドさんが体にある程度慣れるまで泊めてくれることになったそう。


「よお少年。鍛錬の成果は出てるか?なんならオレと勝負でもどうだい?」


 僕が1人で鍛錬をしていると、僕たちの仲間の1人であり、傭兵のジオードさんがやって来た。


「ジオードさん、目赤くないですか」

「うるせいやい」


 ジオードさんとの出会いは、僕達が旅を始めて数日経った頃なのはまだ記憶に新しい。だって旅を始めてまだ2ヶ月と少しなのだから。

 僕達が出発したホラスト大陸のステラミスト王国から1.2日程で着くゲンダース共和国。勇者一行は各国から最低1人は代表が出されるらしく、ジオードさんはゲンダース共和国の代表だった。

 その時にまだ男だった時のジェラルドさんと決闘をする事になって、ジェラルドさんが完膚無きまでにボコボコにしたんだけど、そのせいで頭を打ったのかジェラルドさんに惚れてしまっていた。

 妻子のいる36歳。自称ゲイではあるからジェラルドさんは好みのタイプだったのかもしれない。しかし奥さんは相当に嫉妬深いらしく浮気は一切許さないんだそう。自称ゲイのジオードさんを選んだのは他の女に靡かないからという理由もあるとか。


 そう、このジェラルドさんが女の人になってしまったという現状はジオードさんにとっては死活問題なのだ。すっぱりとジェラルドさんを諦めてしまえばいいのに。

 というか、ジオードさん奥さんのことは大切にしてるらしいし本当にゲイなのか怪しいところではある。奥さんだけ別なのかな…。ジェラルドさんの胸には興味なさげだし。


「スパッと諦めちゃいましょうよ。ジオードさんの身のためでもありますよ」

「そういうんじゃなくてさあ…」

「そんなにジェラルドさんが女の人になったのがショックなんです?」

「失恋だよ失恋…」

「失恋したのにスーパーポジティブなチアさん見習います?」

「あれはもう狂ってるだろ…」


 ジオードさんもどうやらチアさんの奇行は耳にしているらしい。

 ジェラルドさんが女の人になって以来、どうもおかしくなってしまったチアさん。ジェラルドさんが「今は同性とはいえ俺気持ちは男のままだから…」と同部屋を拒否しなければどうなっていたか。

 ちなみにジェラルドさんは護衛らしく僕と同部屋です。そっちは良くてもこっちはめのほよ…目に毒です。その大きいそれをはだけさせないで欲しいです目がいって眠れません。


「ともかく、だ。オレと勝負しようぜ」

「勇者様に怪我させられちゃあ俺が困るんだがなあ。ジオード?」

「ほげらっ!?」


 ジオードさんが鍛錬用の木刀を構えようとした時、背後からジオードさんを蹴り倒すジェラルドさんがいた。

 よ、容赦ない…。


「ジェラルド君…何も蹴るこたァないだろ」

「人様の護衛対象に勝手に勝負申し込みに行く馬鹿がいるか」

「というか少年はオレにとっても護衛対象!ほら、ここはもう少し少年に強くなってもらわないとーって」


 なんと白々しい。八つ当たりじみた言い方だったくせに。

 そう言えばジオードさん、ジェラルドさんが女の人になってからスキンシップ減ったな。やっぱ過去に何かやらかしてるよなこの人。その時に奥さんに灸据えられてトラウマになってるやつだ。


「しかし女になってもお前を見下ろせるのは運が良かったな。これで気兼ねなくお前をボコれる」

「オレはジェラルド君に触れなくなっちまったよ…」

「心底安心してる」


 ジェラルドさんもジオードさんには流石に何かしらの危機を感じていたらしい。まあ、スキンシップ絶えなかったもんねこの人…。しかしエルディオさんとかじゃダメなのか。


「ん?ジェラルドさん、ジオードさん見下ろしてるの」

「みたいだな。まあ元々190近くはあったわけだし、ジオードもそんなでかくはなかったからな」

「やっぱバレーボール選手じゃん…」

「この前も言ってたがそれなんなんだ?」

「女子は170~180位が平均のスポーツ」

「ふーん」


 まあ、元々ジェラルドさんは男子バスケにでもいそうな体格の良さだったが、生憎こちらの世界でそれらしいスポーツを見たことが無い。

 ホラスト大陸がそうだっただけで、日本と交流があるらしいへリティア大陸…特にこのアンヘリア帝国にはもしかしたらあるのかもしれないが。


「じゃあオレは何かないの、やってそうなスポーツ」

「バレーボールやバスケにも背が特段高い訳でもない人だっているし、ジオードさんなら大抵のスポーツ出来るんじゃない?」


 ちなみに僕は元々スポーツは得意ではなかったが勇者としての恩恵なのか運動能力は底上げされている。今なら某超次元サッカーの必殺技も撃てるかもしれない。


「ふーん、1対1で出来るようなスポーツないの」

「あるにはありますけど…というか、こっちの世界にはなにかスポーツないんですか」

「ない訳ではないが…俺は生まれてからずっと母上に剣術を仕込まれていたからな」


 ジェラルドさんのお母さんか…どんな人なんだろう。というかジェラルドのお母さんが剣術やってるのか。


「アンタあれだよな、少年と同じような種族の血が入ってるだろ」


 実はこの世界に日本人がいることは特段不思議でもないらしい。アンヘリア帝国では2年ほど前からこの世界と僕のいた世界…特に日本の交流があるのだとか。まあ、それを踏まえても23歳のジェラルドさんのお母さんが日本人なのは不思議なんだけど。

 自由に行き来は出来るらしいが勇者として呼ばれた僕は別らしく、帰ることは出来ないらしい。前の勇者さんとか今何やってるんだろ。


「え、それって日本人ってことですか」


 ジオードさんに言われて僕はジェラルドさんの顔を見る。体格と色味に誤魔化されてすっかり西洋系だと思っていたけれど、確かに日本人系と言われればそうかもしれない。顔もどことなく安心するというか、ドキドキするというか…。


「普通に美人さんですねジェラル子さん!」

「ジェラル子ってなんだおい。…俺の母親は確かにニホン出身とは言っていたが…あ、あれスポーツになるか?」


 ジェラルドさんは突っ込むのが面倒なのか適当に流してしまった。だってジェラルドって呼び方のままだと違和感すごいんですよ…。


「あれってなんですか」

「けんどーって奴。母上が兄弟全員に仕込んでた」

「ジェラル子さんって何人お兄さんがいるんでしたっけ」

「だから子ってなんだ。8人いるな…俺は末の子だ。だからか母上がやけに過保護でなあ…」


 きゅ、9人兄弟…。僕の居た日本なら絶対大家族としてバラエティに出るやつ…!


「日本では古来より女の子には子と付ける習慣があったので。いや、例外は居ますけど」

「そうなのか」


 小野妹子はずっと女性だと思ってた人、僕も一緒だから同意して欲しい。ずっと!女の人だと!思ってた!


「で、剣道ですね?はい、僕の母国日本のスポーツですよ。僕も昔やってました」

「昔って、何年ほど前だ」

「うーん…8歳位でしたかね、だから5年前です」

「5年前でお前が8つか…8つの頃から剣技のスポーツやるとかニホンは一体どんな国なんだ」

「いやいや、僕より前からやる人いますって」

「はあ…?」


 ジェラルドさんと僕、10も歳が離れてるからなあ…。

 しかしジェラルドさんの中で日本という国が変に見られてる気がしなくもない。日本は別におかしい国ではないと思いたい。今は戦争もやってないよ!

 ジェラルドさんから前に聞いたけどこの世界では剣術は10歳を迎えないと教えられないそう。昔ヘリティア大陸で大規模な戦争があって、あまり小さな子供には攻撃系の魔術も教えられないらしい。

 だからヘリティア大陸にはアンヘリア帝国以外の国はあるけどもあまり大きくないんだとか。

 まあ、それはひとまず置いておいて。


「ちゃっかり2人の世界に入ってんじゃないよお少年達ぃ」


 ジオードさん忘れててすみませんー!!

 でも喋らないと存在忘れますって。


「すみませんジオードさん素で忘れてました」

「うわあオレ泣いちゃうぞ」

「今更目を赤く腫らしといて何を言いますか」


 まあ泣いてはいたということはガチ恋ではあったのだろう。南無。

 …サラッと流してるけど、妻子持ちだから相手が男だとしてもアウトじゃない?なんてのは野暮なんだろうな。きっと。


「2人の世界とはなんだ。お前が会話に入ってこないだけだろう」

「ジェラルド君には分からないんだろうなぁー!だからチアもおかしくなるんだよ」

「?何故そこでチアが出てくる」


 ジェラルドさん、これでも一応ナンパ男だったんです…。ナンパ失敗する理由、働かない表情筋以外にもあったんだね。だいぶデリカシーを母親のもとに置いて行ってしまったレベルだよ。


「…はあ。でも、チアには注意しとけよジェラルド君。これおじさんからの忠告な。ああいうタイプは振り切れるとやばい」

「まあ、チアが最近おかしい気はするが…」

「僕の中のミステリアスなチアさんのイメージ崩れましたからね」


 幼馴染だとしても、恐らくジェラルドさんはチアさんのことを理解出来ていない。

 ねえなんでこの人ナンパ男名乗れてたの??ただ単に道行く女の人に話しかけてただけの変な人じゃないの?まあ一応王国騎士、それも割とすごい方らしいからそれなりの地位はあるんだろうけど。


「とにかく!オレはヤケ酒に行ってくるわー」


 ジオードさんはこの場から逃げようとするが、僕は知っている。知っているんだ。


「ジオードさんこの前も飲みすぎてグロッキーになってアシェリーに禁酒させられてたでしょ!」


 ジオードさん、お酒、強くない。

 ちなみにジェラルドさんは酒豪だ。僕がアシェリーとジュースを飲んでた横で平然とした顔で樽を3つ開けてたのは忘れない。女の人になって流石にそこまでは呑まなくなってる…とは、思いたい。うん。


「うるせいやーい!」

「忘れ物だぞ」

「ぶげらっ!」


 それでも逃げようとしていたジオードさんにジェラルドさんはジオードさんの武器である鎖鎌を投げる。 元々傭兵のジオードさんは大体の武器は使えるそうだが今は鎖鎌を用いている。あ、鎖部分がジオードさんの頭に当たった。痛そうだなあ…でもこの世界の人間は僕の世界の人間よりは頑丈らしいしジオードさんなら大丈夫だろう。


「あいつも懲りないな…」

「ジェラルドさん、今の姿でお酒って飲めるんですかね」

「今夜俺とあいつで競うか」

「お酒は自費で出してくださいよ…?」


 さらっとジオードさん巻き込まれてるし…。


 ちなみにこの後本当にジェラルドさんはジオードさんと飲み比べをやって樽を4つ開けてました。

 あの人一体何なの??????ねえ、僕要らなくない????ジェラルドさん何者なの??


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