桃から生まれた英雄
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ある日、あるところに、爺さんと婆さんがいた。
2人の家は、村からは外れたところにあり、2人は殆どを時給自足で賄っていた。
それでも賄いきれないものは、畑で育てた作物や婆さんが仕入れた布で作った着物なんかを村で売り、金銭を得て買っていた。
この物語は、そういう、むかしむかしの民話に基づいている。
爺さんは土の調子を見に、畑に行った。
「爺さんも、土の健康を見るのが好きっちゃなぁ...」
婆さんは呟く。
そうして、とれた作物を洗おうと、川へ向かった。
川に着くと、誰もおらず、婆さんは少し気分が良くなり、鼻歌を歌いながら野菜を洗い始めた。
すると、視界の端っこで、大きなものが動いてるのを感じた。
(岩か...?)
婆さんは急いで振り向くと、それは桃だった。
ちょうどそれは腕一回り抱き抱えられるくらいのサイズで、婆さんは辺に誰もいないことを改めて確認して、その桃を川から引き上げた。
地面においてみると、やはり普通の桃とは大きさが違いすぎて、婆さんはまた驚いた。
(山のてっぺんに、呪い師でもいるんじゃろうか...)
そんな話は聞いたことがない。
婆さんは天が与えた褒美と考え、その桃を持って帰ることにした。
作物を入れてきた籠になんとかしまいこみ、家に帰るとちょうど爺さんが帰ってきた頃合いだった。
「なんじゃい、婆さん。村で桃を買ってきたんかいな」
「違うんですよ。天からの恵みです。」
「はて、婆さん。頭がおかしくなったかいの。」
ひとまず家の床においてみると、やっぱり普通の桃とは大きさが違った。
「今日の夕飯はこれを食べましょう」
婆さんは提案した。
爺さんもそれを承諾し、桃を切るための包丁をもってきた。
「これくらい大きい方がよかね」
「さて、お爺さん、切ってくださいな」
爺さんは包丁を握りしめ、桃に切れ込みをいれた。
すると、不思議な力で包丁は跳ね除けられ、桃がパカンと開いた。
驚いたことに、中から子供がててきたのである。
桃の果汁でドロドロになっているが、中に包まれたのが赤子だというのはすぐにわかった。
いつのまにか桃の果実はなくなり、ドロドロの赤子だけが残った。
「婆さん、やはり、夕飯は必要そうじゃ。3人分じゃ。」
ちょうどその頃、村では寄り合いが開かれていた。
「鬼には困ったもんじゃ...」
「やまほど宝や食べ物を差し出しているというのに、わかってくれんのう」
「うちは娘を鬼に渡した。それでも許してくれぬ」
「うちなんか、先祖代々伝わる包丁を差し出したのですぞ」
「ありゃあ、ただの石ころじゃなかったのかいな」
「なんですと!次の貢物はあんたにしてくれるわ!」
「ワシなんかいったって、食い物にもならんわい」
「はて、どうしたものか。」
鬼が村を襲い、村のコミニュティは極めて緊迫した状態にあった。
何日か経つと、桃から生まれた赤子は、すくすくと驚異的な速さで成長した。
生まれた赤子は女の子だったので、桃子と名付けた。
桃子はすぐに大人になり、立派な女性の姿になった。
「桃子、お前はどうして...」
「お爺さん。私は、常人ではありません。その意味は、すぐにわかるでしょう」
「婆さんや、お茶をくんでくれんかの」
「私がやりますよ、お爺さん」
爺さんも婆さんも、自分の娘として育てていたが、1週間でこれほどになってしまったことに、気味悪さを感じていた。
そんなとき、家に訪問者がやってきた。
「都のもんですわ」
「おお、どうしたのですか」
「いや、どうやらお二人が人攫いをしてるなんて噂を聞きましてね」
「そんな馬鹿な」
「私どももそう思うのですよ、だから、こうしてちょっと確認をと思いましてね。おや、そこの娘さんは?」
「その娘は...」
「私は、桃から生まれた、桃子です。」
役人は、あからさまに不審がった。
「いやいや、冗談がおじょうずなようで。」
「冗談ではありません。私は、正真正銘、桃から生まれたのです」
「このお嬢さんは大丈夫なのですか?」
役人は爺さんと婆さんに問いただした。
「申し訳ありません。すこし今日は気が動転しているようで....」
「さあさあ、お役人さん、お茶でもどうです。」
「いや、結構ですわ。また改めます。」
役人はピシャリと門をしめ、せかせかと出ていった。
「桃子や、あんなことを言っては困るじゃないか」
「だって、本当のことです」
「嘘をついた方がいい時もあるんだよ、桃子」
「そんなの嫌。私は、私なの。」
ウウム。爺さんも婆さんも、ただ唸るばかりになった。
門を開ける音がした。
「都のもんです」
「おお、こんな朝早くに。どうしたんです?」
爺さんが畑仕事の準備をしている時だった。
「悪いけど、そこのお嬢さん預からせてもらいます」
役人の後ろから、村の若い衆が顔を出した。
「そんな、どうしてです。この前この子は捨て子だと....」
「お爺さん、証拠がありませんのや。残念ですけどな。」
「やめてください!この子はうちの子です!」
婆さんが金切り声をあげた。
「川の、桃から生まれた?」
役人が冗談めいていうと、若い衆がいやらしく笑った。
「とにかく、これは村の寄り合いで決まったことですわ」
「そんな、馬鹿な。私は、その寄り合いに、」
「いまさら、そんな事いわんといてください。こちらもこちらの話があるんですわ」
若い衆が爺さんを押さえ込み、婆さんを避け払うと、桃子を抱えあげ連れ去った。
「それじゃ、お二人さん。この話は、これでおしまいですわ。」
門をまた、ピシャリと閉めた。
「お役人さま、上手くいきましたね」
「あぁ。どうじゃ、こんなもんじゃい」
「じゃ、あの女、岸に連れてきます」
「頼むぞ」
「流しちまう前にいっぺん....?」
「だめだ。許されん。鬼に渡す大事な生贄なんだからな」
「へい、わかりやした」
桃子は、鬼ヶ島へと流された。
鬼への生贄になったことを知った爺さんと婆さんは、酷く悲しんだが、そもそもあれはひと時の夢と考え、立ち直って生活をしていた。
あれから誰も訪問者はなく、平穏な日々を送っていた。
そんなとき、門を、トントンと叩かれた。
婆さんが何も考えずに開けた。
「どうして桃子....」
「どうやって....?」
桃子は、2人の前に立っていた。
しかもその後ろに、あの時の役人や若い衆を縛り付けた鬼もいた。
「私は、常人ではないのです。」




